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トヨタの高性能ハッチバック「GRカローラ」と「GRヤリス」、選ぶべきはどっち?

2023.01.09 デイリーコラム 玉川 ニコ

スペックは微妙に違うものの……

「GRカローラ」にすべきか、はたまた同じパワーユニットを積む「GRヤリス」にすべきか――というのは、私にとっては大変重要なイシューである。

なぜならば、私にはカネがないからだ。

もしも私が大金持ちであったなら、朝の身支度を整えながら、執事に「先日注文したGRヤリスを引き取りに行く際、GRカローラもオーダーしておいてくれたまえ。なに? 抽選方式だったから買えるかどうかわからない? そんなことは豊田章男社長にお願いにあがって、なんとか取り計らっていただきなさい!」と一喝したうえで、両方を手に入れるだろう。お願いすれば取り計らってくれるものなのかどうかは知らないが(たぶん、くれないだろう)。

だが実際の私が入手できるものといえば――抽選に当たるかどうかはさておき――GRカローラまたはGRヤリスのどちらか1台のみというのがギリギリの線。それゆえ、悩むのだ。

両者のパワーユニットは、冒頭でも触れたとおり同じだ。いや1.6リッター3気筒の「G16E-GTS」エンジンは、GRヤリスの「RZ」のものが最高出力272PS/6500rpmで、GRカローラでは同304PS/6500rpmであるようだが、そんなささいな違いは私ごときには(たぶん)わからないはず。そしてニッポンの公道にはその違いをフルに体感できる場所もない。そのため「俺にとっては同じ!」と言い切ってしまっていいだろう。

またスポーツ4WDシステム「GR-FOUR」も、GRカローラのそれはさらにいろいろ最適化されているそうだが、そんな細かい違いについても「たぶん俺にはほとんどわからない!」と言える自信に満ちあふれている。

「トヨタGRカローラ」の日本仕様車「GRカローラRZ」は、2022年6月にデビュー。新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足の影響により、まずは台数限定で抽選販売されることになった。
「トヨタGRカローラ」の日本仕様車「GRカローラRZ」は、2022年6月にデビュー。新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足の影響により、まずは台数限定で抽選販売されることになった。拡大
「カローラ スポーツ」をベースに開発された「GRカローラ」。弟分の「GRヤリス」に対しては、ロングホイールベースによる操縦安定性の高さが強みとなっている。
「カローラ スポーツ」をベースに開発された「GRカローラ」。弟分の「GRヤリス」に対しては、ロングホイールベースによる操縦安定性の高さが強みとなっている。拡大
「GRカローラ」「GRヤリス」に採用される「G16E-GTS」エンジンは、ハイパワーな1.6リッター3気筒ユニット。「GR-FOUR」と呼ばれるスポーツ4WDシステムが組み合わされる。写真はGRカローラのパワートレイン。
「GRカローラ」「GRヤリス」に採用される「G16E-GTS」エンジンは、ハイパワーな1.6リッター3気筒ユニット。「GR-FOUR」と呼ばれるスポーツ4WDシステムが組み合わされる。写真はGRカローラのパワートレイン。拡大
「GRカローラRZ」のリアエンド。3本のテールパイプが顔をのぞかせる。
「GRカローラRZ」のリアエンド。3本のテールパイプが顔をのぞかせる。拡大
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血筋で言うならいい勝負

走行性能が(私から見れば)ほぼ同じであったとしたら、「神話成分」の違いについてはどうだろうか?

スポーツカーというのは、諸性能の高低ももちろん重要ではあるが、それと同等かそれ以上に「何かしらの神話を持っていること」が重要だ。

往年の日本GPでの勝利。WRC(FIA世界ラリー選手権)での旋風。ジェームズ・ディーンの死――等々の神話というか伝説をその身に帯びていてこそ、スポーツカーは、その諸性能や価格以上に光り輝くサムシングとなるのだ。

だがその点についても、GRカローラとGRヤリスは好勝負を展開してしまう。

ご存じのとおりGRヤリスは「WRCで勝利するためのホモロゲーションモデルである」という、かなり高貴な出自を持つ。スポーツカーが備えるべき神話としては十分以上のものだ。

だがGRカローラも負けてはいない。

「カローラ家」は貴族・豪族的な意味での名家ではないが、商売の世界ではグローバル規模の大成功をおさめたある種の名門であり、先祖の一部が1975年の1000湖ラリーで勝利し、1999年シーズンのWRCマニュファクチャラーズタイトルを獲得した武闘派でもある。実績と神話は十分であり、「長い歴史的背景を持つ」という意味では、GRヤリス以上に神話性が高いとみることもできる。

