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軽自動車も全モデル電動化!? スズキの電動化戦略にみる課題と期待

2021.03.01 デイリーコラム

日本市場より海外市場のほうが積極的?

スズキは2021年2月24日に発表した中期経営計画において、2025年までに電動化技術を整え、同年より製品に全面展開、2030年からは電動化製品の量的拡大を図ることを表明した。先だって、2月初旬には日本経済新聞が「スズキが軽自動車の全車種でマイルドハイブリッドの用意を目指す」と報じている。

ここにきて、スズキについてもいよいよ自動車電動化のロードマップが見えてきたわけだが、それについて考えるうえで、まずは彼らの電動化製品の現状について振り返りたい。今日におけるスズキの電動化技術の主役は、マイルドハイブリッドだ。かつては「S-エネチャージ」と呼ばれていたもので、小型のリチウムイオン電池と「ISG」(インテグレートスタータージェネレーター/モーター機能付き発電機)を組み合わせたシステムである。減速時のエネルギーを利用して、ISGで発電。その電力で12Vバッテリーとリチウムイオン電池を充電する。加速時にはリチウムイオン電池の電力を使い、ISGでエンジンをアシスト。伸びやかな加速と燃費の改善を図るというものだ。

現在、スズキは国内市場において、軽自動車と登録車の双方でマイルドハイブリッド搭載車を設定。ただし“全着”とはなっておらず、マイルドハイブリッド採用モデルのラインナップにも非装着グレードがあるほか、そもそも登録車を中心に非採用モデルが多いのが現状だ。

ただ海外では、日本での登録車に該当するモデルでも、マイルドハイブリッドの採用が積極的に進められている。スズキのフラッグシップエンジンである1.4リッターターボも電動化されており、「ビターラ(日本名:エスクード)」だけでなく、欧州向けの「スイフトスポーツ」もマイルドハイブリッド車となっているのだ。また発展途上国の中で自動車の電動化に熱心なインドに注目してみると、コンパクトハッチバックの「バレーノ」、セダンの「シアズ」、ミニバンの「エルティガ」、SUVの「XL6」など、計6車種のマイルドハイブリッド車を投入している。

マイルドハイブリッドシステムが搭載された現行型「スズキ・ハスラー」。
マイルドハイブリッドシステムが搭載された現行型「スズキ・ハスラー」。拡大
現行型「ソリオ」に貼られる「HYBRID」のバッジ。今日におけるスズキの電動化技術の主役は、マイルドハイブリッドである。(写真:向後一宏)
現行型「ソリオ」に貼られる「HYBRID」のバッジ。今日におけるスズキの電動化技術の主役は、マイルドハイブリッドである。(写真:向後一宏)拡大
スズキのマイルドハイブリッド車に搭載される、リチウムイオン電池(右手前)と「ISG」(左奥)。一部のモデルでは、ISGを使ったクリープ走行も可能となっている。
スズキのマイルドハイブリッド車に搭載される、リチウムイオン電池(右手前)と「ISG」(左奥)。一部のモデルでは、ISGを使ったクリープ走行も可能となっている。拡大
欧州仕様の「スイフトスポーツ」には48Vのマイルドハイブリッドシステムが搭載されている。
欧州仕様の「スイフトスポーツ」には48Vのマイルドハイブリッドシステムが搭載されている。拡大
スズキ の中古車

電動化技術の開発に積極的だったスズキ

日本における現時点での電動車の展開を鑑みると、「スズキは遅れている」という指摘は誤りではない。しかし海外市場はその限りではないし、ましてや「スズキが電動技術の開発を怠ってきた」と捉えるのは誤りである。

近年の動向を振り返ると、2009年の東京モーターショーでシリーズハイブリッド式の「スイフト プラグイン・ハイブリッド」を発表。その後、名称を「スイフト レンジエクステンダー」に改め、2010年秋より実証実験を行っている。このスイフトは発電用の660ccエンジンと容量2.66kWhの小型リチウムイオン電池を搭載しており、200V普通充電だと約1時間でフル充電が可能。その電力のみで15kmの走行が可能なほか、発電用エンジンも備わるので“電欠”の心配は無用であった。2011年の東京モーターショーには改良型となる「スイフトEVハイブリッド」も出展されたが、そのままお蔵入りとなってしまった。

