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マクラーレン・アルトゥーラ(MR/8AT)【試乗記】

理詰めの官能 2022.12.01 試乗記 渡辺 敏史 外観は既存のマクラーレン車との連続性が保たれている「アルトゥーラ」だが、その中身はエンジンやシャシーなどがまるごと刷新された新世代モデルの第1弾である。高度な電動化が施されたミドシップスポーツを、箱根のワインディングロードで試す。

似た者同士のライバル

思い起こせば昨2021年は、スーパーカーセグメントの電動化に関する具体的数字を伴った中期計画が続々と発表されるのみならず、その具体的な動きも見えてきた感慨深い一年だった。

とりわけ驚いたのは、このマクラーレン・アルトゥーラと、「フェラーリ296GTB」のエンジニアリングのかぶり具合だ。ともに立ち位置としてはラインナップのセンターピラーの電動化という重要なプロジェクトであることは明らかで、おのおのどんな手を繰り出してくるのかと好奇の視線を集めていた。

ふたを開けてみれば、両車のパワートレインの構成はとてもよく似ていた。ともに3リッター、ともにV6、ともに駆動用モーターを挟みつつ8段DCTでドライブするPHEV……。そしてシート背後に積むリチウムイオンバッテリーの容量もほぼ7.4kWhにして、V6エンジンのバンク角は120度と、それはもう示し合わせたかのようである。レーシング出自のエンジニアリングで最適効率を突き詰めたがゆえだろうが、ここまで同じような感じになるもんかなぁとほほ笑ましくもなるわけだ。

V6エンジンにおいて一次振動を相殺できる理想的なバンク角は120度だ。が、思い浮かべる限り量産モデルでその採用例はない。理由は簡単で、前側のエンジンベイに入れることが物理的に難しいからだ。横置きでは前後幅をとりすぎるし縦置きでは操舵角がとれないしと、実用性にも汎用(はんよう)性にも著しく欠けるわけで、要は市販車的には後ろに入れるしか使いようがない。

すなわち、それができるのはリアミドシップをラインナップの核とするスーパーカーのみ。このカテゴリーは搭載するエンジンは8気筒以上という不文律に長年縛られてきたのはご存じのとおりだ。が、パワートレインの電動化に伴ってエンジンとトランスミッションの間にモーターを置くスペースをひねり出す必要に迫られた際、シリンダーを2気筒カットしたV6化が合理的だと判断されたのだろう。

マクラーレンロードカーの第2章の幕開けを飾るとされる「アルトゥーラ」。3リッターV6ツインターボエンジンをベースとするプラグインハイブリッドパワートレインを搭載する。
マクラーレンロードカーの第2章の幕開けを飾るとされる「アルトゥーラ」。3リッターV6ツインターボエンジンをベースとするプラグインハイブリッドパワートレインを搭載する。拡大
新世代シャシーの「マクラーレン・カーボンライトウェイトアーキテクチャー」を初採用。シャシー単体で従来型よりも10%の軽量化を実現している。
新世代シャシーの「マクラーレン・カーボンライトウェイトアーキテクチャー」を初採用。シャシー単体で従来型よりも10%の軽量化を実現している。拡大
既存のモデルと同じく「ディヘドラルドア」を採用。上に向かって開くところは変わらないが、開けたときの幅が従来モデルよりも480mm小さくなっている。
既存のモデルと同じく「ディヘドラルドア」を採用。上に向かって開くところは変わらないが、開けたときの幅が従来モデルよりも480mm小さくなっている。拡大
上屋の部分はカーボンとスーパーフォームドアルミニウムで形成。「機能のためのフォルム」に従ってデザインされている。
上屋の部分はカーボンとスーパーフォームドアルミニウムで形成。「機能のためのフォルム」に従ってデザインされている。拡大
マクラーレン の中古車

餅は餅屋がマクラーレン

ただし、120度バンクのV6はV8やV12など上位エンジンとのモジュラー設計が成立しない。拡張性をどのように勘案するかは各社のポートフォリオによるところだが、今のところ市販車では前代未聞にして、とてもぜいたくなエンジン体験ということになる。ちなみにアルトゥーラも296GTBも、既にこのV6エンジンのみを動力源とするカスタマーレーシングモデルを発表済みだ。

アルトゥーラの市販化の実現は、前世代から関係の深いサプライヤーに支えられている一面もある。例えばこのV6エンジン本体はマクラーレンによる開発・設計で、生産はリカルドが担当。タイヤは専用設計のピレリを履き……と、こちらが問えばマクラーレン側はそれを隠すこともなく答えてくれるのだが、それもまた普通のOEMとは異なる、レーシング出自のブランドゆえの見解だろう。ささいなプライドに執着するよりお互いの領域に集中しながらプロ同士で最善を尽くし合うのが勝ちへの当然の歩み。彼らはそれを身をもって知っているわけだ。

