第720回:歴代最高の氷上性能をうたうヨコハマのスタッドレスタイヤ「アイスガード7」を雪上で試す
2022.09.01 エディターから一言![]() |
「アイスガード7」は、雪にも氷にも効く歴代最高性能をうたうヨコハマの最新スタッドレスタイヤ。さまざまな新技術を惜しみなく盛り込みレベルアップしたという雪道性能を確かめるべく、冬の北海道・旭川へと飛んだ。
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誕生20周年を迎えたアイスガード
東京をはじめとする関東以西の非降雪地帯に暮らす人にとっては、残暑厳しい今のタイミングでスタッドレスタイヤを話題にすると「えっ! もう冬タイヤのハナシ?」と受け取られてしまいそうだ。けれども、北海道をはじめとする厳冬の降雪地域に住むドライバーのなかには、9月の声を聞けば早くもスタッドレスタイヤへの交換時期が気になってくるという人も少なくないはずである。
今回紹介するのは、2021年の9月1日に発売された横浜ゴムのアイスガード7。同社の乗用車向けスタッドレスタイヤにおいて、最もプレミアムかつ最新のラインナップだ。アイスガードはそのネーミングからもわかるように氷上性能の向上に注力していることを示唆し、2022年でブランド誕生20周年を迎える。
ちなみに、「氷に効く、永く効く、燃費に効く」を掲げて来た先代のモデル「アイスガード6」に用いられた基本コンセプトは継承しながらも、氷上と雪上性能のさらなる向上を追い求めたというのが、第7世代に進化したこのモデルの主たるアピールポイントである。
なかでも、氷上性能のアップについては絶対の自信があるとし、自ら「ヨコハマのスタッドレスタイヤ史上最高の氷上性能」と明確なるセリングポイントを掲げている。
工夫されたトレッドパターン
そんな前口上に触れながら実際のタイヤへと目を移すと、スタッドレスタイヤの最新トレンドに沿うかのような設計が見て取れる。まず印象的なのは、路面との接触面積を可能な限り大きく確保するべくショルダー部分の丸みを抑えたスクエアショルダーの採用と、一つひとつのリブやブロック部分が幅広で大きめに設定された新しいトレッドパターンである。
一方で、そうしたサイズに対して接地幅を広くした数々の工夫が認められるなかで、接地するエリア内にさまざまな方向を向いたグルーブや多数のサイプが刻まれているという点も特徴といえる。
端的に言えば、そうしたデザインは主に前者が氷上性能を向上させるための手段で、後者は雪上性能向上のためにトレッドパターン内にできる限り多くのエッジ成分を持たせるための取り組み。ちなみに、そんなパターンをさらに子細に観察すると、トレッド面の両端に近い部分のグルーブはサイプと並行に近い角度で刻まれているのに対して、トレッド面の中央に近いグルーブは、サイプと交差するような角度が持たされていることがわかる。
これは、前者のエッジ効果が主に回転前後方向の水膜除去を狙ったものであるのに対して、後者では横方向のエッジ効果を狙ったものであるためという。また、それぞれのサイプの形状も従来のアイスガード6では円すい状でタイヤが摩耗するにつれて細くなるのに対して、アイスガード7では50%摩耗時のサイプ径が逆に太くなる形状を採用。これは、新品に近い状態では倒れ込みが抑制されることでブロック剛性が増し氷上性能の向上に貢献するとともに、摩耗時にサイプが細くなってエッジ効果の低下をカバー、高い氷上性能が永く維持されることにつながるという。
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吸水率を従来比6%アップ
こうしてトレッドパターンがフルモデルチェンジされたアイスガード7では、これまでアイスガードシリーズが採用を続けてきた独自の「吸水ゴム」も、新しい素材を用いて開発されたアイテムへと一新されている。
凍結路面上が滑りやすいのは「タイヤの踏み込みによってその部分にわずかな水膜が発生するため」というのが定説。そこでスタッドレスタイヤの開発者はそれをなんとか排除すべく手をかえ品をかえ腐心することになる。横浜ゴムでは、ゴムのしなやかさを高めて凍結路面への密着効果をアップさせるシリカの配合量を、従来品以上にすることを可能とした「ホワイトポリマーII」を開発。これを配合した「ウルトラ吸水ゴム」と呼ばれる新たなコンパウンドをアイスガード7に採用した。
さらに、そこに「吸水スーパーゲル」や「マイクロエッジスティック」といった吸水効果やエッジ効果を高めるための新素材を、実績ある「新マイクロ吸水バルーン」などの技術に加えることで、従来のアイスガード6比で7%増しとなる吸水率やより高いエッジ効果を実現。うたい文句である“氷に効く”、“雪に効く”といった性能をさらに高めたうえで、劣化抑制効果に関してこちらも実績のある「オレンジオイルS」を加えることで、時間が経過しても硬化しにくい“永く効く”という性能を実現させたという。
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その看板に偽りなし
そうした最新のさまざまなテクノロジーが込められたアイスガード7で、北海道・旭川に位置する横浜ゴムのテストコースTTCHや周辺の一般道を舞台に、従来型のアイスガード6やアイスガード7用のコンパウンド性能を確認するべく特別に用意されたスリックタイヤなどを試しながらテストドライブを行った。
ちなみにそのスリックタイヤは、2018年に開設されたTTCHの屋内氷盤試験場内で走行をチェック。氷温がマイナス2桁と低い状態では思いのほか走れることに驚かされたものの、氷温が0℃近くにまで高まってしまうと加減速方向にも横方向にもほとんどコントロールが利かないと、大きく異なる結果に。前述の表面に発生するごく薄い水膜が、氷上で滑る原因になると裏づけられた。
そんな氷盤上で強かったのはやはりアイスガード7。アイスガード6との乗り比べでも、より「足が地についている」感覚を強く得られるのはアイスガード7のほう。同型の「トヨタ・プリウス」を用いてのテスト走行では、特に静止状態からのスタートの瞬間とブレーキングを行って完全停止へと至る寸前で、グリップ性能の差を明確に感じ取れた。これは、リアルワールドでもいわゆるブラックアイス上での発進や信号停止時の挙動の違いとして、安心・安全を実感できる。
一方、アイスガード7とアイスガード6を装着した車両で同一の雪上路を比較試乗した印象では、「どちらも十分によく走ってくれる」というのが率直な感想。こちらは路面とのコンタクト感に大きな差は感じられず、アイスガード6でも特に古さを意識させられるような部分はなかったというのが正直なところだ。
ただしそれゆえにアイスガード7が、一部背反する関係にあるはずの雪上と氷上の性能を、前者を少しも損ねることなく後者を確実に引き上げたと実感できたのは事実。その点で「ヨコハマのスタッドレスタイヤ史上最高の氷上性能」というフレーズは、偽りなしと認められそうだ。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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