大きな転機となったのが、2015年の東京モーターショーでお披露目された、スズキ初となるストロングハイブリッドシステムを搭載した「スズキ・ソリオ」のプロトタイプだ。同車は2016年11月に市販化され、2017年7月には同じシステムが「スイフト」にも搭載された。このハイブリッドシステムは、スズキらしい軽量コンパクトなもので、1.2リッターガソリンエンジンと10kWの駆動モーター、小型リチウムイオン電池を組み合わせたもの。自動変速MTの「AGS」を備えるのもユニークだった。モーターの性能からも分かるように、ストロングハイブリッドといっても電動走行の領域は限定されており、そのぶんシステムを簡素化して価格を抑えたハイブリッド車に仕上げられていたのだ。

さらに、急速な電動化政策が打ち出されたインドでは、2018年に50台の「ワゴンR EV」、すなわち電気自動車(EV)のワゴンRを市場投入する実証実験も実施。当時の目標では、2020年4月の市販化を目指すとしていた。このように、スズキも電動化に向けて独自のアプローチを続けてきたのだ。

しかし、ご存じのように2020年登場の現行型ソリオでは、ストロングハイブリッド車は廃止に。インドでのEV市販計画も実現していない。

2009年の東京モーターショーに出展された「スイフト プラグイン・ハイブリッド」。2010年5月12日に国土交通省の型式指定を取得し、実証実験に供された。
2009年の東京モーターショーに出展された「スイフト プラグイン・ハイブリッド」。2010年5月12日に国土交通省の型式指定を取得し、実証実験に供された。拡大
2015年の東京モーターショーに出展された「ソリオ ハイブリッド」のプロトタイプ。
2015年の東京モーターショーに出展された「ソリオ ハイブリッド」のプロトタイプ。拡大
スズキ独自のストロングハイブリッドシステムは、5段の自動変速MTにモーターを組み合わせたシンプルなもの。モーターには燃費改善や動力性能の向上に加え、自動変速MTにつきものの変速ショックを緩和する役割も持たされていた。
スズキ独自のストロングハイブリッドシステムは、5段の自動変速MTにモーターを組み合わせたシンプルなもの。モーターには燃費改善や動力性能の向上に加え、自動変速MTにつきものの変速ショックを緩和する役割も持たされていた。拡大
マルチスズキによるインドでの実証実験に提供された「ワゴンR EV」。スズキは2020年4月をめどにインドでEVを市販化するとしていたが、その計画は実現しなかった。
マルチスズキによるインドでの実証実験に提供された「ワゴンR EV」。スズキは2020年4月をめどにインドでEVを市販化するとしていたが、その計画は実現しなかった。拡大

コスパで支持されるスズキならではの悩み

こうした近年の動向を見ると、スズキは自動車の電動化に消極的なのではなく、電動化技術の開発を続けながらも、(マイルドハイブリッドを除くと)それをうまく商品につなげられなかったと言うほうが適切だろう。ただ、それを技術力の問題と捉えるのは早合点というものだ。

スズキが電動車の導入に積極的でない最大の理由は、彼らがターゲットとする市場と顧客にある。国内でのスズキの販売は依然として軽自動車が主であり、そこにおける顧客の要望は、コストパフォーマンスの高さだ。「高くていいもの」は求められない。「安くていいもの」でなくては、スズキは許されないのだ。それを物語るエピソードは枚挙にいとまがないが、例えば軽自動車にABSが普及したばかりの頃には、顧客の中にABS非装着車を選ぶ人が一定数いたという。当時はABSの価値が理解されていなかったこともあるが、ユーザーの中には「少しでも安く」というニーズが確固としてあるのだ。

先述したストロングハイブリッドも、コストパフォーマンスが低く、顧客からの支持を得られないとして廃止したのが実情だろう。今後、登録車のストロングハイブリッドについては、すでに小型車向けのハイブリッドシステムを確立しているトヨタから技術が供給される可能性が高い。

