トヨタ・シエンタZ 7人乗り(FF/CVT)
令和の国民車 2022.11.15 試乗記 モデル数は少ないながらも、日本にベストマッチなジャンルとして人気を博しているコンパクトミニバン。その一翼を担うのが「トヨタ・シエンタ」だ。3代目となる新型は、使えば使うほどに感心させられる、細部までしっかりつくり込まれたクルマとなっていた。日本の道路と日本人の生活に合ったカタチ
2003年9月に誕生した初代は2010年に販売を終了。しかし、それから1年を経ずして販売が再開され、その後2度のフルモデルチェンジを経て現在に至るという数奇(?)な運命をたどってきたのが、トヨタ最小のミニバンというポジションに置かれたシエンタだ。
一度は販売を終えたモデルが再登板という珍しいドラマが展開された理由は、「後継モデルへの移譲が思いどおりに進まなかった」という点にある。そんなシエンタの復活劇や、昨今における軽スーパートールワゴンの隆盛を耳にすると、もはや日本での主流は「コンパクトサイズのスライドドア付きモデルなんだナ」と、あらためて認識せざるを得ない。
世界の自動車マーケットのナンバー1とナンバー2が、ともに大きなクルマを好む中国とアメリカになって久しく、さらにそうした地では、航続距離を伸ばすために大容量バッテリーを搭載するという“力業”に臨んだピュアEVの販売が急伸しつつあると聞く。再開発された地域以外では、まだまだ狭隘(きょうあい)でしかも電信柱が飛び出した道路が少なくなく、大出力充電器のインフラ整備も絶望的といえるほど進展していないわが国にあっては、そうした実情と多くの輸入車との“乖離(かいり)現象”がますます進行していることを実感させられる。
果たして、2022年夏に3代目となった新型シエンタの販売の立ち上がりは好調と伝えられる。また最大のライバルとされ、シエンタ同様5ナンバーサイズでスライドドアを備える「ホンダ・フリード」も「2022年度上半期3列シートミニバン販売台数第1位」を達成。現行型の登場から丸6年が経過して、そろそろフルモデルチェンジがウワサされるにもかかわらず、やはり好調を継続中だ。
正直、趣味性が低いゆえに”クルマ好き”の興味の対象とはなりにくいキャラクターなのは事実であろうが、国情に合致し、マーケットも活況を呈しているのは事実。そんなコンパクトミニバンの新顔である新型シエンタに、あらためてスポットライトを当ててみた。
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機能を追求した開発の姿勢とその恩恵
コンパクトハッチバックだのコンパクトSUVだのと、実際には徐々に肥大化しているサイズを悟られまいとする(?)かのように、世の中に“小さいこと”を印象づける口上を用いて紹介されるモデルはこれまでも少なくなかった。が、新型シエンタは正真正銘、忖度(そんたく)ナシに「コンパクト」と呼べる存在だ。4260×1695mmという全長と全幅は、従来型からほぼ変わりがない。もちろん日本固有のカテゴリーである5ナンバーのサイズ枠内に収まっている。
2750mmのホイールベースも従来型から変わりのない値だが、実はクルマの骨格たるプラットフォームは「TNGA」を称する新世代のアイテムへと刷新されている。詳しくは後述するが、全幅と全高が同一で相対的に背が高く、しかもボディー剛性の確保や重量面では不利なはずのスライドドアを備えた“こうしたクルマ”にもかかわらず、気がつけばワインディングロードでの走りを楽しんでいる自分がいた。主要骨格を連結させた環状骨格構造や高減衰タイプの構造用接着剤の採用などで実現した高剛性ボディーが奏功していたことは間違いない。
加えて、1・2列目シート間のタンデムディスタンスを80mm、室内高を20mm、上側方のヘッドクリアランスを60mm拡大させるなど、従来型でも十分広いと思えた室内空間をさらに広げるべく緻密な工夫が施されている点も見逃せない。ちまたでは「足もとをたくましく見せたい」という思いもあってシューズ(=タイヤ&ホイール)の大径化が進むなか、全仕様に15インチを採用し、従来型には存在した16インチの設定をオプションリストから外したことも、このモデルが機能性の高さを追い求めた“真面目な道具”として、真摯(しんし)に開発されてきたことを物語っている。
結果、最小回転半径は従来型を下回る5.0mを達成。実際、細い路地へと歩を進めると、そのボディーの見切りのよさや取り回し性の高さから、「これこそが現代の“国民車”ではないのか」と、あらためてそんな思いを抱かされることになった。
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意外にもワインディングロードが楽しい
今回テストドライブを行ったのは、純ガソリンエンジン仕様の7人乗り「Z」グレード。4WDシャシーの持ち主はハイブリッドバージョンに限られ、絶対的な動力性能もそちらが上を行くことになる新型シエンタだが、一方で純エンジン仕様が魅力的に感じられるのはやはりまずその価格。テスト車の本体価格は256万円で、同グレードのハイブリッドモデル比では35万円安。昨今、国内外のモデルを問わず値上がりの報が喧(かまびす)しい新車価格だが、このモデルでは相対的に割安感が漂うことは間違いない。
ただし、エンジンに火を入れ古風なストレートパターンのATセレクターでDレンジを選択し、いざスタートという時点で「あ!」となったのは、なんとパーキングブレーキが足踏み式であったこと。最新モデルからはとうに姿を消したと思えたこの方式だが、この期に及んでよもやの再会。せっかく標準装備される全車速対応の追従機能付きクルーズコントロールも、この影響で停止保持機能を持たないのは大いに残念である(電子式ATセレクター採用の「ハイブリッドZ」グレードのみ停止保持に対応)。
