第725回:目指すはグローバルブランドへの飛躍! ロータスが描く未来戦略を探る
2022.10.12 エディターから一言 拡大 |
「JAPAN LOTUS DAY 2022」で行われた新型車「ロータス・エミーラ」のプレスカンファレンスに合わせ、本国からアジアパシフィックおよび中東地域のリージョナルディレクターが来日。新しい市場の開拓を担うキーマンが語った、英国の名門ロータスが描く将来戦略とは?
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世界最大級の規模を誇るロータスの祭典
予報に反して好天に恵まれた2022年10月9日、富士スピードウェイにてJAPAN LOTUS DAY 2022が開催された。依然コロナ禍での開催ということもあり、過去最高の参加台数・来場者数とはいかなかったけれど、それでも3年ぶりの開催に、約460台のロータス車と1200人以上のオーナーやファンが駆けつけた。海外でも同様のロータスのイベントは存在するが、日本のようにサーキットでの走行会やレースを同時開催するところはないという。国内どころか、世界でも最大級となるロータスの祭典といえるだろう。
今回のイベントでは、待望の新型車、エミーラの発売限定モデルとして2021年10月に受注を開始した「V6ファーストエディション」の量産車両を展示。また英ロータスカーズより、アジアパシフィックおよびミドルイーストのリージョナルディレクターであるDAN BALMER(ダン・バルマー)氏が来日した。そこでバルマー氏に、近年のロータスの体制や新型エミーラの狙い、将来の計画などについて話を聞いてみた。
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――近年のロータスは、どのような変化があったのでしょうか?
ダン・バルマー氏(以下、バルマー):まず社員が1000人から3000人の3倍に増えました。新しいウェールズやコベントリー、ドイツの拠点はもちろん、(本社の)へセルでも増員しています。これからは中国の拠点でも、もっと人員を増やすと思います。
変化は人員だけではありません。これまでロータスは、まずイギリスを見て、「イギリスで販売した後で海外でも売れたらうれしい」という考えでした。これからは、「もっと全世界に向けてクルマをつくろう」となっています。マーケティングの面でも、車両撮影ひとつとっても、これまではイギリスの古い建物の前などで行っていましたけれど、これからは米カリフォルニアなど、グローバルにやっていこうと考えています。
――今回のエミーラも、そうした流れのもとに生まれたクルマですか?
バルマー:グローバル向けの新しいクルマであり、既存の車種よりもっと広いマーケットに向いています。加えて、サーキットだけでなく毎日使えるクルマでもあります。それもあって、マクラーレンやフェラーリ、ポルシェを所有する方からも問い合わせをいただいています。
「エミーラ」がロータスにもたらした変革
――エミーラは、どんな体制で開発されたのでしょう?
バルマー:エミーラは“ヘセルのクルマ”です。デザインはもちろん、開発の最終段階まですべてヘセルで行いました。私たちは2017年に、ロータスが創立80周年を迎える2028年までにどういう会社になるのかを定めた「ヴィジョン80」を発表しました。しかしエミーラについては、“今までのやり方”を通しています。デザインもへセル、テストもへセル、生産もへセルです。
ただ、これまでのロータスは年間1500台しかつくれませんでしたが、エミーラは年間7000台を生産する計画です。当然、つくり方も変えなければならず、そのためにへセルも大きく進化しました。オートメーション化され、産業用ロボットだけでなくAGV(無人搬送車)も導入されました。AGVはクルマを乗せる電動の土台のことです。生産ライン内では、これに組み立て中のクルマを載せて移動させます。以前は手でクルマを押して動かしていましたから、相当な違いです。
組み立てなどもこれまではハンドメイドでしたが、それには悪いところもいっぱいあった。塗装の品質もいつも問題になっていました。特にロータスはボディーにFRPを使いますので、塗装がとても難しい。それを手作業で行いますから、日によって色が違ったりしたのです。でも今は、産業用ロボットが塗装を行っています。
新しいマーケットは中国と韓国、そして中東
――ロータスにとって日本のマーケットは、どういう存在なのでしょうか?
