ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーP530 LWB(4WD/8AT)
私的カー・オブ・ザ・イヤー 2022.09.20 試乗記 5代目に進化した「ランドローバー・レンジローバー」が上陸。V8モデルは、既に3年分の生産枠が予約注文で埋まるほどの人気だというが、ロングホイールベース車「オートバイオグラフィーP530 LWB」のステアリングを握り、そのヒットの秘密を探ってみた。ストリートカルチャーのテイスト
2022年に試乗したニューモデルのなかで「あぁ、このまま乗って帰りたい」と思わされたクルマの筆頭が、5代目となる新型レンジローバーだった。格好はいいしインテリアはモダンだし、ふんわり軽い乗り心地とずうたいに似合わぬ繊細な操縦性にも感銘を受けた。
本稿を執筆しているのは9月上旬で、一年はあと3分の1近くも残っているので「今年のナンバーワン」と書くのは早計かもしれない。けれども、今年中にレンジを上回るようなモデルが登場するというイメージが湧かない。
感動の初試乗から数カ月、いくつかの仕様に乗って初期の興奮が落ち着いてきたところで、あらためてレンジローバーのどこがそんなに気に入ったのかを確かめてみたい。
試乗したのは4.4リッターのV型8気筒ツインターボエンジンを搭載する、乗車定員7名のロングホイールベース仕様。このでっかいボディーが、磨き込まれた玉石や、削り出しの金属塊のように感じるのは、凸凹を廃し、ボディーのつなぎ目の隙間を極小にしたことによる、トゥルンとした表面処理のおかげだ。
で、このボディーを少し離れた場所から眺めて感じるのは、これはカスタマイズカーの世界で言うスムージングではないか、ということだ。英国伝統のプレミアムSUVが、アメリカ西海岸発のストリート文化の影響を受けている、というのはまったくの推測であるけれど、「伝統×ストリート」という動きがさまざまな分野で盛り上がっているのは推測ではなく事実だ。
例えば五輪。東京オリンピックはスケボーやサーフィン、BMXで盛り上がったし、次回開催のパリにはストリート文化の象徴ともいうべきダンスバトル、ブレイキンが採用される。洋服の世界でも、高級ブランドがストリートカルチャーのテイストを取り入れ、ストリートファッションのヒーローを重用している。
なので、各ピラーを黒塗りすることで屋根が浮いているように見えるフローティングルーフや、ボートテール形状のリアビューなど、伝統的なモチーフを残しつつも、新型レンジがデザインの最先端を走っているように見えるのは、「伝統×ストリート」という世界的な潮流に乗っているからだと考えると、すとんとふに落ちる。
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凪の海を行く大船のよう
外観を眺めてから乗り込んで運転席に座った瞬間に「いい感じだなぁ」と思えるのは、第一にエクステリアとインテリアが同じ価値観でデザインされているからだ。凸凹や飾りのない、トゥルンとした雰囲気は、内も外も共通。そういえば外装にスムージング加工を施したカスタマイズカーは、オーディオや空調パネルを見えないように加工して、内装もトゥルントゥルンにしている。
造形も色使いもシンプルなのに、いいモノ感のオーラがむんむんと漂うあたりは、素材を吟味したことのたまものだろう。エバったり、盛ったり、ゴージャスに見せようとしていないのに上品だと感じさせるあたりに、育ちのよさがにじみ出る。
運転席に座ったときに、見晴らしがよくてボディーの四隅が把握しやすく、自信と余裕を持ってハンドルを握ることができるのは、コマンドポジションの伝統だ。
一方、都心の狭いパーキングスペースでもそれほど気を使わずに動かせる取り回しのよさは、ランドローバーが初めて採用した後輪操舵(オールホイールステアリング)のお手柄だ。都内をうろうろするにあたっては、5265mmの全長よりも、2mを超える全幅を持て余すことのほうが多い。
タウンスピードでの乗り心地は、波ひとつ立たない凪(な)いだ海を行く大船のようにゆったりとしている。かと思えば、荒れた路面を通過するときは、ふわりと軽くまたぐ感覚。大船なのに軽いという矛盾を実現するあたりは、最大で毎秒500回も挙動をモニターして調整する連続可変ダンパーと、エアサスの連携がうまくいっていることの証しだろう。
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3年分の生産予定数は既に完売
低回転域から約2.6tのボディーを軽々と加速させる4.4リッターのV型8気筒ツインターボエンジンは、ただの力持ちではなく、切れ味も鋭い。3000〜3500rpmあたりからは、濁りのない乾いた音と、打てば響くようなレスポンス、そして喜々として回転を上げたがるキャラクターで、ドライバーをうっとりとさせる。
ポリシーなのか、契約なのか、ランドローバーが公表しない理由はわからないけれど、このボア×ストロークが89.0mm×88.3mmのV8エンジンはBMW製なのだ。
そういえば、2002年に発表された3代目レンジローバー(L322)の初期型も、1994年から2000年までランドローバーを傘下に収めていたBMWのV8エンジンを搭載していた。あのとき、「BMWエンジンのレンジなんて二度とお目にかかれない」と思ったけれど、2022年に再び出会えるとは!
