【F1 2023】第3戦オーストラリアGP続報:3度の赤旗中断、波乱のレースでレッドブル3連勝
2023.04.03 自動車ニュース![]() |
2023年4月2日、オーストラリアはメルボルンにあるアルバートパーク・サーキットで行われたF1世界選手権第3戦オーストラリアGP。クラッシュにセーフティーカー、そして3度の赤旗中断にゴール前の混乱――波乱に満ちたレースだったが、レッドブルとマックス・フェルスタッペンの強さは揺るがなかった。
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「レッドブルRB19」のアドバンテージ
開幕戦バーレーンGP、第2戦サウジアラビアGPと2戦連続で1-2フィニッシュを飾ったレッドブルは、向かうところ敵なしなのか?
超高速ストリートコース、ジェッダでのサウジアラビアGPのレース後、「あんなに速いマシンは見たことがない」とレッドブルについて語ったのは、5位でフィニッシュしたメルセデスのルイス・ハミルトンだった。マックス・フェルスタッペンは15番グリッドから2位でフィニッシュしていたが、11周目にハミルトンをオーバーテイクした際のスピード差が、通常の倍近くとなる30km/h以上だったというから、ハミルトンならずともライバルはみな驚きを隠せなかった。そこで注目されたのが、レッドブルの「DRS」だ。
DRSこと「ドラッグ・リダクション・システム」は、リアウイングのフラップの間隔を電子制御により広げることで、文字どおり空気抵抗(ドラッグ)を一時的に減らし(リダクション)、ストレートなどで追い抜きをしやすくするシステムだ。空力の先鋭化により、前車の乱気流が影響してオーバーテイクが難しくなった昨今のF1マシンへの“応急処置的”な装置として、2011年からF1で採用されている。
「レッドブルRB19」のDRSが、ライバルのそれよりも大きな効果を発揮しているのではないか――かつてジョーダンF1チームのデザインなどを手がけたゲイリー・アンダーソンらが指摘したのは、リアウイングのみならず、その下の「ビームウイング」と呼ばれるエレメントと、フロア下の空気を引き抜いてダウンフォースを発生させる「ディフューザー」が一体となり、DRS効果を増大させているというものだった。真偽のほどはわからないが、レッドブルのチーフテクニカルオフィサーにして空力の奇才の異名を持つエイドリアン・ニューウェイなら、とことん追究しそうなテーマではありそうだ。
同じレギュレーションながら、異なる解釈やアプローチがあるというのが、F1マシン開発の醍醐味(だいごみ)。今季無敵を誇るレッドブルに対する、ライバルたちの反撃が待たれるところだ。
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フェルスタッペンがポール、自身も驚くメルセデス2-3
1年前のオーストラリアGPでは、フェラーリのシャルル・ルクレールが3戦2勝、力強い走りでポール・トゥ・ウィンを飾っていたが、今年の跳ね馬にはその勢いがなく、代わってメルセデス勢がレッドブルに迫った。
予選では雨が心配されたものの大きな天候の崩れはなく、フェルスタッペンが開幕戦に次ぐ今季2回目、通算22回目のポールポジションを獲得。チャンピオンシップを1点差で争っていたチームメイトのセルジオ・ペレスは、プラクティスから続くブレーキバランスの問題でコースアウト、ノータイムで最後尾となってしまい、レースではピットレーンスタートを選択した。
予選2位、3位がメルセデス勢だったことには当人たちも驚いた様子で、ジョージ・ラッセルはフロントロー、ハミルトンは3番グリッドから強敵レッドブルを追うことに。好調アストンマーティンのフェルナンド・アロンソが4位、その僚友ランス・ストロールも6位につけ、フェラーリはカルロス・サインツJr.5位、前年のウィナーであるルクレールは7位に沈んだ。
直線を得意とするウィリアムズは、アレクサンダー・アルボンが8位と健闘。アルピーヌのピエール・ガスリー9位、そしてハースのニコ・ヒュルケンベルグが10位からレースに臨むこととなった。
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スタートでメルセデス1-2、赤旗後にフェルスタッペンが首位奪還
レースペースで勝てなければ、スタートで出し抜くしかない。そんなメルセデスの気迫を感じさせるスタートダッシュだった。ターン1でラッセルがトップを奪うと、程なくしてハミルトンも2位に上がり、フェルスタッペンは一気に3位へと落ちた。その後方では、ルクレールがストロールと当たってはじき出され、0周リタイアとなり、セーフティーカーが3周まで先導することとなった。
