全方位で全力攻勢! カワサキがEVもハイブリッドも水素エンジンも開発を進める理由
2023.01.06 デイリーコラム「H2」は「Hydrogen×Hybrid」という意味だった?
「カワサキの『H2』って、実はHydrogen(ハイドロジェン/水素)×Hybrid(ハイブリッド)の略なんじゃないか」
2021年の「EICMA(ミラノモーターサイクルショー)」において、欧州のメディア関係者や二輪完成車メーカーのエンジニアたちが集まったプライベートな夕食会で、あるメーカーのエンジニアがそう話し始めた。彼はイタリアにやって来る前、川崎重工業からカワサキモータースが分社化されるニュースを聞き、その事業方針説明でカワサキがハイブリッドのスポーツモデルを開発中であることを知って想像を膨らませたのである。
彼が言うには、2014年10月にドイツ・ケルンで行われたモーターサイクルショー「INTERMOT(インターモト)」で、スーパーチャージドエンジンを搭載したサーキット走行専用マシン「ニンジャH2R」が、その1カ月後のEICMAで公道用モデル「ニンジャH2」が発表されたとき、なぜそれまでカワサキの製品名として存在しなかったH2という名前が登場したのか、不思議でならなかったそうだ。しかし、水素エンジンおよびハイブリッドバイク(以下、HEV)開発の発表により、アタマの中の霧が晴れたという。当時はHydrogen×Hybridは先進的すぎて受け入れられないだろうと判断したカワサキが、来るべき未来に向けて研究を進めながら、その布石として、現時点でバイクファンに夢を与えるスーパーチャージドエンジンでH2というブランドをつくり上げ、そのときを待っていたのだと。
そのときはみな「面白いことを考えるね」と笑い話で終わったが、2022年11月に行われたEICMAでカワサキのプレスカンファレンスに立ち会い、1年前に聞いたその話がよみがえった。
カワサキはEICMA 2022で、2台の電動バイク(以下、EV)と1台のHEVモデル、そして水素エンジンを公開。カーボンニュートラルの実現に向けた事業方針を発表した。そのなかで、「Z」と名づけられたネイキッドモデルと「ニンジャ」と名づけられたカウル付きモデルの2台のEVバイクは、2023年の夏ごろに市販化。またHEVバイクは2024年の市販化を目指すと表明。水素エンジンに関しては、現在四輪メーカーを含む多数の企業とコンソーシアムを組んで開発を進めており、2030年代前半の実用化を目指すとした。
EVだけが将来への答えではない
EICMA 2022の話題をさらった、カワサキによるEV&HEV&水素エンジンの同時一斉展示。その狙いはどこにあったのか? カワサキモータースの先進技術・CN総括部長と、川崎重工業 社長直轄プロジェクト本部 近未来モビリティ総括部 副総括部長を兼任する松田義基氏に話を聞くと、それは「二輪におけるカーボンニュートラル実現において、EVしか語られない現状を打破するため、EVを含めた多様な選択肢を提案するためであり、その領域におけるカワサキの先進性をアピールするためだった」と言う。
カワサキは2019年のEICMAで、まだ開発中だったEVバイクのストリップモデルを世界初公開して話題となった(参照)。その後も、EICMAでEVおよびHEVモデルを順序立てて発表する予定だったが、新型コロナ感染症の拡大による混乱で計画が変更となり、2022年のEICMAでの一斉発表となった。2台のEVモデルは市販車に限りなく近く、HEVモデルも市販化の課題はすべてクリアできていると、松田氏は言う。
「EVバイクは、航続距離とバッテリー容量、それに充電時間を考えるとコミューターに限定されるでしょう。だからEICMA 2022で発表した2台のEVモデルも、欧州の『L3e-A1』(125cc相当)カテゴリー相当としました。でも、バイクに乗って郊外に出かけたいという要求は出てくるでしょう。そこで考えたのがHEVです。モーターとエンジンを、走行状況に合わせて使い分けたり一緒に使ったりすることで燃費を改善するとともに、エンジンともモーターとも違う、HEVにしかない乗り味をつくり上げることができるんです。すでに1000ccエンジン車並みの加速を実現していますが、そのフィーリングはエンジン車とは違います」
「HEVは複雑で大がかりなシステムを必要とするため、二輪車には搭載できないといわれていましたが、アイデアを駆使して実現可能な領域に到達することができました。その過程で、EV開発で得たノウハウを活用しながら、HEV独自の技術も開発することができた。今後、バイオフューエルやEフューエルの活用が盛んになってきても、燃費を向上させるHEV技術は流用できます。われわれが現在H2シリーズで展開している過給機も、基本は燃焼効率を高める技術であり、それは燃費向上につながっている。われわれの技術は、未来を見据えて、首尾一貫しているんです」
太平洋をまたにかけた水素実装の取り組み
一方で、水素エンジンの実用化に関しては、まだまだチャレンジが続くという。
川崎重工は、2010年から次世代エネルギーとして水素に着目し、水素を製造・運搬・貯蔵・使用するための技術開発を進めてきた。現在、同社は日豪間の水素サプライチェーン構築を目指すコンソーシアムに加入しており、オーストラリアの褐炭から精製した水素を液化するシステムに加え、極低温で輸送する世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を建造。天然ガスの輸送や貯蔵で培った技術を生かして、液化水素を貯蔵および供給する技術を開発し、運用を進めてきた。加えて2018年に世界で初めて成功した、市街地における水素のみを燃料とするガスタービン発電で培った水素燃焼技術をベースに、航空機用、船舶用、二輪車用といったモビリティー向け水素燃料エンジンの開発を進めている。
EICMA 2022で展示された水素エンジンは、その開発の結果のひとつだ。水素エンジンは現在、四輪完成車メーカーを含め、業界の枠を越えた幅広いメーカーがコンソーシアムを組んで開発を進めている。そしてカワサキは、ニンジャH2の998cc直列4気筒スーパーチャージドエンジンをベースに、水素燃料を直噴する燃料供給システムを開発。北米などで販売しているオフロード四輪車に搭載し、EICMA 2022の前にメディアを招いた走行デモンストレーションを行った。今回発表された水素エンジンは、そのデモ用エンジンと同型である。先述のとおりカワサキは「まだ課題が多い」としているが、これら現時点の成果を思えば、彼らの言う「2030年代前半の実用化」という目標も現実的に感じられるというものだろう。
ここまでハイブリッドと水素の話を聞いた後、筆者はふと思い出して、冒頭で紹介したエンジニアの妄想について真偽を問うてみた。松田氏の回答は「それはちょっと考えすぎですね」というもの。いささか話の腰を折ってしまったが、松田氏は最後にこう付け加えた。「新しい技術を市場に出せば、状況は変化します。それに対応しながら、走りながら考えて技術やカタチを固めていく。未来のモビリティーには、地域や環境によって、EVとHEV、そして水素のすべてを使っていきます」
(文=河野正士/写真=カワサキモータース、EICMA、河野正士/編集=堀田剛資)
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河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
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