一方、それとは対極的な“未来感”を覚えることになったのが、運転支援機能「プロアクティブドライビングアシスト」に含まれる、コーナーへのターンイン時に働く減速支援の働き。アクセルオフの操作に対して上乗せのカタチで作用するブレーキングの制御はなかなかに絶妙。コーナリング中もブレーキランプが点灯したままだと思うと、ときにうっとうしく思う場面もあったのは事実だが、もちろん機能をカットすることも可能になっている。
1.5リッター3気筒の自然吸気エンジンが発するパワーはもちろん強大というわけではないし、静粛性に関してもそれなりという感覚で特に静かでもやかましくもない。しかし、ステアリング操作に対する応答性は正確で4輪の接地感も良好。ブレーキはペダル踏力に応じてリニアなコントロールが可能な特性の持ち主ということもあって、ワインディングでは思いのほか楽しめてしまった、というのは前述のとおりである。
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知れば知るほど感心する
存在感の高さを狙ってか、設定されるカラーリングも含め少々奇をてらった印象が否めなかった従来型に比べると、「シカクマル」をモチーフに構築された新型のスタイリングは、確かにヨーロッパ車の方向へとすり寄った雰囲気は拭えないものの、グンとシンプルでクリーンになった。多くの日本のユーザーが乗りつけるであろう場所とその使い方を吟味したと思える全体の仕上がり具合は、見ても乗っても、繰り返しになるがやっぱり「これこそ現代の国民車の一つの姿なのだろう」と納得のいくものである。
格納時にはその存在を一切意識させることのない3列目シートが、ちょっと常用がはばかられるほど小さくて薄かったり、シートアレンジ時に2列目シートを復帰させる際、思わず掛け声を上げたくなるほど大きな力を要求されたりと、細部を見渡せば注文をつけたくなる部分は確かになくはない。
けれども、そもそもこのサイズのモデルで3列目のシートを常用しようと考える人のほうがまれであろうし、普段は2列シートで広大なラゲッジスペースを備えたモデルとして付き合い、いざというときにはさほどの無理なくプラス2名の大人を招き入れることが可能なパッケージングの持ち主と考えれば、そこに大きなコンプレインの声を上げる余地などは見つからないに違いない。
なるほど、知れば知るほどに「とことんよく考えられている」と感心するしかなくなってしまうのが新型シエンタ。まさに“グゥの音も出ない一台”なのである。
(文=河村康彦/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
トヨタ・シエンタZ 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1695×1695mm
ホイールベース:2750mm
車重:1300kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:120PS(88kW)/6600rpm
最大トルク:145N・m(14.8kgf・m)/4800-5200rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:18.3km/リッター(WLTCモード)
価格:256万円/テスト車=294万6100円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万3000円)/ファンツールパッケージ<カラードドアサッシュ[センターピラー]+内装色カーキ>(0円)/185/65R15タイヤ+15×5 1/2Jアルミホイール<切削光輝+ブラック塗装/センターオーナメント付き>(5万5000円)/パノラミックビューモニター(2万7500円)/ディスプレイオーディオ<コネクティッドナビ>Plus(8万9100円)/天井サーキュレーター+ナノイーX(2万7500円)/ドライブレコーダー<前後方>+ETC 2.0ユニット(3万1900円)/コンフォートパッケージ<UVカット・IRカット機能付きウインドシールドグリーンガラス[合わせ・高遮音性ガラス]+スーパーUV・IRカット機能付きフロントドアグリーンガラス+スーパーUV・IRカット機能付きプライバシーガラス[スライドドア+リアクオーター+バックドア]+シートヒーター+ステアリングヒーター+本革巻き3本スポークステアリングホイール[シルバー加飾付き]>(7万9200円) ※以下、販売店オプション フロアマット<デラックスタイプ>(4万2900円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1320km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(4)/山岳路(1)
テスト距離:328.6km
使用燃料:21.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:15.5km/リッター(満タン法)/16.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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