第251回:まさかのコーナリング勝負
2023.02.06 カーマニア人間国宝への道わが愛車よりも売れている?
担当サクライ君から地味なメールが来た。
「今度『ルノー・アルカナ』のマイルドハイブリッドにお乗りになりませんか?」
アルカナ自体が地味な存在だが、そのマイルドハイブリッド車とくればさらに地味。自動車ライターで飯を食っている私だが、存在を1mmも知らなかった。
といっても私は、地味なクルマも好きだ。そもそもマイナー志向で、編集者時代、クルマ担当になる前は、ファミコン担当や霊界担当などをやっていた。よって即座に「乗る乗る~!」と返信したのである。
私はルノーとの縁が薄い。2年前に生涯初めてルノー車「トゥインゴ」を買ったが、プジョー/シトロエンを合計7台乗り継いでいるのに比べると、ルノーについては全然詳しくない。
しかし近年ルノーは、日本市場で元気だ。2022年は、大黒柱の「カングー」が欠けたにもかかわらず、前年比12.4%増の8618台を売り、輸入車ブランドとして第8位、プジョーをかわしてフランスブランド第1位に輝いたという。その内訳はこんな感じである。
- キャプチャー:2655台(内E-TECHハイブリッドが418台)
- トゥインゴ:2351台
- ルーテシア:1368台(内E-TECHハイブリッドが240台)
- メガーヌR.S.:804台
- アルカナ:754台(内E-TECHハイブリッドが702台)
日本ではマイナー志向のカタマリのようなアルカナも、結構売れた。少なくともわが愛車「プジョー508」よりは売れたに違いない。そのマイルドハイブリッド、いかなるクルマなのだろう。
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古き良き欧州大衆車の香り
いかなるクルマなのだろうと思ったまま当日まで完全に失念し、何も知らない状態で、夜8時、サクライ君が「アルカナR.S.ライン マイルドハイブリッド」に乗って来訪した。
サクライ:地味ですけど、よく走るんですよ。
オレ:そう。乗った感じで排気量を当ててみよう。えーと、2リッター!
サクライ:違います。
オレ:あ、ルノーに2リッターはなかったか。1.8リッター!
サクライ:違います。
オレ:えっ? じゃひょっとして1.6リッター?
サクライ:正解は1.3リッター直4ターボです。
オレ:ガーン! 1.3リッター! ボディーサイズを考えると、1.3リッターとは思えない走りだね!
サクライ:でしょう?
そのまま首都高に突入すると、アルカナのマイルドハイブリッドはさらに驚くべき走りを披露した。
加速力は必要にして十分。しかも燃費計は、サクライ君の運転を含め、17km/リッター近い数字を示している。この加速とこの燃費は、どっちも「E-TECHハイブリッド」とほとんど変わらない。値段は、マイルドハイブリッドのほうが30万円安いという。なら、この地味なマイルドハイブリッドのほうが、断然お買い得ではないだろうか……。
さらに驚くべきは、シャシー性能だった。ものすごく足がイイ! 接地感が満点で直進安定性も満点な、いかにも古き良き欧州車的な走りがカーマニアの秘孔を突く。25年くらい前、イタリア国内を走り回ったレンタカーの「オペル・コルサ」や、15年くらい前、欧州5カ国を走り回ったレンタカーの「フォード・フォーカス ワゴン」(1.6リッター直4ディーゼル)が思い起こされる。思えばフォーカス ワゴンでは、荷物満載のままニュルまで走ってしまった。遅かったけど。
アルカナのマイルドハイブリッドはパワーではなく足まわりの良さで、どこまで走ってもドライバーを疲れさせない古き良き欧州大衆車の香り満点だった!
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格上マシンを追い回したくなる
オレ:サクライ君、このクルマ、足がメチャメチャいいね!
サクライ:いいですよね。
オレ:E-TECHハイブリッドよりいいね!
サクライ:そうですか? あれも良かったですけど。
オレ:いやぁ、あれよりずっと良く感じるよ!
サクライ:軽いからですかね。
オレ:タイヤが地面に張り付いて離れないから、コーナリングもウルトライイね!
その時、アルカナR.S.ライン マイルドハイブリッドの背後に、ワルそうなヘッドライトがグイグイ迫り、バビーンと抜いていった。メルセデスの「SL」だった。
ちょっと追いかけてみようか。私はアルカナのアクセルを踏み込んでゆるゆると後を追い、そのままコーナーが続く区間に突入した。
するとどうだ。コーナリング速度の違いによって、あっという間にSLに追いついてしまった!
オレ:サクライ君、やっぱりアルカナのマイルドハイブリッドは、コーナーがメチャ速いんだよ! ほら、こんなに~!
サクライ:さいですね。
アルカナ マイルドハイブリッドのコーナリングが速すぎて、SLが止まって見える。つい車間距離が詰まり過ぎた。するとSLがブレーキランプを連続点灯! アオられたと思ったらしく、逆ギレして逆アオリをかましてきた。さすがワルなSLである。
こういう地味で足のいい欧州車に乗ると、つい格上マシンを追い回したくなってしまうのが、カーマニアの血なのだった。いいものに乗らせていただきました。涙が出ます。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。