では、軽自動車の電動化の今後はどうなるのだろうか? 冒頭で触れた中期経営計画にのっとるのならば、エネルギー回生のみを行う「エネチャージ」が搭載される「アルト」や、アイドリングストップさえ非装着の「ジムニー」など、電動化が進んでいないモデルを順次マイルドハイブリッド化していく。また将来を見据え、マイルドハイブリッドシステム自体の性能強化も図られるだろう。モデルライフ的に、アルトやワゴンRには新型登場時に新たなシステムが組み込まれる可能性が高い。

2016年に「ソリオ」に採用されてデビューしたスズキ独自のストロングハイブリッドだが、2020年に登場した現行モデルでは非採用となった。
2016年に「ソリオ」に採用されてデビューしたスズキ独自のストロングハイブリッドだが、2020年に登場した現行モデルでは非採用となった。拡大
スズキが、トヨタからOEM供給を受けて欧州で販売する「アクロス ハイブリッド」。「トヨタRAV4ハイブリッド」の姉妹車である。スズキは電動化の分野でトヨタとの結び付きを強めており、新中期経営計画においても、「アフリカでの協業」「商品ユニット補完」に加え、「電動車の協業」について言及している。(写真:Newspress)
スズキが、トヨタからOEM供給を受けて欧州で販売する「アクロス ハイブリッド」。「トヨタRAV4ハイブリッド」の姉妹車である。スズキは電動化の分野でトヨタとの結び付きを強めており、新中期経営計画においても、「アフリカでの協業」「商品ユニット補完」に加え、「電動車の協業」について言及している。(写真:Newspress)拡大
パワートレインの電動化どころか、アイドリングストップすら付いていない「ジムニー」。スズキの電動化戦略においては、まずはこうしたモデルの改良が急務となるだろう。
パワートレインの電動化どころか、アイドリングストップすら付いていない「ジムニー」。スズキの電動化戦略においては、まずはこうしたモデルの改良が急務となるだろう。拡大
長らく使用されてきたマイルドハイブリッドシステムについても、性能の向上、ないしは新システムの導入が求められる。
長らく使用されてきたマイルドハイブリッドシステムについても、性能の向上、ないしは新システムの導入が求められる。拡大

高価格化が懸念される軽自動車のEV化

ただ、さらに踏み込んだ軽自動車の電動化……ありていに言えばEV化には、さまざまな課題が存在する。先に紹介したインドのワゴンR EVは、航続距離90km程度の完全なるシティーコミューターだったという。そのコンセプトのままであれば、技術的には明日にも市場投入は不可能ではないかもしれない。しかし、日本でもすでに都市型EVを名乗る「ホンダe」や「マツダMX-30 EV」が登場しているが、それらの航続距離は250~300km。ワゴンR EVの3倍近い性能を備えるものの、それでも航続距離の短さが懸念されているのが現実だ。

さらに言えば、近年の軽自動車は高性能化によってファーストカーへと発展を遂げているが、短距離走行のEVではそのニーズに応えられない。そしてご存じの通り、EVの航続距離と価格は、見事な比例関係にある。

もちろん、技術革新や量産効率などにより、ある程度は価格を下げることもできるだろう。しかし問題は価格だけにとどまらない。駆動用バッテリーは重量増を招くうえ、安全性を確保すべくボディーの強化も必要となるからだ。多くのEVは、キャビンの下に駆動用バッテリーを搭載しているが、これはスペースの問題に加え、衝突時の高い安全性を確保するためでもある。そのため、EVのバッテリー搭載エリアの周囲は、入念な補強が加えられている。

これがボディー剛性の向上につながり、一部のEVに見られるような走りのよさや快適性の高さにも貢献しているのだが、補強による過度な重量増は、軽量コンパクトが旨の軽自動車と相いれるものではない。商品性を考えるうえで、どのあたりで折り合いをつけるかは悩ましいところだろう。

ちなみに、量産EVのパイオニアである「三菱i-MiEV」の車重は、ベースとなった「i」より200kgほど重い1100kg。価格は2009年のデビュー当初は398万円であったが、ライストイヤーとなった2020年は300万3000円だった。装備の変更などもあったので単純比較はできないが、10年の努力で100万円ほど安くなった計算となる。が、それでも「トヨタ・ハリアー」のエントリーモデル(2019年10月発売モデルで300万4100円)とほぼ同じ価格だったのだ。

