ホンダ・ステップワゴンe:HEVスパーダ プレミアムライン(FF)
スマートな選択肢 2022.08.19 試乗記 ターゲットはずばりミニバン・ネイティブ世代! 新しくなった「ホンダ・ステップワゴン」は、“クルマといえばミニバン”という環境で育った世代に本当に刺さるのか? 実際に試乗して気づいた、ホンダが思い描く新時代のミニバンの魅力とは?好感が持てるシンプル&クリーンな存在感
1996年にデビューした初代から26年、6代目となった新型ホンダ・ステップワゴンに試乗した。興味深いことに、6代目ステップワゴンの想定ユーザーは、初代が登場したときに子どもだった世代だという。1996年に5歳だったとしたらいまは31歳になっているわけで、最初に乗ったクルマがミニバンという、デジタル・ネイティブならぬミニバン・ネイティブの世代だ。
平べったいクルマこそかっこいいと刷り込まれているスーパーカー世代とは逆に、物心ついたときからミニバンに乗せられて育ったミニバン・ネイティブは、クルマは背が高くて四角いのがあたりまえだと感じるのだという。では、ミニバン・ネイティブに新しいステップワゴンはどのように響くのか?
新しいステップワゴンの特徴として、コワモテ化するミニバンのなかにあって、あえてシンプルでクリーンなスタイリングを採用したことが挙げられる。ルームミラーに映っても怖くないし、街の景色がギスギスしないから、個人的には歓迎したい。
新型ステップワゴンには「エアー」と呼ばれる標準仕様と、より大きなフロントグリルが存在感を放つ「スパーダ」の2つのスタイルがあり、よりすっきりした印象のエアーのほうが新型の個性をよりわかりやすく表現しているように感じる。
今回試乗したのは、スパーダの外観にクロームメッキの装飾を施し、内装の素材にも凝った最上級仕様の「スパーダ プレミアムライン」。「オデッセイ」なきいま、ホンダのミニバンのフラッグシップという重責を担う仕様だ。他のグレードは定員7名の仕様と8名の仕様をそろえるが、スパーダ プレミアムラインは7人乗り仕様のみとなる。
新型ステップワゴンのもうひとつのトピックは、従来型より全幅が55mm広がって1750mmとなり、ついに3ナンバーサイズとなったこと。これまでのステップワゴンは5ナンバーサイズのミニバンと呼ばれてきたけれど、これからはミディアムクラスのミニバンと呼ばれることになる。
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実用車のパワートレインとして文句なしの「e:HEV」
新型ステップワゴンのパワートレインは2種類。1.5リッターのターボエンジンと、2リッターエンジンとハイブリッドシステムを組み合わせた「e:HEV」で、試乗車は後者のハイブリッドモデル。ガソリンターボにはFFと4WDが用意されるけれど、e:HEVはFFのみとなる。
運転席に座って感じるのは、室内の眺めがすっきりしているということ。その理由はダッシュボードの上端がそのままサイドウィンドウの下端につながり、水平を保ったまま室内をぐるりと一周しているから。シンプル&クリーンというエクステリアの世界観がインテリアにもシームレスに展開されているのは、見ていて気持ちがいい。
しかも、見かけがすっきりしているだけでなく、このデザイン処理のおかげで車体の四隅が把握しやすいように感じる。ホンダによれば、2列目シート、3列目シートに座る人のクルマ酔いを防ぐ効果もあるという。
ハイブリッドシステムを起動して、ボタン式のシフトセレクターでDレンジをセレクト、ブレーキをリリースして走りだす。発進加速は実に静かで滑らか。というのもe:HEVは、エンジンで発電、その電気を使ってモーターで駆動するというのが基本的な役割分担。高速走行では、その領域だと効率がいいエンジンが主役になるけれど、市街地を走る程度ならほとんどモーター走行なのだ。
インパネのエネルギーフローの表示を気にしていると、割と頻繁にエンジンが始動していることがわかる。けれど、それを見なければいつエンジンが動いたのかわからないくらい、音も振動も感じない。ましてや2列目シート、3列目シートにお座りになる方は、ボンネットの下で複雑な仕組みが作動していることに気づくことはないはずだ。
このように、パワートレインは黙々と働く黒子に徹しているけれど、実にいい仕事をしている。アクセル操作に対するモーターの反応は素直で、必要なときに必要なパワーがすぐに提供されるのだ。これで取材時の実燃費は17.3km/リッターと優秀だったから、実用パワートレインとして文句のつけようがない。
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魅力はナチュラルなドライブフィール
実は、ホンダのe:HEVの出来がいいことは、他のモデルでの経験からある程度の予想がついていた。予想をはるかに上回ったのが、乗り心地のよさと確かな操縦性だった。まず市街地では、サスペンションがゆったりと伸び縮みすることで実現した、懐の深い乗り心地に感心する。舗装の荒れた部分や道路のつなぎ目を突破しても、生じるショックを上手にやわらげてくれる。
