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急速なBEVシフトには懐疑的? スズキの成長戦略にみる“大衆車メーカー”の本音

2023.02.03 デイリーコラム 佐野 弘宗

いよいよ明らかにされたスズキのBEV戦略

スズキは2023年1月26日、2030年度に向けた成長戦略を発表した(参照)。そこでは最近話題のカーボンニュートラルへの取り組みのほか、世界が注目するバッテリー電気自動車(BEV)の具体的な導入戦略についても言及。そのために2030年までに4.5兆円(そのうち電動化関連投資は2兆円)を投資する計画であることも公表された。加えて、2027年度には浜松工場をいち早くカーボンニュートラル化するという取り組みや、インドでのバイオガス(原料は牛フン)研究など、素直に素晴らしい内容も含まれていた。

しかし、最大の注目はやはり、これまで積極的・具体的な発表がほとんどなかった、スズキのBEV投入計画だろう。2021年2月に鈴木 修会長の退任と合わせ中期経営計画を発表していたが、このときも「(計画の最終年度である)2025年までに電動化技術をそろえて、同年から製品に全面展開する」と述べるだけで、しかもそれはBEVというよりハイブリッド(HEV)が中心という雰囲気が濃かった。

鈴木俊宏社長も、スズキが得意とする軽自動車(以下、軽)や小型車=低コストを要求されるクルマをBEV化することの難しさを、ことあるごとに発言してきた。昨2022年初頭のNHKニュースでは、「軽の原点はやはり“ゲタがわり”であることを忘れてはいけない。そこから離れていくと電動化に失敗するんじゃないか。本当に環境にやさしいクルマとはなにか。軽に求められるものはなにか」と語っていたが、こうした趣旨の発言は、筆者自身も俊宏社長の口から直接うかがったことがある。

そんなスズキがこうして具体的なBEV計画を発表したのは、世の中がいよいよ“待ったなし”の空気になってきたということだろう。すでに将来的なBEV計画を発表済みの他の日本メーカーも、ことごとく計画の前倒しや拡大を迫られている。

今回の発表に合わせてか、その直前の1月11日にインドで開催された「オートエキスポ2023」では、同社初の世界戦略BEVとなるコンセプトカー「eVX」も公開。その量産モデルを2025年までに市販化するとも発表した。

2030年へ向けたスズキの成長戦略について説明する鈴木俊宏社長。
2030年へ向けたスズキの成長戦略について説明する鈴木俊宏社長。拡大
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理想と現実をてんびんにかけた“落としどころ”

現在のスズキの主要マーケットは日本、インド、欧州という3地域だが、2030年までに日本とインドで各6モデル、欧州で5モデルのBEVを投入するといい、説明会ではそれぞれのシルエットも公開された。ならべられたシルエットを見ると、eVXの市販モデルは日本を含む3地域すべてに投入されるようだ。また、スズキの市販BEV第1号はダイハツやトヨタと共同開発される商用BEV(2023年度に国内発売予定)であり、ほかにも「ワゴンR」や「ハスラー」に相当する軽BEVも計画されていることがうかがえる。

目標とする2030年時点での各極のパワートレイン比率の想定は、日本が「BEVが20%、HEVが80%(=100%電動化)」、欧州が「BEVが80%、HEVが20%(=100%電動化)」、インドが「BEVが15%、HEVが25%、純内燃機関のエンジン車が65%」とする。

欧州でのBEV比率が80%ととびぬけているのは、現地の急進的な政策から「そうせざるをえない」というのが現実だろう。日本の場合、政府が明確に掲げる題目は「2035年までにHEVも含めた電動化比率100%」というものだけで、BEV比率の目標は「2030年までにプラグインも含めて20~30%」とされている。今回スズキが発表した数値も、その政府目標の“下限”に合わせたものと思われる。こんなところからも「求められる最低限のことはするが、軽や小型車のBEV化は簡単でない」というスズキの本音が聞こえてくる……というのは筆者の勝手な思い込みだろうか。

スズキにとって最重要市場はいうまでもなくインドだ。なにせ、スズキ四輪車の世界販売の半分以上をインドでさばいている(ちなみに日本はスズキ世界販売の約2割)。また、インド乗用車市場でのスズキのシェアはかつてより落ちたとはいうものの、いまだ半分近い。

そんなインドでは「2030年までにBEV比率を30%にする」というのが現在の政府目標だが、今回のスズキが掲げた数値は15%と、政府目標の半分にすぎない。ただ、日本経済新聞によると、2022年4月時点でマルチ・スズキ・インディア(スズキのインド法人)の竹内寿志社長は「インドのBEV比率は2030年で8~10%程度」と予測していたというから、今回はそこから大幅に増加している。加えて、インド政府の目標も「2030年までに100%BEV化」としていた2017年ごろから年を追うごとにトーンダウンしており、そうした理想と現実をてんびんにかけて、スズキが見つけた“落としどころ”が今回の数字なのかもしれない。

インドの自動車ショー「オートエキスポ2023」で発表されたコンセプトモデル「eVX」。写真向かって右が、マルチ・スズキ・インディアの竹内寿志社長。
インドの自動車ショー「オートエキスポ2023」で発表されたコンセプトモデル「eVX」。写真向かって右が、マルチ・スズキ・インディアの竹内寿志社長。拡大

BEV版「ジムニー」の可能性も……

というわけで、今回のスズキの発表は、少なくともBEVに関しては「各マーケットに合わせて、やるべきことはやっていますよ」というアピールをひとまずしたにすぎないともいえる。また、同時に発表された二輪については筆者は専門外だが、「2030年まで世界販売で25%をBEV化」というのはホンダ(同時期の目標は15%)よりは高い数字ではあるものの、2050年までに90%を電動化するとしているヤマハや、2035年までに先進国向け主要車種をBEVとHEVに置き換えるというカワサキほどの積極性や勢いは感じられない気がする。

こうして見ていくと、スズキは現時点でも世の中の急激なBEVシフトには、やはりまだ懐疑的なのだろう。それゆえ、今回の発表もなんとなく必修項目を淡々と説明しているだけの印象になってしまっている。

ただ、こうして2030年まで=わずか向こう7年分の具体的計画を発表したということは、少なくとも商品づくりや技術開発はスタートしているはず。前記のeVXコンセプトのほか、四輪BEV用に2段ATの検討もしていると一部で報じられるなど、スズキ製BEVにはちょっと期待できそうな話題もちらほら聞こえてきた。

また、今回公開された資料には、欧州向けとして「ジムニー(日本名ジムニーシエラ)」のBEV版とおぼしきシルエットもあった。残念ながら日本向け製品にそれはなかったのだが、軽とBEVの親和性を考えると、軽ジムニーのBEVなんて、個人的にめちゃくちゃ面白そうなのだが……。スズキもせっかくBEVに踏み出すなら、とにかく楽しいクルマ(もちろん、二輪も船外機も)をつくってほしいものである。

(文=佐野弘宗/写真=スズキ/編集=堀田剛資)

どうせBEVを発売するなら、面白いクルマのほうが絶対にいい。スズキなら、例えば「ジムニー」の電動版なんていかがだろう?
どうせBEVを発売するなら、面白いクルマのほうが絶対にいい。スズキなら、例えば「ジムニー」の電動版なんていかがだろう?拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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