第102回:フランス車暗黒時代(前編) ―なにがどうしてこうなった!? 愛嬌を失ったフレンチデザインを憂う―
2026.02.11 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
かつては「おしゃれなクルマ」の代名詞だったフランス車。知的であか抜けていて、愛嬌(あいきょう)もある人気者だったのに……最近ちょっと、様子がヘンじゃないか? 攻撃的な顔まわりやコテコテの装飾に傾倒しだした彼らの行き着く先は? カーデザインの識者と考えた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
最近のフランス車、なんかおかしくないか?
webCGほった(以下、ほった):今回のお題は、最近のフランス車のデザインですね。このテーマについては、実は結構いろんな人から、「『カーデザイン曼荼羅』のあの人がどういうふうに思ってるのか、聞いてみてほしい」って言われてたんですよ。
渕野健太郎(以下、渕野):そ、そうなんですね。
ほった:そうなんです。「ちょっと最近、シトロエンやルノーのデザイン、おかしくないか?」って話の流れで。
渕野:やっぱその2つですか。
清水草一(以下、清水):いやー、プジョーもイマイチだと思うけどな。プロポーションは必ずしも崩れてないと思うんですよ。なかには「シトロエンC3」みたいな、なんじゃこりゃ? って凡庸なのもあるけど。ただ、フランスの3ブランド、DSも入れると4ブランドか、最近どこも光り物や小細工に走りがちじゃないですか。そこが気になる。
渕野:まず前提のお話ですけど、フランス車の、少なくとも日本での“見え方”としては、個性的なデザインを売りにしてきた存在かなと思うんです。イタリア車は美しさだけど、フランス車はちょっとクセがあって、それが受けてたと思うんですけど、どうですか?
清水:うーん。私は「フランス車はデザインがおしゃれ」っていうことだったと思ってます。つまり個性がおしゃれという。イタリア車とはちょっと違う、抑えた感じでおしゃれ。とっぴなことはあまりしないのが伝統でしたよね。シトロエン系はちょっと別ですが。
渕野:それもありますが、例えば「ルノー・キャトル」とか「シトロエン2CV」とかもそうだけど、かなり変な形のもあって、そこがいい、というのもありましたよね。機能の解釈として、日本人には考えられないような造形ができるとか、そういうところがフランスらしさかなと。
清水:確かに、そっちもある。
渕野:それに対して現在はどうかっていうと、やっぱ皆さん言われるように、光り物とか、細かいところの個性に終始していて、大きなプロポーションがあまり響いてこないってことですね。それは私も、そう思います。
顔だけで個性を絞り出している
渕野:ここからは個々のクルマやブランドを見ていきたいのですが……これは「IAAモビリティー」の回(その1、その2)でも取り上げた新型「ルノー・クリオ(日本名:ルーテシア)」ですけど、なんか唐突ですよね、この顔。どうしたの? みたいな感じがする。
清水:まさに悪夢……。
渕野:プロポーションは欧州車らしくスタンスのよいもので、ショルダーがフロントからサイドにかけてなだらかに上がり、弧を描いてリアで下がるようなリフレクションが特徴的ですよね。しかし、そうした有機的ともいえるサイドデザインのいっぽうで、フロントは硬いイメージでチグハグな感じがします。
結果的に、私が期待するフランス車としてはやや個性が弱い気がするんですよ。特にこの顔が別物のように感じるのですが、皆さんはどう感じてるのかなって、思っていました。
ほった:後付けのコテコテ感がありますよね(笑)。
清水:顔だけ超獣ですよ!