ではソフトなだけの足まわりなのかといえば、さにあらず。高速道路のコーナーではしっかりと踏ん張り、ドライバーに安定感と安心感を伝えてくれる。前述したような道路のつなぎ目に遭遇しても、ショックを受けたあとのボディーの振動がスッとおさまる。あたりはやわらかいけれど、芯は強い方だとお見受けした。ハンドルの手応えもごく自然で、実に穏やかな心持ちで運転ができる。
何時間か運転を続けてしみじみと感じたのは、運転席のシートのよさだ。シートの一部に体重が集中することなく、腰から背中にかけてを包み込むようにホールドしてくれる。見た目は凝った形状ではないけれど、中速コーナーが連続するような場面では名ばかりのスポーツシートよりはるかに上手に身体を支えてくれる。
身体をカーッと熱くするようなファン・トゥ・ドライブはないし、ミニバンにそんなものを求める人もいないだろうけれど、パワートレインも足まわりもシートも、身体の一部のように感じるナチュラルなフィーリングがこのクルマの最大の魅力だ。
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決して派手ではないけれど
2列目シートを試す。前後に865mmもスライドする効果は大きく、一番後ろまで下げると足元は広々。しかもスパーダ プレミアムラインにはオットマンが標準装備されるから、2列目シートに座る方は快適に過ごせるだろう。反対に一番前に出すと、助手席からチャイルドシートに座ったお子さんのケアができる。
特筆すべきは3列目シートが意外ときちんと座れることで、背もたれを高く、座面を厚くした効果を体感することができた。東京から軽井沢までここに座らされるのはスペース的にキツいけれど、東京から木更津ぐらいだったら問題ない。もうひとつ、走行中に2列目、3列目で感じるノイズは従来型よりかなり低減されている。車内の会話も弾むだろうし、ボリュームを上げなくても音楽を楽しめる。
加えて3列目シートは、簡単な操作で床下に格納できる。きれいにおさまる様子を見ると、ライバルの左右に跳ね上げる方式よりスマートに感じられた。で、この“スマート”という言葉が、新型ステップワゴンというモデルを象徴しているように思う。これみよがしに飾り立てないデザイン。どこがすごいというわけではないけれど、ナチュラルなドライブフィール。そして機能的なシートアレンジ。
ミニバンがあってあたりまえの環境で育ったミニバン・ネイティブの皆さんは、コワモテのフロントマスクでエバったりするのではなく、派手ではないけれど必要な機能をきちんと整えた、こんなモデルを好むのではないだろうか。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ホンダ・ステップワゴンe:HEVスパーダ プレミアムライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4830×1750×1845mm
ホイールベース:2890mm
車重:1840kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6200rpm
エンジン最大トルク:175N・m(17.8kgf・m)/3500rpm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(31.2kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)205/55R17 95V/(後)205/55R17 95V(ブリヂストン・トランザER33)
燃費:19.5km/リッター(WLTCモード)
価格:384万6700円/テスト車=399万4430円
オプション装備:ボディーカラー<スーパープラチナグレー・メタリック>(3万8500円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<プレミアムタイプe:HEV用、キャプテンシート車用>(6万2700円)/ドライブレコーダー<DRH-224SD>(3万3000円)/工賃(1万3530円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1725km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6)/高速道路(4)/山岳路(0)
テスト距離:163.1km
使用燃料:9.4リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.3km/リッター(満タン法)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。