バルマー:エミーラのオーダーでいえば、私の担当地域で日本はナンバーワンです。世界的には4番目ですね。一番がイギリス、次いでアメリカです。来年はアメリカが一番になるでしょう。その次が中国、そして日本です。
新型の電動SUV「エレトレ」が投入されれば、状況は変わってくるでしょう。中東のドバイやサウジアラビアはSUVだらけですから、そこがメインになるはずです。また、中国でもSUVは大切です。もちろん、世界的に数を売りたかったらアメリカも重要でしょう。SUVについては、まずはアメリカに注力することになると思います。それと、SUVに関しては韓国も大切なマーケットになります。今までのロータスは、韓国が非常に弱く、数台規模でしか売れていませんでした。でも、今は韓国にも拠点をつくっています。
今までのロータスは、イギリス、日本、そしてアメリカでした。それ以外はあまり力を入れていませんでした。しかし、これからはグローバルなブランドになりますから、新しい市場にも力を入れていく予定です。
――中国では、今まで「エリーゼ」のような小さなクルマを導入することができず、もう少し大きな「エヴォーラ」しか売ることができないと聞きました。エミーラはエヴォーラと同クラスになったことで、安全性の障壁がなくなったということでしょうか?
バルマー:そのとおりです。ちなみに、日本とイギリスのユーザーはかなり似ています。ロータスはライトウェイトの小さなスポーツカーという認識ですね。でも中国の目線は全然違う。中国では、ロータスはEVメーカーになります。そもそも「中国にはスポーツカー市場はない」ともいわれていたので。
ただ、その中国からもエミーラの注文をずいぶんいただいて、私たちは驚いています。恐らくエリーゼやエキシージと違って、エミーラはスーパーカーとも戦えるクルマになったからでしょう。
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再びの拡大路線も楽観的
――サーキットで使うためのスポーツカーというキャラクターから、街なかでも使えるスーパースポーツという路線への変更ですね。しかしその路線変更は、これまでのロータスのユーザーにとって受け入れられないかもしれません。そのことについては、どのように考えていますか?
バルマー:2017年に10年先のロータスについて検討したとき、このままでは大きく成長できないだろうと判断しました。ビジネスモデルがうまくいかないということです。クルマを取り巻く環境も大きく変わっています。安全や排出ガスの問題などをクリアするには、コストがかかる。今までの価格帯とは合わなくなります。加えて、スポーティーだけどもっと使いやすいクルマでないと、他のメーカーとは戦えません。こうしたもろもろの結果、エミーラは大きな市場で強える競争力のあるクルマとなりました。
もしかすると、今「エラン」などに乗っている人たちは、これを気に入らないかもしれません。でも、こうしたことはロータスでは初めてではありません。過去にも同じことが何度もありました。「エスプリ」が出たときにはひどくブーイングされました。「ロータスは、エランであり、『セブン』であって、スーパーカーじゃない」と。しかし今では、それもロータスの文化になっています。ですから、私は心配していません。
新世代への移行は順調に進んでいるが……
――最後に日本の読者やユーザーへのメッセージをいただけないでしょうか?
バルマー:ロータスの未来は明るいものです。エミーラのような美しいスポーツカーをつくり続けます。未来のロータスはガソリンエンジンではありませんが、間違いなく望ましい製品になるでしょう。なぜなら、将来にわたってロータスの文化は変わらないからです。また、街なかでもっと多くのロータスを見るようになるはずです。ロータスのSUVが、より多くの顧客を運んでくれるからです。
最後に、ロータスはこれからもモータースポーツの一部であり続けます。「エミーラGT4」だけでなく、コンペティティブなモータースポーツの舞台で大きな存在感を発揮できるモデルを検討しています。将来にわたって、私たちはモータースポーツの世界に住み続けることを望んでいます。
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バルマー氏へのインタビューは以上だ。最後に、日本においてロータスの正規輸入販売を手がけるエルシーアイに聞いた、販売の状況を伝えたい。
エミーラV6ファーストエディションの2022年分の新規オーダーは終了しているが、ディーラーには在庫が若干残っており、まだ購入することは可能だという。ただし左ハンドル仕様車については、部品不足が理由で日本向けには生産されなくなったとのこと。他方でメルセデスAMG製の2リッター直4ターボエンジンを搭載する「エミーラ ファーストエディション」は、まだ受け付けを継続中だ。ただし、現状ですでに半年ほど生産が遅れており、先行きは不明だという。
ちなみにエミーラの受注のうち、既存のロータスユーザーは3割ほどで、残りの7割は新規ユーザーだという。フェラーリやポルシェといった別ブランドから、新しいユーザーが入ってきているとのことだ。
モータースポーツに特化したスポーツカーから、日常でも使えるスポーツカーへの転身は順調な様子。現状では、コロナ禍に端を発する生産の遅れが、最大の課題となっているようだった。
(文と写真=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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