ルノー・カングー インテンス ガソリン(FF/7AT)
成熟と喪失 2023.03.24 試乗記 ルノーの最新ラインナップに倣い、機能もデザインもすべてがモダンに進化した新型「カングー」。しかしガソリンエンジン搭載車「インテンス」のステアリングを握ると、その変貌とは裏腹に、歴代モデルの志と魂がしっかり受け継がれていることがわかった。鋭い視線のイケメン
カングーが帰ってきた! まずはその事実を心から喜びたい。本国では2020年11月に3代目モデルが発表されていたが、日本でお披露目されたのは2022年10月。首を長くして待っていたファンは、2023年3月からようやく手に入れることができるようになった。初代モデルが日本に導入されてから21年を経て、ルノー・ジャポンの大黒柱になっている。すでに3万台以上が販売されているというのだ。
新しいカングーは、立派になった。写真では見ていたものの、実物を目の当たりにすると堂々としたたたずまいに気後れする。全長は4490mm、全幅は1860mmである。それぞれ210mm、30mm大きくなった。数字的にはさほど大きくなったわけではない。初代モデルは3995mm×1675mmで、2代目になった時に激しく巨大化している。変化は衝撃的で、“デカングー”などというあまりうれしくない呼び名がつけられたほどだ。
サイズはともかく、スタイルについてはかなり印象が変わった。ファニーでおちゃめななかにオシャレさを感じさせるというのが従来のイメージだったはずである。新型カングーは、丸みの要素が減って直線的なフォルムをまとう。目つきも以前のような柔和さが失われ、鋭い視線を送ってくる。天然でスキのあるやんちゃ坊主から、分別のある大人になったようだ。
ちょっと気の抜けた愛されキャラが人気だったのだから、ファンはカングーのイケメン化に反発するのではないかと心配になる。それは取り越し苦労だったようで、新型が初公開された「ルノー カングージャンボリー2022」の会場では、集まったユーザーから歓喜の声が上がったそうだ。カングーのカングー性は健在だと受け入れられたのである。
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ルノーファミリーの面構え
とはいえ、試乗車の表情はあまりにもクールで端正だ。フランス的な洒脱(しゃだつ)さが薄まり、均整のとれたグローバルなルックスだと感じられる。それも仕方がない。グレードは「インテンス」なのだ。「ゼン」と「クレアティフ」はブラックバンパーが採用されているが、インテンスのバンパーはボディー同色。キリッとスーツを着こなしたビジネスマンというような風情である。
ルノーもブランドの統一感を重要だと考えているのだろう。フロントマスクは「メガーヌ」や「ルーテシア」などに通じる意匠が与えられた。ファミリーの一員なのだから、面構えが似ているのは当然だ。大型グリルの中心にはこれまた大きめの「ロザンジュ」が輝き、威厳と風格を表現している。リブの入ったボンネットやサイドのショルダーラインは筋肉質で、アスリートのような引き締まった体つきだ。
ヘッドランプの中にはCシェイプのデイタイムランニングランプが仕込まれていて、リアのコンビネーションランプでもCシェイプがリプライズされる。初代、2代目ともに採用していた縦長のランプから変更され、リアスタイルの印象が大きく変わった。変わらないのは左右非対称のダブルバックドアだ。「ホンダ・ステップワゴン」は縦のラインが不人気ということで「わくわくゲート」が廃止されたが、日本のカングーファンはこの形式のドアに愛着がある。本国仕様の跳ね上げ式ハッチをラインナップから外したインポーターの判断は正しい。
内装もエクステリアに合わせてブラッシュアップされた。水平基調のダッシュボードは機能的なつくりで、細かい線状の模様をあしらったアルミ調パネルとクロームパーツが無機質な未来感さえ醸し出す。中央に位置する8インチモニターにはUSBスロットがあり、スマホとリンクしてカーナビや音楽などの機能を利用することができる。今どきは当たり前の装備だが、設計の古い先代では望むべくもなかった。ありがたいアップデートである。
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軽快で上質な走り
パワートレインはガソリンとディーゼルの2種類が用意されている。今回の試乗車は前者で、1.3リッター直4直噴ターボエンジンを搭載していた。最高出力は130PSである。1560kgの車重に対してはさほどパワフルともいえないが、乗ってみると十分な実力を持っていた。webCGの地下駐車場から外に出るにはきつい勾配の坂を登っていかなければならないが、重さを感じさせずスイスイと進んでいく。なんとも軽快な走りは、想像とは異なっていた。
街なかでの取り回しは上々である。先代モデルより最小回転半径は大きくなっているが、機敏な動きが心地よくて苦労はない。大きなフロントウィンドウは変わらないから見晴らしのよさも受け継いでいる。商用車にルーツを持つだけあって、使い勝手のよさが最優先事項なのだ。そのうえで乗用車的な快適さを確実に向上させていて、洗練度が増している。
