マツダCX-60 PHEVエクスクルーシブ スポーツ(4WD/8AT)
坂の上の雲 2023.01.23 試乗記 多彩なパワートレインを用意する「マツダCX-60」のなかから、今回はプラグインハイブリッド車(PHEV)をピックアップ。先に登場したモデルと同様に粗があるのは事実だが、時折見られるキラリとした部分にはエンジニアの確かな意思が感じられる。マツダの描いた理想は果てしなく高い。PHEVこそが本丸
2022年、クルマ好きの間でさまざまな議論を巻き起こしたCX-60。その販売は好調のようで、日本では1万台以上のバックオーダーを抱えつつ、月1000台超のペースで登録が続いている。
その過半のモデルは3.3リッターの直6ディーゼルか2.5リッターの直4ガソリンかといったところだが、一方でCX-60の主力市場ともいえる欧州に目を向けると、その大半がこの2.5リッター4気筒PHEVということになる。
加えて言えば、アメリカ版CX-60ともいえる「CX-70」と、間もなく登場するその3列シートモデルとおぼしき「CX-90」にも同様のパワートレインが搭載されるもようだ。というのも、カリフォルニア州のZEV規制に照らせば50マイル以上の電動走行が可能なPHEVが完全な電気自動車(BEV)化までの重要な位置づけとなることが確実視されており、将来的にはその規制に倣うだろう東海岸都市を含め、米国の主要地域ではそれなくして商売が成り立たないという可能性が高まりつつある。直6の存在が目立つものの、グローバル視点で見れば、マツダにとってCX-60の本丸はこのユニットと言っても過言ではない。
そんな背景もあってか、ここ日本では欧州にやや遅れるかたちで納車を開始した「CX-60 PHEV」、パワートレインの概要は最高出力188PSの2.5リッター直4ガソリンエンジンを基に、自社製のトルコンレス8段ATとの間に175PSのモーターを挟み込むことで、モーター独立での走行や両方の動力源をミックスしたハイブリッド走行などを実現している。システムの最高出力は327PS、最大トルクは500N・mと、額面上は4~5リッターガソリンエンジン級のアウトプットで、0-100km/h加速は5.8秒と、マイルドハイブリッドの3.3リッターディーゼルの7.4秒に対してひと回りは速い。
内装の質感はプレミアムブランド並み
PHEVということで、搭載するバッテリー容量は17.8kWh。日本のWLTCモードでのEV走行換算距離は75kmとなっている。米国のEPAに照らせば、このパワートレインで50マイルのEV走行距離を得るには、もうひとつふたつは工夫が必要だ。ちなみに欧州WLTPモードでのEV走行換算距離は65km。CO2排出量は48g/kmと発表されているが、このPHEVならではの誇大表記がいつまで続くのやらと思っているのは、当然マツダとて同じだろう。ちなみに充電時間は出力200V/6kWの普通充電で満タンまで約3時間、出力50kWのCHAdeMOで20→80%が25分と発表されている。
駆動用バッテリーは前席~後席間に積まれるが、パッケージへの影響はほとんど感じられない。CX-60は後席の座面がやや低く、身長181cmの筆者は足を前方に追いやるような着座姿勢となるが、つま先の置き場に苦労することもなくすんなり収まることはできる。ただし、室内高を生かして座面をもう少し高くできないかとか、荷室長を抑えて前後席間が稼げないかとか、ちょっと考えてしまうところもなくはない。
対すれば前席の居心地は文句のつけようがない。ドラポジは相変わらずスキッと芯を食っているし、ペダルの角度や踏量、ステアリングの径や断面形状といったインターフェイスのチューニングも丁寧だ。操作モノもやたらと画面に組み込んで階層化することなく、ハザードスイッチも一等地に配するなど、乗員が惑わされる要素を概してつぶしてあるのは好感が抱ける。
加えて褒めたくなるのは内装のしつらえだ。グレードに応じてトリムに差はあれど、ダッシュボードやドアトリムなどの大物構成部品から金属や杢などの加飾部品に至るまで、クオリティーはクラストップレベルにある。車格や駆動レイアウトからみればガチのライバルと目されるのは「BMW X3」や「メルセデス・ベンツGLC」だが、それらのプレミアム陣営と相まみえても見劣りはない。こうなると幅的にちょっと窮屈に見える外装デザインがもったいなく感じるが、その制約が取り払われるのはアメリカ版のCX-70ということになるのだろう。
パワートレインはもう一段の洗練を
同じ2.5リッターを積む同グレードで比較すると、PHEV分の重量増は320kg。その増加分は車体の後ろ側にも多くかかり、重量配分的には50:50にほど近くまとまっており、かつ駆動用バッテリー搭載のおかげで低重心化も図られるかたちになっている。
この棚ぼた的低重心がCX-60の白眉たるハンドリングに、さらなる安心感をもたらしていることは間違いない。例えば高速道路のジャンクションや進入路のような曲率のフラットな路面を一定舵角で曲がっていく際など、車体の動きや据わりがひときわノイズレスでクリアに感じられる。スキール音が鳴りそうなほどのタイトな負荷ではマス全体の影響が先立ってくるが、そこまでの上屋の動きの推移は定常的だし、それを御する操舵ゲインの立ち上がり方も穏やかだ。きれいに動かせてきれいに曲げられるというこのクルマの美点においては、PHEV化の影響は限りなくゼロに近いと思う。