とにかくこのタッグは強力で、市街地では粛々と走り、高速巡航でも余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で、でもアクセルペダルを踏み込むと桃源郷へ連れて行ってくれる。素早く、かつシームレスに変速する8段ATもいい仕事っぷりだ。
3リッターの直列6気筒ディーゼルターボにも乗ったことがあり、あれはあれで文句のつけようがなかったけれど、スウィートでパワフルで応答性に優れるV8を経験するとそりゃもう……。と、思っていたら、ランドローバーの公式ホームページに「V8モデルについては既に3年分の生産予定の受注台数に達してしまいました」とあって、L322と同じく、伝説の存在になってしまいそうだ。
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電動化も見据えた新開発プラットフォーム
V8の530PSをさらりと受け止めるボディーと足まわりもお見事。前出の後輪操舵、電制エアサス、連続可変ダンパーに加えて、電子制御スタビライザーも備わり、重心の高い大きなボディーであるけれど、旋回中に大きな加速Gを与えても、一滴もこぼさずに地面に伝えてくれる。
テレインレスポンスシステムでダイナミックを選ぶと、パワートレインと足まわりがスポーツ走行に最適化され、コーナーでは絶妙に車体を傾けながら、狙ったラインをぴたりとトレースすることができる。実に気分がいい。
快適なプレミアムSUVとしても、走りも楽しめるスポーツSUVとしても、隙がない。まだオフロードは走っていないけれど、ランドローバーがカッコだけの“なんちゃってSUV”を出すとは考えにくい。しかも試乗車は7人乗り仕様だったから、いざというときの包容力も備えている。
既に報道されているように、今後の電動化を見据えて新型レンジローバーは「MLAフレックス」と呼ばれる新しいプラットフォームを採用している。ただし、新しいプラットフォームにありがちなギクシャクした感じがまったくなく、いきなりこなれている。
レンジローバーは2012年デビューの4代目(L405)で、SUVとしては世界初となるオールアルミのモノコックボディーを採用しているから、このあたりのノウハウの蓄積もあって、圧巻のパフォーマンスが実現したとみる。
と、ここまで書いたところで、エリザベス女王がお亡くなりになったというニュースが入ってきた。エリザベス女王といえば歴代レンジローバーを愛したことで知られている。初代モデルでアフリカのザンビアを訪ねた写真、スカーフをマチコ巻きにして自ら2代目モデルのハンドルを握る写真、90歳の祝賀パレードで4代目モデルの特装車両から手を振る写真などが記憶に残っている。英国王室御用達を意味するロイヤルワラントをランドローバー社に授けていることからも、エリザベス女王のレンジローバーへの愛が伝わってくる。
いま思うことは、エリザベス女王がお亡くなりになる前に新型レンジローバーを経験なさっていたら素晴らしいな、ということだ。ご冥福をお祈りします。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーP530 LWB
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5265×2005×1870mm
ホイールベース:3195mm
車重:2750kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530PS(390kW)/5500-6000rpm
最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1850-4600rpm
タイヤ:(前)285/40R23 111Y M+S/(後)285/40R23 111Y M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:7.6km/リッター(WLTCモード)
価格:2224万円/テスト車=2384万2702円
オプション装備:ボディーカラー<シャラントグレイ>(10万1000円)/23インチ“スタイル1075”ホイール<グロスダークグレイ、コントラストダイヤモンドターンドフィニッシュ>(27万5000円)/シャドーエクステリアパック(18万5000円)/ヒーター付きウインドスクリーン(3万4000円)/フロントセンターコンソール用急速クーラーボックス(11万4000円)/家庭用電源ソケット(2万1000円)/テールゲートイベントスイート<レザークッション付き>(13万7000円)/パネル<ナチュラルブラウンシルバーバーチ>(0円)/SVビスポークデュオトーンヘッドライニング<エボニー/キャラウェイ レザー>(0円) ※以下、販売店オプション デプロイアブルサイドステップキット<LWB用>(67万9052円)/ドライブレコーダー(5万6650円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3444km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:293.3km
使用燃料:48.34リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.1km/リッター(満タン法)/6.4km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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