2020年9月に発売された「GRヤリス」は、WRCのホモロゲーション取得を目的としてつくられた高性能ハッチバック。開発にはTMR(トミ・マキネン レーシング)が関与するなど、その生い立ちは折り紙付きだ。
2020年9月に発売された「GRヤリス」は、WRCのホモロゲーション取得を目的としてつくられた高性能ハッチバック。開発にはTMR(トミ・マキネン レーシング)が関与するなど、その生い立ちは折り紙付きだ。拡大
軽量・高剛性を追求した専用ボディーがおごられる「GRヤリス」。そのうまみは、エントリーモデルのCVT車でも堪能できる。
軽量・高剛性を追求した専用ボディーがおごられる「GRヤリス」。そのうまみは、エントリーモデルのCVT車でも堪能できる。拡大
「GRヤリス」のインテリア。1.5リッターエンジンを搭載するCVT車を除き、トランスミッションは6段MT(写真)となる。
「GRヤリス」のインテリア。1.5リッターエンジンを搭載するCVT車を除き、トランスミッションは6段MT(写真)となる。拡大
現行型「トヨタ・カローラ」はWRCに出場していないが、カローラそのものは同ラリーとは縁が深い。マニア車に求められる“神話成分”は十分といえるだろう。
現行型「トヨタ・カローラ」はWRCに出場していないが、カローラそのものは同ラリーとは縁が深い。マニア車に求められる“神話成分”は十分といえるだろう。拡大

最後の決め手はファミリー

両者の諸性能が(ほぼ)同じで、神話性においても互角となれば……あとは「実用性」こそが勝負を分けるポイントとなるだろう。そして私は実用性という観点において、GRヤリスではなくGRカローラを選びたいと思う。

「実用性」と言ってしまうと、いかにもショボいというかセコい評価軸に聞こえるかもしれないが、「家庭の危機および人生全体の危機を回避する」という意味において、ここは大変に重要である。

熟慮の結果、仮に私がGRヤリスを選んだとしよう。そして前述のとおり私にはカネがないので、そうなると必然的に「わが家の唯一のクルマがGRヤリス」ということになる。

めでたく納車されたGRヤリスを見て、妻はどう思うだろうか?

聞いていた話とはあまりにも違う、狭い後席を見てがくぜんとし、「……結局あの人(※筆者)は自分のことしか考えてなくて、私や子どもたちのことなんかどうでもいいのね。あーわかりました。わかりましたとも」と言ってその夜のうちに離婚届の記入を済ませ、子どもを連れて故郷へ帰参。その後、私が説得を試みるも彼女の決意は固く、半年後には離婚が成立。そして妻と家族を失った私は仕事にも身が入らなくなり、その結果として仕事量が激減。ついには住居も失うはめとなり、新宿の公園で炊き出しの列に並びながら「昭和枯れすすき」のAメロを口ずさむ――という未来が、私にはおぼろげに見えてしまうのだ。幻覚かもしれないが。

それに対して「カローラ スポーツ」と同等の室内寸法であるGRカローラなら、「妻が1週間ほど口を利いてくれない」程度の反応でなんとか済み、その後は、いまと変わらぬ生活に戻れそうな気がするのである。甘い期待かもしれないが。

いずれにせよ私であれば上記の理由により、GRカローラを選ぶだろう。クルマも大切だが、それ以上に“人生”のほうが大切だからである。

(文=玉川ニコ/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)

「GRヤリス」は限定車ではなく、265万円から456万円までの価格帯で販売される。ハイパワーな1.6リッター直3ターボモデルは330万円から。このほかフルチューン版たる限定車「GRMNヤリス」(731万7000円~846万7000円)も設定されたが、すでに完売している。
「GRヤリス」は限定車ではなく、265万円から456万円までの価格帯で販売される。ハイパワーな1.6リッター直3ターボモデルは330万円から。このほかフルチューン版たる限定車「GRMNヤリス」(731万7000円~846万7000円)も設定されたが、すでに完売している。拡大
3ドアハッチバック「GRヤリス」のネックとなるのは、やはり実用性だろう。後席の乗降性や空間的な快適性は決して良いとはいえないし、ドライバーの後方視界もやや狭い。
3ドアハッチバック「GRヤリス」のネックとなるのは、やはり実用性だろう。後席の乗降性や空間的な快適性は決して良いとはいえないし、ドライバーの後方視界もやや狭い。拡大
写真は、「GRカローラ」の高性能バージョン「GRカローラ モリゾウエディション」のインテリア。軽量化優先で後席が省かれている同モデルは、実用性を重んじる向きにはなかなか手が出せない。価格も715万円と高価だが……。
写真は、「GRカローラ」の高性能バージョン「GRカローラ モリゾウエディション」のインテリア。軽量化優先で後席が省かれている同モデルは、実用性を重んじる向きにはなかなか手が出せない。価格も715万円と高価だが……。拡大
「GRカローラ」の商談は、2023年1月から順次スタート。同年春にはデリバリーが開始される見込みとなっている。
「GRカローラ」の商談は、2023年1月から順次スタート。同年春にはデリバリーが開始される見込みとなっている。拡大
玉川 ニコ

玉川 ニコ

自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport EX」。

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