最高出力95PS/最大トルク225N・mのモーターによって、最高速130km/h、最長31km程度のEV走行を可能とするPHEV。アルトゥーラの社会性を示す側のパフォーマンスの一端だ。それはあくまでベストエフォートであって、EV走行のカバレッジを東京的な尺度で言えば、世田谷や杉並といった住宅エリアから都心に出かける、満充電であればその往復分くらいはこなせるかというところだと思う。そういう日常的な速度域では動力性能に不満はないが、速度域が3桁に至る高速が絡むとちょっと心細いかなというのが正直なところだ。また、走行時にエンジン出力を強制充電の側に回すモードがないなど、もう少しモーター走行への配慮や工夫があってもいいかなと思うところはある。

新世代の封切りであっても、クルマを動かすうえでのインターフェイスは前世代と違いはない。ステアリングは断面形状まで練り込まれた細身のグリップでスイッチ類は一切なく、短いストロークと確実なクリック感を備えたパドルの奥に、薄く短いウインカーやワイパーのレバーが配される。繊細な入力でハイスピードを御するスポーツカーの操作系としては相変わらず絶品だと思う。加えて、ドライブモードのセレクターはセンターコンソールからメーターナセルに移されるなど、運転にまつわる操作関係はすべてステアリングの周辺で完結するようになった。

足まわりはフロントがダブルウイッシュボーン式でリアがマルチリンク式。カメラなどで得た情報をもとに減衰力を最適化する「プロアクティブダンピングコントロール」を搭載している。
足まわりはフロントがダブルウイッシュボーン式でリアがマルチリンク式。カメラなどで得た情報をもとに減衰力を最適化する「プロアクティブダンピングコントロール」を搭載している。拡大
タイヤは専用開発の「ピレリPゼロ」。サイズはフロントが19インチでリアが20インチ。
タイヤは専用開発の「ピレリPゼロ」。サイズはフロントが19インチでリアが20インチ。拡大
バンク角120度の3リッターV6ツインターボユニットは単体で最高出力585PSと最大トルク585N・mを発生。メッシュカバーで覆われて直接は拝めないようになっている。
バンク角120度の3リッターV6ツインターボユニットは単体で最高出力585PSと最大トルク585N・mを発生。メッシュカバーで覆われて直接は拝めないようになっている。拡大
ボンネット下にはラゲッジコンパートメントが備わっている。容量は150リッター。
ボンネット下にはラゲッジコンパートメントが備わっている。容量は150リッター。拡大

洗練のパワートレイン

前世代から継承されている美点といえば、乗り心地もしかりだ。進行先の路面状況をカメラ等で読み取りダンピングレートに反映させるフィードフォワード制御を備えた最新世代のプロアクティブダンピングコントロールが、それに大きく貢献しているとすれば大したものだと思う。が、それ以前に軸まわりの精度やモノコックの減衰感、あるいはホイールハウスやキャビンに施された遮音策など、基本的なところでしっかり利を積んでいることも間違いない。マクラーレンには「GT」というラグジュアリーモデルもあるが、それにほど近い快適性を備えていると思う。こうなると、シート背後にバッテリーを積む影響か、小物を置くスペースがわずかなのが残念だが、前側のトランクはしっかり容量が確保されている。

市街路での速度変化の曖昧な要求に、初出のハイブリッドシステムは果たしてどう応えるのかという上から目線の心配は杞憂(きゆう)だった。かなり微妙で意地悪なアクセルワークを試し続けても、モーターとエンジンとの連携でやすやすと馬脚を現すことはない。もちろん「THS」や「e:HEV」のようなバトンタッチを気づかせないほどのきめ細かさは望めないにしても、ものがスポーツカーとあらば洗練されていると評していいだろう。ここでも完全バランスの120度V6エンジンが、連携の滑らかさに効いている感はある。

システム総合の出力は680PS、トルクは720N・mと、「720S」に比べて40PS/50N・m小さい。その数値から想像する速さの違いを露骨に感じることはないが、フィーリング的な差は予想以上に大きい印象だ。低中回転域の肉厚なトルクがもたらす骨太な加速感はまさしくモーターアシストの押し込みがなせる業だが、高回転域ではパワーバンドに乗ったような伸び感に乏しく、そのフラットな速さにちょっと分かりやすいお色気を求めたくもなる。