ホンダが発売した都市型EVコミューター「ホンダe」。走行可能距離はグレードによって259~283kmとされている(WLTCモード)。
ホンダが発売した都市型EVコミューター「ホンダe」。走行可能距離はグレードによって259~283kmとされている(WLTCモード)。拡大
「マツダMX-30 EVモデル」に備わるバッテリーフレーム。EVでは大容量の電池や電動パワートレインに加え、専用の補強やボディー構造も必要となるのだ。
「マツダMX-30 EVモデル」に備わるバッテリーフレーム。EVでは大容量の電池や電動パワートレインに加え、専用の補強やボディー構造も必要となるのだ。拡大
2009年に登場した軽規格のEV「三菱i-MiEV」(2018年4月以降は登録車となっている)。装備を簡素化して価格を抑えたり、総電力量10.5kWhの廉価仕様を設定するなどして普及に努めた。
2009年に登場した軽規格のEV「三菱i-MiEV」(2018年4月以降は登録車となっている)。装備を簡素化して価格を抑えたり、総電力量10.5kWhの廉価仕様を設定するなどして普及に努めた。拡大
容量16kWhのバッテリーを搭載した上級仕様の「i-MiEV」も、2016年末の改良で262万4400円まで価格が引き下げられている。が、それでも通常の軽自動車と比べれば非常に高額だった。
容量16kWhのバッテリーを搭載した上級仕様の「i-MiEV」も、2016年末の改良で262万4400円まで価格が引き下げられている。が、それでも通常の軽自動車と比べれば非常に高額だった。拡大

ユーザーメリットのある製品こそスズキのモットー

すでに日産と三菱は、新たな軽EVの製造に向け、生産設備の投資を行うことを公表しているが、そこから生み出されるモデルがどの程度の性能と価格となるか。それが軽EVの指標のひとつとなりそうだ。昨今では軽自動車も装備が充実し、車両価格が200万円前後という高額なモデルも散見されるが、それを勘案しても、まずはエントリーグレードで300万円を切ることが必達目標だろう。

日産・三菱と同様に、スズキもいかにコスパの高い軽の電動車をつくり出すかで苦心しているはずだ。ただ彼らの場合は、EV化の前にストロングハイブリッドという選択もあるのではないか。スズキの乗用車向けハイブリッドはEV走行領域の狭さがアダとなったが、そのぶんモーターとバッテリーがコンパクトという利点がある。つまり、軽自動車にも最小限の対策で積み込めるはずなのだ。ひょっとすると、ソリオ/スイフトのストロングハイブリッドは、軽自動車向けのテストケースだったのかもしれない。

スズキの電動化戦略は、登録車を主とする国産他社のような勢いでは進まないだろう。しかし、それは環境対策とユーザーメリットのバランスを考量した結果なのだ。スズキが今も電動化に対してさまざまなアプローチを進めていることは、東京モーターショーの展示車両からも明らかなことで、また2020年11月にはEV仕様の軽トラックの試作車もお披露目している。商用車は使い方を限定しやすいこともあり、スズキ初の量産EVは、軽トラとなるのかもしれない。

何はともあれ、「いいものを安く」の精神が守られ続ける限り、他社とはスピード感が異なることがあっても、スズキはコスパ的に最良な電動車を提供してくれることだろう。それが日本だけでなく、新興国でも熱い支持を集める彼らの役目でもあるのだ。

(文=大音安弘/写真=スズキ、本田技研工業、マツダ、三菱自動車、向後一宏、Newspress、webCG/編集=堀田剛資)

日産が2019年の東京モーターショーで発表した「IMk」。軽規格の新型EVを示唆する、コンセプトモデルである。
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「スイフト」や「ソリオ」に採用されたストロングハイブリッドは、シンプルで省スペース性に優れている。軽自動車への転用も可能なのではないだろうか。
「スイフト」や「ソリオ」に採用されたストロングハイブリッドは、シンプルで省スペース性に優れている。軽自動車への転用も可能なのではないだろうか。拡大
2017年の東京モーターショーで発表されたスズキのコンセプトカー「e-サバイバー」。SUVタイプのEVである。
2017年の東京モーターショーで発表されたスズキのコンセプトカー「e-サバイバー」。SUVタイプのEVである。拡大
スズキが2019年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー「WAKUスポ」。パワートレインはプラグインハイブリッドとされていた。
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