7段デュアルクラッチトランスミッションがいい働きをしていて、スムーズで力強い加速を楽しめる。MTモデルでなければダメというユーザーも多いというが、この出来なら不満は出ないのではないか。「ノーマル」「エコ」「ペルフォ」という3種のドライブモードまで用意されている。エンジン出力や変速タイミングなどを調整するようだが、極端な差をつけているわけではない。ペルフォはスポーティーな走行をするためというよりは、多人数乗車や荷物が多い時に使うことを想定している。
高速道路の巡航では、車内は至って静かである。さらに乗り心地がマイルドで、路面の荒れを軽やかにいなしていく。カングーってもっとガチャガチャしてにぎやかなクルマだったのではないか、という気がしたのだが、新型は見た目だけでなく中身も大人になったのだ。目覚ましい加速やコーナリングのスピードが得られるわけではないが、クルマの性格に見合った上質な走りを実現した。従来どおり、座り心地のいいシートも快適性を支えている。
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志と魂を継承
新世代車らしく、最新の安全装備や運転支援装置が採用された。衝突被害軽減ブレーキは、歩行者や自転車も感知して作動する。「ハイウェイ&トラフィックジャムアシスト」は、アダプティブクルーズコントロールとレーンキープアシストを組み合わせたシステムだ。いまさらアピールするのも気恥ずかしい気がするが、カングーにも未来がやってきたことを喜びたい。レーンキープの感度やアシスト量は、好みで細かく設定することができる。
後席に座ってみると、従来型よりもゆったりとした空間になったように感じた。前後スライドもリクライニングもできないが、快適性は十分である。前方を見て、オーバーヘッドコンソールがあるのに気づいた。商用車的なユーティリティーは新型にも受け継がれている。そこに何を入れればいいのかよくわからないが、こういうディテールが残されていることが貴重なのだ。志と魂が継承されていることに安堵(あんど)する。
体つきだけでなく価格もレベルアップして、もはや気軽に買える遊びグルマとは言いがたくなった。最高グレードの「トヨタ・ノア/ヴォクシー」とほぼ同じ値段である。もちろん、比較検討する人はいないだろう。カングーは、至れり尽くせりのサービスを受けるのではなく、足りないところは自分で工夫してなんとかするという気概を持つ者たちのクルマなのだ。実用車としての基本性能を押さえたうえで、ドライバーズカーとしても思いがけない魅力を備えている。
新型カングーは、コンセプトをそのままに正常進化を果たした。大人になったことで、わかりやすい無邪気さや天真らんまんさには別れを告げることになったのかもしれない。成熟に喪失が伴うのは、古来の道理である。曽我部恵一は『おとなになんかならないで』と歌ったけれど、それは感傷にすぎない。カングーは正しくまっすぐに成長し、素敵な大人になった。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ルノー・カングー インテンス ガソリン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4490×1860×1810mm
ホイールベース:2715mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:131PS(96kW)/5000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1600rpm
タイヤ:(前)205/60R16 96H XL/(後)205/60R16 96H XL(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:15.3km/リッター(WLTCモード)
価格:395万円/テスト車=401万0500円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ETCユニット(2万8600円)/エマージェンシーキット(3万1900円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3016km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:571.5km
使用燃料:43.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.2km/リッター(満タン法)/13.3km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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