駆動用モーターは最高出力95PSと最大トルク225N・mを発生。EV走行換算距離は31km(WLTPモード)。
駆動用モーターは最高出力95PSと最大トルク225N・mを発生。EV走行換算距離は31km(WLTPモード)。拡大
機能のみを追求したインストゥルメントパネルはイタリアのライバルとは一線を画す仕立てだ。前方視界のよさは写真でも確認できる。
機能のみを追求したインストゥルメントパネルはイタリアのライバルとは一線を画す仕立てだ。前方視界のよさは写真でも確認できる。拡大
今回の試乗車のシート表皮はアルカンターラとスムースレザーの組み合わせ。イエローのステッチがさりげない。
今回の試乗車のシート表皮はアルカンターラとスムースレザーの組み合わせ。イエローのステッチがさりげない。拡大
ペダルのレイアウトはご覧のとおり。スリットの部分は滑り止めのラバーではなく、すべてきっちりと肉抜きが施されている。
ペダルのレイアウトはご覧のとおり。スリットの部分は滑り止めのラバーではなく、すべてきっちりと肉抜きが施されている。拡大

思い出すのは原点のロードカー

峠道で驚かされたのは、動力性能よりむしろ、曲がる・止まるといった要素がことごとくニュートラルにまとめられていたことだ。特に乗員にはロール量を感じさせない一方でドライバーには姿勢変化をしっかり伝えながら、ペタペタの接地感をもって曲がり抜くアシのタッチはミドシップのスーパースポーツとしてはちょっと異質で、ライバルに対して彼らのクルマづくりの力点がちょっと違うところにあることを思い知る。プラグインハイブリッドシステムによる130kgの重量増を相殺すべくあらゆる箇所に軽量化を施し、車検証記載値でも1.5t台に収めた軽さが、この味わいのベースとなっていることは疑いのないところだ。

マクラーレン・オートモーティブ初のモデルとなった「MP4-12C」は、その出来栄えがいかにもロン・デニス的な理想論で固められていて、クルマと知能で対話したい向きの評価は今でも高い。が、それと商売とは別の話というジレンマもあり、さりとてイタリア勢とはひと味違う華をいかに描くかというところで彼らは模索し続けてきたのだろうと察している。

新世代の第1弾となったアルトゥーラの印象も、MP4-12Cに初めて乗った時のそれに似ているように感じられた。乗るほどに、クルマのつくりも動きもいかにも理にかなっていて、思考にも行動にも無駄のないことがひしひしと伝わってくる。そういう完璧さが飾り気のなさに映るかもしれないが、例えば世の中には理詰めの官能という境地もあるわけだ。これからアルトゥーラはビジネスのど真ん中を支えていくわけだが、マクラーレンというブランドの顔としては、こういう通好みな感じがあったほうがいいのだと思う。

(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

0-100km/h加速のタイムは3.0秒で最高速は330km/h。ダッシュ力ばかりではなくコーナリング性能や制動力の仕上がりも際立っていた。
0-100km/h加速のタイムは3.0秒で最高速は330km/h。ダッシュ力ばかりではなくコーナリング性能や制動力の仕上がりも際立っていた。拡大
ドライブモードセレクターはメーターナセルの左右に備わっている。右側はパワートレイン用で、モードは「E」「コンフォート」「スポーツ」「トラック」の4種類。
ドライブモードセレクターはメーターナセルの左右に備わっている。右側はパワートレイン用で、モードは「E」「コンフォート」「スポーツ」「トラック」の4種類。拡大
左側はシャシーの設定用。モードは「コンフォート」「スポーツ」「トラック」の3種類。
左側はシャシーの設定用。モードは「コンフォート」「スポーツ」「トラック」の3種類。拡大
シフトセレクターはプッシュボタン式。8段DCTはリバースギアを備えておらず、モーターによって後退する。
シフトセレクターはプッシュボタン式。8段DCTはリバースギアを備えておらず、モーターによって後退する。拡大

テスト車のデータ

マクラーレン・アルトゥーラ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4539×1913×1193mm
ホイールベース:2640mm
車重:1395kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:アキシャルフラックスモーター
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:585PS(430kW)/7500rpm
エンジン最大トルク:585N・m(59.7kgf・m)/2250-7000rpm
モーター最高出力:95PS(70kW)
モーター最大トルク:225N・m(22.9kgf・m)
システム最高出力:680PS(500kW)/7500rpm
システム最大トルク:720N・m(73.4kgf・m)/2250rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)295/35ZR20 105Y(ピレリPゼロ)
燃費:4.6リッター/100km(約21.7km/リッター、WLTPモード)
価格:3070万円/テスト車=--万円
オプション装備:--

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2285km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:356.2km
使用燃料:48.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.4km/リッター(満タン法)/7.9km/リッター(車載燃費計計測値)

マクラーレン・アルトゥーラ
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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