このレースは、過去最多となる3度の赤旗中断を挟むことになるのだが、そのうちの1回目は、58周レースの7周目、アルボンのウィリアムズが派手にクラッシュ、グラベルをコースにまき散らしたことをきっかけとしていた。当初は2度目のセーフティーカーが出て、これを機にメルセデスはラッセルをピットに呼び、ハミルトンをコースにとどめさせた。しかし程なくして赤旗が出されると、この判断はラッセルにとって不利に働くこととなってしまった。
中断を経ての順位は、ハミルトンが1位、フェルスタッペン2位、アロンソ3位、ストロール4位、ガスリー5位、ヒュルケンベルグ6位、そしてラッセルは7位にダウン。1周のフォーメーションラップを終え、10周目から2回目のスタンディングスタートが切られると、ハミルトンが首位をキープ、その後ろにフェルスタッペン、アロンソ、ガスリー、ラッセル、ストロールが続いた。
ハミルトン対フェルスタッペンの戦いは、しかし長くは続かなかった。12周目のストレートで、DRSを効かせたレッドブルが牙をむき、フェルスタッペンがトップを奪還すると、レッドブルは1ラップだけで2秒ものギャップを築いてしまい、折り返しとなる29周を終了した時点では、2位ハミルトンを7秒以上突き放すのだった。そしてハミルトンとアロンソによる2位争いは、1秒という僅差を挟んでの駆け引きが続けられた。
赤旗でポジションを落としたラッセルは、4位走行中の18周目にマシン後方から白煙と炎を上げてメインストレート上でストップ。メルセデスでの初リタイアを喫し、20周目までバーチャルセーフティーカーとなった。
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混乱の幕切れ、遺恨が残ったレース
2度目の赤旗は、ゴールが間近に迫った54周目、ハースのケビン・マグヌッセンがウォールにヒットしクラッシュしたことでもたらされた。そしてここでもセーフティーカー導入後に中断という判断が下された。
レースコントロールは、あくまで規定の58周を終わらすべく、再スタートの準備を進めた。残り2周の超短期決戦、最後にひとつでも順位を上げようとするドライバーがわれ先にとターン1になだれ込むことは容易に想像できたというもの。実際、この日3回目のスタンディングスタートが切られると、フェルスタッペンがトップ、ハミルトンが2位を守ったまではよかったが、3位アロンソはサインツJr.と接触、その後ろではオコンとガスリーのアルピーヌがクラッシュ、さらに接触やコースオフするマシンが続出し、これで3度目の赤旗中断となった。
結局、1周を残しての4度目のスタートはセーフティーカー先導のままチェッカードフラッグが振られた。混乱と波乱の幕切れとなったものの、ポディウムに上がった3人のチャンピオンはそれぞれのレースに満足した様子。フェルスタッペンはオーストラリアGP初優勝に喜び、2位ハミルトンは「レッドブルとの差は詰められる」と自信を取り戻し、3位アロンソは3戦連続のポディウムとアストンマーティンの3-4フィニッシュをたたえた。
しかし、混乱のあおりを受けたドライバーやチームには遺恨も残った。3度目のリスタート直後にチームメイトのガスリーと接触、14位となったオコンは、周囲のドライバーの無謀なドライビングを非難。また4位でゴールしながらアロンソとの接触により5秒加算ペナルティーを受け12位に落ちたサインツJr.は「ペナルティーは全く理解できない」と怒りをあらわにした。そしてハースは、レース後に暫定リザルトに対する正式な抗議を行った。詳細は明らかにされていないものの、最後のリスタート時におけるスターティングポジションを問題視しての抗議のようである。
4年前のオーストラリアGP直前に亡くなったF1ディレクター、チャーリー・ホワイティングがいなくなってからというもの、ルールをつかさどるFIA(国際自動車連盟)のレース運営には数々の問題が指摘されるようになった。2021年最終戦アブダビGPでのマイケル・マシによる“ルールの恣意(しい)的運用”はその最たるものだったといえるが、今回も赤旗やセーフティーカーの基準が恣意的に判断されなかったか、問題が後を引きそうである。
中国GPがキャンセルされたことで、次の第4戦アゼルバイジャンGPまでは1カ月近くのブランクができた。決勝は4月30日に行われる。
(文=bg)