一方で、パワートレインについてはもう一段の洗練を望みたい。キックダウンスイッチをトリガーにモーター単独での走行状態を引き出しやすくしてある点などインターフェイスは扱いやすいが、エンジンが始動してモーターと連携するような状況では時折明確な段付きが表れる。クラッチを用いる縦置きのハイブリッド系ではままあるアラともいえるが、繊細なドライバビリティーを味わいと推すメーカーのクルマとしては、このトルク変動やアクセル操作に対する応答の波は、もう少しならしたいところだ。
CX-60 PHEVは車内に最大1500WのACアウトレットを持つほか、V2Hにも対応している。つまりは出先のレジャーのみならず、停電や災害時などの非常電源的な役割も果たせるわけで、自宅や車庫に普通充電の環境が確保できる人にとっては、その多用途性や経済性が魅力的だ。一方で、燃費面でのランニングコストでみると望外の伸びをみせるディーゼルの側に軍配が上がるだろう。
マツダならきっと大丈夫
CX-60といえばとかく話題になるのは平時の乗り心地だ。日常的に出くわす路面の凹凸や目地段差などでリアサスの動きが渋く、突き上げが強く表れる。今回の試乗車はPHEVゆえイニシャルのロードが大きいこともあってか少しマイルドに感じられたが、基本的な癖は変わっていない。BEV走行時に時折コツッとかすかな音が伝わってくるのはピロ脚が音源だろうか。
脚の動きの渋さの原因として、このリアサスの節に使われたピロボールジョイントが疑われることは多いが、それは考えにくい。ピロ自体の動きはゴム節とは比較にならないほど滑らかだ。市販車に用いるうえで心配すべきは、天候等の使用環境による劣化の差異、その劣化によるガタや異音だろう。そこにはある程度目をつむってでも脚の動きの確度を高めたい。それによって動的な精度感を引き上げることでマツダらしさを表現したい。つくり手にそういう思いがあることは伝わってくる。
確かにCX-60は条件がそろうとゾクッとするほど素晴らしいダイナミクスをみせてくれることがある。それはおおむね高負荷域、例えば前述の中高速域でのコーナリングというわけだ。でも、そういうゾーンはやはりクルマ好きのみが共有・共感できる領域であって、普通の人が黒いマツダのお店で「CX-5」以上のいい物感を期待してお財布を開いた結果の乗り心地がこれでは、エンジニアの理屈も屁理屈にしか聞こえないだろう。
ラージ商品群が企画や設計の段階から目指すところは相当に高く、ややもすれば、そのダイナミクスは今まで日本車には見えなかった坂の上の雲かもしれない。が、その理想のぶんだけ、たどり着くまでの坂道は茨道でもある。
こうなりゃその道、不退転で突き進むしかないじゃろう。
そんなおなじみのギリギリなマツダっぷりを、いちユーザーとしては手を合わせて見守るばかりだ。大丈夫、きっとものにしてくれるはずである。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
マツダCX-60 PHEVエクスクルーシブ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1890×1685mm
ホイールベース:2870mm
車重:2090kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:188PS(138kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/4000rpm
モーター最高出力:175PS(129kW)/5500rpm
モーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/1500rpm
システム最高出力:327PS(241kW)
システム最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R20 100W/(後)235/50R20 100W(ブリヂストン・アレンザ001)
ハイブリッド燃料消費率:14.6km/リッター(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:74km(WLTCモード)
EV走行換算距離:75km(WLTCモード)
交流電力量消費率:247Wh/km(WLTCモード)
価格:590万1500円/テスト車=618万6180円
オプション装備:ドライバーパーソナライゼーションシステムパッケージ(5万5000円)/パノラマサンルーフ(12万1000円) ※以下、販売店オプション フロアマット(8万8880円)/セレクティブキーシェル<マシーングレープレミアムメタリック>(1万9800円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2012km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:244.1km
使用燃料:23.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.6km/リッター(満タン法)/10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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