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第421回:コージの勝手に大予言2011!
 「スカイアクティブ」で今年はマツダの年だぜきっと(笑)

2011.01.24 小沢コージの勢いまかせ! 小沢 コージ
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第421回:コージの勝手に大予言2011! 「スカイアクティブ」で今年はマツダの年だぜきっと(笑)

目覚めよ、カントリーカンパニー

みなさま遅ればせながら、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

実は年末やっと話題の新技術、マツダの「スカイアクティブ(SKYACTIV)」なるものを広島で試してきまして、ひとしきり感動してきた次第なのであります。
一説によりますと、真のオリジナル技術&文化はカントリーサイドでしか育たないそうな。これは別に田舎をバカにした話ではなく、単純に情報の流動性に起因する。基本、そこに優れた都会はトレンド形成において有利であって、逆にガラパゴス諸島よろしく、情報&人的交流の少ないところでは固有の技術が生まれ、固有の文化が育つ。これまた一つの文化人類学的というか、社会人類学的定説なわけですね。

で、本題のマツダの新技術スカイアクティブ。コイツはすでに報道でご存じの人もいるとおり、パワートレインだけの話しではなく、ボディからシャシーまで、クルマ全体にかかわる新しいコンセプトの総称だ。

でも一番の話題は、やっぱりエンジンでしょう。今年発売予定の「デミオ」(マイチェンモデル)は、なんと10・15モード燃費で30km/リッター! それもハイブリッド技術ナシで達成している。
最大のポイントは、“圧縮比の壁”を打ち破ったこと。ガソリンエンジンの圧縮比が通常「11」前後のものを「14」に上げ、ディーゼルは「17」前後から「14」に落とした。これにより、それぞれのエネルギー効率が15〜20%ぐらいアップし、それも回転数全域で達成したってことになっている。

効率が上がれば、パワーと燃費性能がアップするのは当然だ。しかも、ハイブリッドみたいにハイテク電池も使わないし、ディーゼルだって圧縮比が落ちた分、排出ガスがキレイになって高価なNOx触媒が要らなくなるからコストが安く、さらにイージーメンテナンスも可能になる。ぶっちゃけ、そんなオイシイ話がいまさらあるの? ってぶったまげたけど、本当にそうなんだからしょうがない。

実際、俺が試乗した2リッターガソリンの「スカイアクティブG」を搭載するプロトタイプの「MAZDA6」(アテンザ)は、2.2リッターディーゼルターボぐらいのトルク感なんでビックリ。低回転でのトルクは普通だったけど、特に高速低回転からガバッとアクセルを踏んでも高圧縮比エンジンにありがちな「カラカラ」というノッキングを起こすこともなく、問題ナシ。当然発売までにはいろいろ直すところがあるんだろうけど、俺が感じた限りではレスポンスも良くて、それでいて違和感もなくパーフェクト。正直キツネにつままれたというか、不思議な感覚になりましたね。

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「変化」ではなく「進化」がうれしい

だってさ、今まで市販車のガソリンエンジンの圧縮比が14だなんてあり得なかった話じゃない? ディーゼルだってそう。それこそダイムラーとベンツが自動車を発明してから、いやもしかするとオットーさんがオットーサイクルを考えたときから、こんなに劇的な進化はなかったかもしれない。
たとえば「人間の身長はせいぜい高くても2mチョイ」だとか「人類って速く走って100m9秒台ぐらい」ってのが“定説”でしょ? それがいきなり「2.5mの大男が出現した」とか「100mを8秒台で走る」とか言われても信じられないのと同じようなもん。それぐらい信じられなかったし、乗ってみてビックリした。

マツダの燃焼担当のエンジニアによると、今回の研究は「常識を超えたところになにがあるか?」みたいな無茶なテストから始まったそうだ。
どんどん圧縮比を高めていくと、一定のところでパワーが“サチる”(上限に達する)のが常識。圧縮比12や13あたりで止まるそうで、今まではそこで実験をやめていたそうな。ところが今回のエンジニアは「その先」までトライしたらしい。特になにも考えずにね。

そこでサプライズは起きた! その先はデータが落ちていく……と思われたところで、なかなか落ちない! 意外とネバったのだ。そこで「なぜ?」と突きつめていくと、限界はまだまだ先にあり、もっと“攻められる”ことがわかった。

結果、そこから生み出されたのが、スカイアクティブのエンジンに採用されるいくつかの新技術である。それが「4-2-1マフラー」や「吸排気VVT」「直噴マルチホールインジェクター」「キャビティ(凹み)付きピストン」などで、ほとんどは圧縮比を上げた時のノッキングにつながる「異常燃焼」を解決するもの。

