ディーラー網がありながら、クルマをオンラインで売るのはなぜなのか?
2022.09.05 デイリーコラム「まずは来店から」が難しい
今はあらゆる商品がオンライン、つまりインターネットを使って入手できる。クルマの分野でも「オンライン販売」が聞かれるようになった。
クルマの売買とオンラインは、基本的には相性が悪い。クルマには登録制度があり、署名や押印が必要だ。車庫証明の取得を含めて書類を扱う。そしてクルマは大きな商品だから、宅配便では届けられない。納車のプロセスも必要だ。
さらに売買を終えた後も、定期的に点検や車検を受ける必要がある。消耗品の交換も多く、専門性が高いため、一部の家電製品とは違ってユーザーが自分で作業するのは難しい。車両に不具合が生じてリコールされ、部品の交換を強いられることもある。
このようにクルマは、家電製品に比べると購入後も手間を要するため、販売店と疎遠になるオンライン販売はなじまない。それなのに最近は、各メーカーともオンラインでの販売に力を入れている。販売ではなく、定額制でクルマを借りるカーリースのサブスクリプションに、オンライン契約を導入しているケースもある。
この背景には複数の理由がある。メーカーの商品企画担当者から多く聞かれるのは「お客さまとのタッチポイントを増やしたい」ということだ。冒頭で述べたとおり、今はさまざまな商品をオンラインで購入できる。特に2020年以降は新型コロナウイルスの影響もあり、販売店へ出かけることも敬遠されるようになった。
そうなると、少なくとも商談の初期段階までは、オンラインで話を進められる必要がある。仮にユーザーと販売店のスタッフが面会するとしても、具体的に購入のメドが立つまでは、オンラインで商談を行えるようにしておきたい。
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何から何までインターネットで
また、以前はユーザーが販売店に出向き、欲しい車種の情報をスタッフから得たり、試乗したりすることが多かった。この状況も、インターネットの普及によって変化してきている。クルマに関する情報は、メーカーのウェブサイトを含めて、さまざまなインターネット媒体から得ることが可能だ。
試乗についても、動画を含めて、試乗記が豊富にアップされている。クルマを運転した時の印象はユーザーによって異なるから、購入するなら実際に試乗すべきだが、複数の試乗記を見ると大体の想像はつくようになる。各メーカーのウェブサイトでは見積もりのチェックも可能だから、ローンの返済パターンや支払総額も分かる。
そのために最近は、新車を買う際に販売店を訪問する回数は、わずか2~3回になっているといわれる。訪問するメーカーでみても1~2社だ。今の多くのユーザーは、インターネットを活用して自分が購入すべき車種やグレード、ローンの返済回数などを決めてから販売店を訪れる。何から何までインターネットを使う時代になった。
特に幼い頃からパソコンに慣れている比較的若いユーザーの場合、インターネットの世界に存在しない商品は、リアルで存在しないのと同じことだ。雑誌も読まないから、インターネットで出遅れると致命的になる。
この点について、販売店のスタッフは「現時点では、オンラインだけで商談するお客さまは少数です。連絡のためにメールを活用して、大切なことは電話を使ったり、実際に会ったりして話をします」と筆者に述べた。
それでもオンライン販売の準備を進めておくことは大切だ。登録制度の完全なペーパーレス化が行われた時、準備を進めておかないと、出遅れて混乱を招いてしまうのだから。今のオンライン販売は、将来に向けた準備と若年層への対応、インターネットの可能性を模索するために行われているというわけだ。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、日産自動車、BMWジャパン、webCG/編集=関 顕也)
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渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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