トヨタ・クラウン クロスオーバーRS“アドバンスト”(4WD/6AT)
解き放たれたクラウン 2023.01.16 試乗記 「トヨタ・クラウン」といえば「ユーザー層の若返り」が積年のテーマだが、すべてが刷新された16代目で、ついにそれが実現しそうだ。走りっぷりは若々しく、何よりも“新しい乗りもの”感にあふれている。ターボハイブリッド車「RS」の仕上がりをリポート。SUVベースのセダン?
FFプラットフォーム(車台)に切り替え、2種類のガソリンハイブリッドを用意して、後輪はモーターで駆動する4WD。16代目にして、まさにリボーン(生まれ変わり)を遂げたのが新型クラウンの第1弾、クロスオーバーである。
クロスオーバーといっても、ボディーはテールゲートを持たない4ドアセダンである。ただ、ウエストラインが高いので、そばに近づくとこれまでのセダンにはないサイズ感と押し出しがある。旧型クラウンと比べて、最低地上高は大差ないが、屋根(全高)は10cm近く高くなった。SUVからセダンを考えた“ハリアーのセダン”みたいなクロスオーバー感を持つのはたしかである。
試乗したのはシリーズ最上級の「RS“アドバンスト”」(640万円)。RSは新型「レクサスRX」にも搭載された“デュアルブーストハイブリッドシステム”を備える。2.4リッター4気筒ターボを基本に、6段AT内蔵のモーターと多板クラッチを組み合わせたワンモーター2クラッチハイブリッドで、349PSのシステム最高出力を誇る。かつての「日産フーガ ハイブリッド」などと同様のシステムだが、こちらはターボエンジンの前輪駆動で、後輪駆動の「E-Four」を併せ持つ。遊星ギア祭りのフクザツな動力分割機構を使う初代「プリウス」以来の2モーターハイブリッドとは違う“パワーハイブリッド”と言っていいだろう。標準モデルには2モーター式の2.5リッター“THS II”が搭載されるが、リボーンがテーマなら、RSこそがクラウン クロスオーバーの本命と言えるかもしれない。
乗り心地はたしかにクラウン
FFプラットフォームのセダンといえば、「カムリ」がある。ルーフのツートーンが目立つあのクルマもけっこうイイから、新生クラウンも手堅くまとめてくるはず。そう思って乗った新型は、期待を裏切るクルマだった。これは今までに乗ったことがないクラウン、今までに乗ったことがないセダンである。
都内の狭い一般道を走りだしたときはサイズ以上にボディーを大きく感じた。アイポイントもライトクロカン四駆並みに高い。しかし、前席の居住まいは高級セダンである。
電子制御ダンパーの入った足まわりはズッシリしている。しかも靴底が厚い感じだ。腰から下でショックをいなす、いわゆるフラットさはいまひとつだが、タイヤからのゴツゴツやコツコツは見事に遮断している。畳の上を走っているように“当たり”が柔らかい。そこはまさにクラウンだ。でも、デッカくてアイポイントが高いのである。
さらにサプライズだったのは、このターボハイブリッドパワーである。タコメーターはないが、回すと4気筒の音を聴かせる。粛々と回るという感じではない。だが、チカラはあり余るほどある。若々しいハイブリッドだ。
“スポーツセダン”にはあらず
50年ぶりにクラウンとして販売がスタートしたアメリカで、RS用の2.4リッターターボハイブリッドは“ハイブリッド・マックス”と名づけられている。米国トヨタのサイトには日本と違って加速データも明記され、0-60マイル(96km/h)=5.7秒。3リッター級スポーツカーに近い加速性能である。燃費ハイブリッドのプリウスだけじゃないぞアピールだろう。
前輪駆動をメインに、必要なときにモーターが後輪を駆動するシステムは極めてスムーズで、エネルギーフローのモニターを注視していなければやりとりは分からない。エンジン単体でも最大トルクは400N・mに達するが、急加速してもハンドルにターボハイブリッドのキックバックが伝わることはない。ただ、停止直前にエンジンが発電のために回り始めたときは、それと分かる細かい振動が手に伝わった。
マルチリンクのリアサスペンションには、DRS(ダイナミックリアステアリング)が備わり、必要に応じて後輪を同位相、逆位相にきる。アイポイントは高くても、コーナーでのロールはよく抑えられている。だが、ワインディングロードでドライバーをあおってくるようなクルマではない。“スポーツセダン”な感じはしない。そのへんもたしかにクロスオーバーである。
2.5リッターのTHS IIはレギュラーガソリンだが、RSのターボハイブリッドには無鉛プレミアムが指定される。燃料経済性最優先のハイブリッドではもちろんないが、今回、450kmを走り、リッター10kmは超えた。
悲願達成の予感
内装のデザインや質感はカジュアルでなかなかいいと思った。計器類や操作系もハイテクがほどほどで使いやすい。計器盤はフルデジタルだが、エアコンの操作部はダッシュボード中央にリアルスイッチでまとまっている。
車載カメラの情報をもとに自車と周囲の状況をモニターに映し出すパノラミックビューモニターはもうおなじみだが、ルーフに乗せた三脚にカメラを据えたような画角の“サイドクリアランスビュー”は今回初めて見た。屋根のすぐ上を飛ぶドローン映像のようなおもしろい絵だ。
1990年をピークにクラウンの販売台数は下降線をたどり続け、オーナーの平均年齢はとっくに70歳を超えていた。なんとかしなければならないという長年の課題に正面突破で取り組んだのがこんどのクラウンである。
筆者は1955年登場のクラウンと同じトシである。初代の“観音開き”も親と乗ったタクシーで知っている。免許を取ったとき、最もポピュラーな教習車は4代目の“くじらクラウン”だった。そういう長いスパンでこんどのモデルチェンジを捉えると、初めてクラウンが解放されたように感じた。国内専用車という鎖国状態も解かれた。「ジャパンタクシー」が軌道に乗って、タクシー需要も考える必要がなくなった。
第1弾のクロスオーバーRSは、クラウンなのに個性的で、楽しいクルマだった。これが数売れてしまうと、CAFE(企業別平均燃費)規制は大丈夫だろうかとも思うが、ゼロエミッションの純EV「bZ4X」よりよほど“新しい乗りもの”感がある。
第16代の新型クラウンは悲願のオーナー年齢引き下げを果たすだろう。それだけでなく、別人に若返ったクロスオーバーRSは長年のクラウンオーナーにも意外やすんなり受け入れられるような気がする。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
トヨタ・クラウン クロスオーバーRS“アドバンスト”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1840×1540mm
ホイールベース:2850mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:272PS(200kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:460N・m(46.9kgf・m)/2000-3000rpm
フロントモーター最高出力:82.9PS(61kW)
フロントモーター最大トルク:292N・m(29.8kgf・m)
リアモーター最高出力:80.2PS(59kW)
リアモーター最大トルク:169N・m(17.2kgf・m)
システム最高出力:349PS(257kW)
タイヤ:(前)225/45R21 95W/(後)225/45R21 95W(ミシュランeプライマシー)
燃費:15.7km/リッター(WLTCモード)
価格:640万円/テスト車=722万5550円
オプション装備:ボディーカラー<ブラック×エモーショナルレッドII>(16万5000円)/ドライバーサポートパッケージ2(23万6500円)/リアサポートパッケージ(27万9400円)/デジタルインナーミラー(4万4000円)/ITSコネクト(2万7500円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(6万7100円)/HDMI入力端子(6050円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2380km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:451.4km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.6km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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