渕野:なんでこうなったのか不思議です。
清水:おしゃれの正反対になっちゃってますよね、この顔は。
渕野:以前も言ったように、ヘッドランプやリアコンビにレンズが無いような構成で、ボディーとは別の立体になっていて飛び出しています。その飛び出し方が普通じゃなくて、ランプユニットの裏側が見えるぐらいにボディー側が掘られているような形状です。要素としては面白いんですけどね。
清水:実物はもっと怖かったりして。
渕野:そんな感じで、要は全体のフォルムじゃなくて、顔まわりのディテールで個性を出してるっていうのが、これまでのフランス車と違うところですね。
清水:先代「トヨタ・プリウス」の歌舞伎顔的な、やりすぎ感満点。
渕野:ただ同じルノーでも、例えば新型「サンク」とか、この間出た「トゥインゴ」とか「キャトル」のほうは、基本的にはすごくいいデザインなんですよ。まぁ、ここら辺は古いクルマをオマージュしたものなので、一概に新しいデザインとはいえないんですけど、それでも、つくり手がやりたかったことがすごくよくわかる。特に新型トゥインゴなんて、昔のやつをボリューミーにさせてて、とてもいいんじゃないかなって感じるんです。
清水:完全なリバイバルだけど、よくまとまってますね。
渕野:これと同じ年代に、このクリオが出てるっていうのが、「なんでだろう?」って不思議になるんです。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
人が変わればデザインも変わる
ほった:うーん。方々で話を聞いていると、ルノーは今デザインの変革期っぽいので、その影響もあるのかなぁと。ほら、プジョーから引き抜かれてきたジル・ヴィダルさんが、またステランティスに戻ってったじゃないですか。そういう時期だから、新旧のデザインが乱立してるのかなと。クルマ単体で見ても、例えばクリオなんかは、途中まで出来上がっていたものを後できたデザイナーさんがいじっちゃったのかな? とか。
渕野:ディレクターが変わるとデザインも変わることがあるので、そこら辺はそうかもしれませんね。だから、ほかのクルマはこれまでのルノーっぽいのに、クリオの顔は違うのか……。
清水:だいぶ光り物頼りですよね。そういえば、もう日本に来ているクルマだと「キャプチャー」も変わったよね?(参照)
ほった:あれは逆に、ステランティスからヴィダルさんが来たから顔が変わったんですよね、確か。従来型よりだいぶとがった印象になった。
渕野:いや本当、フランス車ってマイナーチェンジでガラッと顔まわりを変えがちですよね。それもあって、なんかイメージが定まらない(笑)。毎回、マイナーチェンジごとに全然違う顔になって、これはどのクルマだっけ? ってなるのが割と多い感じはします。
清水:あと、あの顔のブツブツ! プジョーもブツブツだけど。
ほった:顔のブツブツは、こないだ発表された「フィランテ」でさらにすさまじくなってますよ。(写真を見せる)
清水:うげぇ。なにこれ!?
ほった:ルノーのフラッグシップを担う、新しいクロスオーバーだそうです。
渕野:フィランテに関しては、全体的なプロポーションは明快だしスマートでいいなと思うのですが、あの顔のディテールは、いよいよ生理的に受け付けない方もいらっしゃるのではないでしょうか(笑)。ヘッドランプ含めてクリオの構成をさらに過激にしたような印象ですが、現地の評判が気になりますね。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
かつてあなたは太陽だった
渕野:続いてシトロエンですけど、一昔前のシトロエンはすごくおしゃれで、かわいらしい感じもするし、安直な言い方をすると“デザイン性が高い”ブランドでした。デザイナーはあんまりそんな言葉は使わないんだけど(笑)。とにかくデザイン感度が高い人が買うクルマでしたよね。
清水:ですね。ヨーロッパじゃわかんないけど、少なくとも日本では。
ほった:逆に日本だと、一般人はまず近寄ろうとしない(笑)。
渕野:前も話しましたけど、2代目の「C4ピカソ」がヘッドライトのあり方を変えたんです。時系列的には「日産ジューク」のほうが先なんでしょうけど、デイライトを顔の表情に使ってヘッドライトをフォグランプみたいに扱うっていう、今に続く手法の発端になったのはこちらかと。
ほった:日産のはジューク単発で、それっきりでしたからね。
渕野:「C3」「C3エアクロス」「ベルランゴ」あたりも、デザインが統一されていて……この時代、シトロエンのデザインはすごくいいなと思ってましたよ。
清水:黄金時代でしたね。
渕野:それが、今の造形言語になるちょっと前に、「C4」とC3エアクロスがマイチェンしましたよね(その1、その2)。どれも「ナニこの顔?」って印象でした。かなり強烈で、かわいらしさがなくなった。
ほった:悪いとは言わないですけど……。いや、悪いか(笑)。
渕野:これはどういうことなんだろうって思いました。
清水:顔を全部、三菱のダイナミックシールドっぽくして、ダメにしちゃった。がっかりしましたよ。
黄金時代から暗黒時代に真っ逆さま
渕野:で、この時代を経て、今はおそらくショーカーの「シトロエン・オリ」で発表したデザインを、各車に取り入れているんです。ボクシーでおもちゃみたいな。(写真を見せる)これが発端で、最新の市販車のデザインに反映されていったのかなと。
清水:いやぁ、これ(オリ)だったらまだわかるんですけど。
渕野:コンセプトカーの時点では、おしゃれな感じがするんですよ。それを市販車にしたら、どこをターゲットにしてるのか見えづらくなった。これまでシトロエンは、おしゃれだから選ばれていたんだけど、それを求めて買う人には、訴求が弱くなったかもしれない。
清水:別世界に行っちゃいましたね。