異常燃焼は、燃焼室内の過度な温度上昇がゆえに起きるもので、それを抑えるには無駄な発熱を抑えるか、効率的な放熱をすればいい。4-2-1マフラーはフレッシュエアの入りと抜けを良くして燃焼室を“掃気”して冷やすためだし、VVTもそう。直噴マルチホールも燃料冷却と燃料の微粒化のため。燃焼室のキャビティは燃焼を高速化するためのものらしいが、これまた熱が部分的に集中しないためのものだろう。
使う技術を細かくひもといていくと、一つ一つに魔法のようなモノはない。

すべては「一番いい状態で燃やす領域」をどんどん増やすための技術。小さなことの積み重ねだが、マジメな話、1997年にプリウスが出た時、いやそれ以上の感動がありました。というのもすごく職人的かつ日本人的な進化の仕方だと思ったから。トライ&エラーを重ねながら、個々の問題を解決していく。美しいストーリーではあ〜りませんか。

それとやっぱりクルマはテクノロジーであり、進化の話が一番だと思った。比べると、最近の日本の自動車はEV、ハイブリッドみたいな「飛び道具系」の話を除き、感動が少ない。細かな100円ショップのような工夫は多いけど、独自の発想と執念で世界で最初に、みんながよく知る難問を解決した! ってな話が少ないのだ。
その点このスカイアクティブのエンジンは、久々にみんなに自慢したくなる、日本人のすごさを分かりやすく業界に浸透させる発明だって気がする。
だって世界のエンジン開発者の誰もが初めてこの話を聞けば、「圧縮比14のガソリンエンジン? 燃費30km?? うっそだ〜!」って驚くはず。そういう意味でも、このスカイアクティブの開発ストーリーは、日本人に勇気を与えると思うのだ。

クルマ界のルイ・ヴィトンへ

それとあらためて感じたのは、マツダという企業そのもののユニークさというか、ユニークなポジションだ。これだけ世界進出が常識的で、中国をはじめ海外工場増強が当たり前の今、いまだ「日本工場で7割作って、8割世界で売っている」とか。これってハッキリ言って異様な割合ですよ、マジで。
それは年間100万台レベルの生産規模だからできることでもあるが、それ以上に戦略が“匠(たくみ)の技”重視だからなのである。

たとえばスカイアクティブのエンジンや、新設計のボディにしても完全に国内主導開発で、工作機械からしてほぼ自分たちの手で作っている。マツダの工場がすでに独自のノウハウの塊なのだ。
スカイアクティブは今までとほぼ同じ設備で作れるらしく、結果、従来の新作エンジンに比べて、設備投資は7割減! そういったコストセーブ技術が、工場の海外進出を防いでいるともいえる。いい意味でのガラパゴス状態の自動車メーカーがここにあるのだ。

無論、この体制が盤石とは言わない。中国進出にしろ、今後はもっと強化すべきだろう。だがメインが国内にあるということはそれなりに安心なわけで、技術の流出は防げるし、質の高い雇用も確保できるメリットがある。昨年末は業界に先駆けて期間工の給料を上げるなど、相変わらずの国内生産重視作戦をみせている。

いま中国で調子のいい企業は、利益や数は出ているかもしれないが「乗っ取られるんじゃないか?」「いいとこどりされるんじゃないか?」という不安を常に抱えていると思う。ただそれは、世界規模のメーカーからすると当然だし「なにをいまさら」って感じだろう。リスクはあってあたりまえなのだ。

そもそもその昔あった自動車メーカーの「400万台クラブ」(※年間それくらい生産できないと生き残れない)が幻想だったように、世界は先が読めない。マツダが国内にこだわるのは悪くないが、とどまるならスカイアクティブ以外にも、絶対的スタイル、絶対的ブランドを作り上げ、それこそ“クルマ界のルイ・ヴィトン”ぐらいの存在にならなければいけないだろう。海外にばっかり目を向ければいいわけでもないし、日本固有のオリジナル技術、個性もやっぱり大切なのだ。

もちろんそういう路線は難しいとは思うが、そんなガラパゴス戦略をやるメーカーが一つぐらいあってもいいとは思う。っていうか、実はスバルやダイハツも同じような路線という気もするけど。

ってなわけで不肖・小沢コージ、2011年はマツダの年になる! と勝手に予言しよう。期待してますよ。志半ばで頓挫した三菱のGDIみたいにならないでね〜(笑)。

(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』

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