第800回:【Movie】707台の「マツダMX-5」が大行進 ギネス記録更新なるか!?
2023.03.23 マッキナ あらモーダ!生き方さえも示唆するクルマ
ヨーロッパにおけるマツダといえば、2023年1月にロータリーエンジンを発電機として搭載したプラグインハイブリッド車「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」がブリュッセルモーターショーで発表されたのが記憶に新しい。ニュースは欧州各国の自動車専門メディアで取り上げられた。
いっぽう、ファンの熱さという視点では、マツダ車では「MX-5(日本名:ロードスター)」が群を抜いている。参考までに欧州圏でMX-5は、2016年~2019年は年間1万3000台~1万5000台ペースで売れた。2020年こそ4815台にとどまったが、2021年には6861台にまで回復した(データ出典:CarSalesBase)。
欧州のMX-5ファンにとって直近で最も大きな出来事といえば、2022年9月にイタリアで催された「ギネスブック記録挑戦ミーティング」だろう。同時に何台のMX-5で行進、すなわちパレードできるかに挑むものだった。過去最高は2013年にオランダで達成した683台。その記録を塗り替えようという企画だった。
会場となったモデナサーキットには、マツダで4代のMX-5開発に携わり、ロードスターアンバサダー(当時。2023年2月に退職)を務める山本修弘氏も駆けつけた。
トークショーで山本氏は「クルマの性能がよくなった今日、自分の思いどおりに動くのが人馬一体」としながらも、ドライバー自身でも人馬一体を模索することの素晴らしさを説いた。馬は手綱を引くだけでは嫌がって言うことを聞いてくれないことを例示。「どうしたら馬が気持ちよく動いてくれるか、同じ気持ちにならないといけない」と語った。同時に、MX-5のオーナーは「次のコーナーをどう曲がったらMX-5が気持ちよく曲がってくれるのか、知らずしらずのうちにハンドルを優しく切っていると思う」と、彼らの自動車愛をたたえた。
山本氏は1980年代のMX-5誕生に関しても回想。市場で競争しなくても売れる、すなわち競合のいないクルマをつくることで、持てる力を自分たちへの挑戦に注いだことを振り返った。筆者が付け加えるなら、昨今のマーケティング用語で言う「ブルーオーシャン戦略」の先がけである。
マツダの開発陣は、1960年代に生まれながらも、1970年代にさまざまな規制で消滅したライトウェイトスポーツに着目。「23年間競合がなかったオールドコンセプトの世界に、デザイナーやエンジニアがレイテストテクノロジー(最新技術)をもって挑戦した」と山本氏は語る。いっぽうで「自分たちが好きなクルマをつくってしまった。お客さまに受け入れてもらえるか不安だった」とも明かした。
今、ある意味で世界はリセットされ、混沌(こんとん)とした空気が横溢(おういつ)している。そうしたなかでMX-5のストーリーはあらゆるビジネスにヒントを与えるばかりか、人としての生き方さえも示唆している、と筆者は感じた。
ギネス記録大会に話を戻せば、今回は707台での挑戦だった。認定ラインである「全車ノンストップで2周」を、なかなか実現できない。気温は徐々に上昇し、コースの照り返しが容赦なく参加者たちを襲う……。結果は動画をご覧いただこう。
【ギネス記録に挑むマツダMX-5】
(文と動画=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、マツダ/編集=藤沢 勝)
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大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナ在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、22年間にわたってリポーターを務めている。『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。最新刊は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。