渕野:具体的には特にフロントまわりなんです。以前はつるっと上から下までひとつにまとまっていた立体を、バンパーと上とで分けて、グリルまわりを壁みたいに立たせた。それでボクシーに見せてるんですよね。だけど、全体のプロポーションはそこまでボクシーでもないから、結局、なにをしたいのかわからなくなってしまった。いっぽうで、ヘッドランプなどのグラフィックはめちゃくちゃ凝ってて、とにかく見ていて落ち着かない。
ほった:で、ここから新型C3も爆誕したと。
清水:すべてが中途半端で、「フォルクスワーゲンTクロス」の劣化版みたいになっちゃった。
ほった:フランス車好きからしたら、黄金時代から暗黒時代に真っ逆さまって感じなんですね。次回はどこかに救いを見つけましょう。
清水:もちろんだよ! オレ、フランス車8台乗り継いでるし。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ルノー、ステランティス、newspress、佐藤靖彦/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第129回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(後編) ―プロポーションの進化と「駄作」の消失に見る、日本車の現在地― 2026.9.23 今や欧州と立場が逆転? 世界的に見ても高い水準にあるという日本のカーデザインだが、そこには本当に足りないものはないのか? 今後、さらなる発展を望むうえで必要なものとはなにか? カーデザインの識者と、日本の自動車デザインの“今”を考えた。
-
第128回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(前編) ―厳しい制約が鍛えた独創の美と創造性― 2026.9.16 日本の地に自動車産業が芽生えて幾星霜。今やすっかり自動車大国となったわが国だが、ことカーデザインの質については、世界的に見てどれほどのレベルにあるのだろうか? 日本車の“美”がさらに進化していくうえで必要なものを、カーデザインの識者と考えた。
-
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?― 2026.9.2 その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。
-
第126回:新型BMW X5(前編) ―これは終わりの始まりか? 迷走する“ノイエクラッセ・デザイン”に物申す― 2026.8.26 スポーティーなプレミアムSUVの代名詞だった「BMW X5」が、ついに新型に! “ノイエクラッセ”のエッセンスが取り入れられたそのデザインの評価は? そもそもこの造形で、BMWはなにを表現したかったのか? 賛否のわかれる新型X5のデザインを、有識者と考えた。
-
第125回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(後編) ―古豪復活と新勢力の出現で進むミニバンデザインの多様化― 2026.8.19 帰ってきたキング・オブ・ミニバンこと新型「日産エルグランド」に、メルセデス・ベンツが世に問うた乗用MPVの「VLE」。古豪の復活とニューモデルの登場で、高級ミニバンのトレンドはどう変わるのか? オラオラ系が幅を利かすミニバンデザインの未来を考えた。
-
NEW
第293回: スイフトが主役の映画? いや、監督がスイフトなんです! 『藁にもすがる獣たち』
2026.9.24読んでますカー、観てますカー曽根圭介の小説を原作にした2度目の映画化。韓国版では「ヒョンデ・ソナタ」が殺人カーだったが、今回は「トヨタ86」に。もっと活躍するのはチャンピオンイエローがまぶしい“スイスポ”。スズキファン必見のアクションエンターテインメント! -
NEW
マツダCX-5 L(前編)
2026.9.24あの多田哲哉の自動車放談マツダの基幹モデル「CX-5」がフルモデルチェンジ。世の注目を集める新型は、期待に応えられる出来なのか? 元トヨタの車両開発者である多田哲哉さんが、ワインディングロードで試乗して確かめた。 -
NEW
トヨタもスバルもマツダも いまなぜ2.5リッターエンジンなのか?
2026.9.24デイリーコラムトヨタもスバル、マツダも最新のパワートレインに2.5リッター直4エンジンを採用している。ユーザー感覚では「2リッターを超えると自動車税が高くなるのに」と、疑問に思えるが、そこにはメーカーもユーザーも納得の理由がある? -
新型「パジェロ」はこれから生産するのに!? 国産自動車メーカーのタイ離れが進んでいる深刻な理由
2026.9.23デイリーコラム国内にも多くのモデルが導入されている国内ブランドのタイ生産車だが、近い将来は事情が大きく変わっている可能性がある。というのも、各社がタイに注力していたのは少し前の話で、実はその生産規模は少しずつ縮小傾向にあるのだ。その背景を解説する。 -
第129回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(後編) ―プロポーションの進化と「駄作」の消失に見る、日本車の現在地―
2026.9.23カーデザイン曼荼羅今や欧州と立場が逆転? 世界的に見ても高い水準にあるという日本のカーデザインだが、そこには本当に足りないものはないのか? 今後、さらなる発展を望むうえで必要なものとはなにか? カーデザインの識者と、日本の自動車デザインの“今”を考えた。 -
日産ムラーノ プラチナム(4WD/9AT)【試乗記】
2026.9.23試乗記ドナルド・トランプ米大統領の圧力のおかげで(?)新しい「日産ムラーノ」の国内導入が決まった。日本を留守にしていた約11年の間にどう変わったのか、まさに「朋有り、遠方より来たる」の気分だ。本格導入よりもひと足早く北米仕様車の仕上がりを試した。




















































