レクサスRZ450e“バージョンL”(4WD)
探し求めていた味 2023.04.21 試乗記 レクサス初の電気自動車(BEV)専用モデル「RZ450e」が、いよいよ日本の道を走り始めた。まずはコンセプトカーもかくやのいでたちが目を引くが、中身もきっちりとつくり込まれた力作である。箱根のワインディングロードでその実力を試す。乗り味はまったくの別物
トヨタ自動車で懇意にしてくださっていた方々が相次いで偉くなられた。ひとりは佐藤恒治社長、もうひとりは渡辺 剛レクサスプレジデントである。お二人とも年下で、年上の自分は果たしてこのままでよいのだろうかとちょっと考えさせられたけれど、佐藤さんも渡辺さんも極めて優秀なエンジニアでもあり、トヨタとレクサスの未来をしょって立つには最適な人材だと確信している。
その渡辺プレジデントがチーフエンジニアとして初めて手がけたのがレクサスRZである。レクサスとしてはすでに「UX300e」を販売しているのでBEVとしては2番目の登場だが、“BEV専用モデル”としてはこれが初めてとなる。プラットフォームはトヨタがBEV専用として開発した「e-TNGA」を使用する。つまりトヨタの「bZ4X」やスバルの「ソルテラ」と共有なのだけれど、RZの乗り味はその2台と比べてまったくの別物と言っても決して過言ではない。例えばホイールベースや後輪の駆動用モーターなど物理的に同じ部分があるいっぽうで、言い方がちょっと極端かもしれないけれど、それ以外はほとんどすべてRZ用につくり直したくらいの手の入れようである。「中身はbZ4Xかよ」と揶揄(やゆ)する声を「全然違うから」と一掃できるレベルだと思う。
レクサスRZの正式車名はレクサスRZ450eで、仕様は“バージョンL”のみのモノグレードとなる。“ファーストエディション”と呼ばれる特別仕様車もあって、専用のボディーカラー/アルミホイール/ステアリングなどが装着されている。価格は前者が880万円、後者が940万円。今回の試乗車は“バージョンL”で、20インチのタイヤ&ホイールなど約100万円分のオプションが含まれていた。
ボディーをがっちりと補強
レクサスRZのボディーサイズは全長4805mm、全幅1895mm、全高1635mm。レクサス兄弟のなかでは「NX」と「RX」の間に収まる。「体幹を鍛える」ことにレクサスはここ数年取り組んでおり、これはつまりしっかりしたボディーをつくるということ。e-TNGAをベースにボンネット内のラジエーターを支える部分やロアバック部を補強したり各種ブレースを追加したりするだけでなく、レーザースクリューウェルディングや構造用接着剤、レーザーピニング溶接といった締結技術にまでこだわり、頑強かつ軽量なボディーに仕上げたそうだ。
フロア下にバッテリーを敷き詰めるBEVでは、硬くて重いバッテリーが事実上ボディーの構造部材としての役割も担う場合が少なくない。それ自体はネガな要素ではないけれど、おかげでフロアがかなり頑丈になってしまうため、それと釣り合うような上屋が必要となる。レクサスのボディーへの手の入れ方を見ると、そういう事情も考慮したようにうかがえる。
サスペンションはフロントがストラット、リアがトレーリングアーム式ダブルウィッシュボーンで、これに金属ばねと機械式の周波数感応ダンパーを組み合わせている。レクサスは電子制御式ダンパーのAVSなんかも持っているので、BEVのRZにコンベンショナルなダンパーを選んだのは意外だった。ドイツのBEVの競合車は電子制御式ダンパーやエアサスを積極的に用いているからだ。最初は「大丈夫か」とちょっと心配になったけれど、走りだして間もなくそれは杞憂(きゆう)だったと気がついた。
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タイヤの転がり始めが気持ちいい
室内の風景はNXから始まったレクサスの新しいインテリアの雰囲気を踏襲している。依然としてメーターナセルを設けるなど、コックピットと呼べるような環境を構築しているのは、ドライバーが運転に集中、あるいは没頭できるようにとの配慮のようだ。「MBUXハイパースクリーン」みたいに運転席と助手席の境がないダッシュボードと比べると古典的に見えるかもしれないが、個人的にはこちらのほうがなんとなく落ち着く。昭和のオッサンならではの感想か。
レクサスもついにセンターコンソールからシフトノブが消え、ダイヤル式のシフトセレクターとなった。bZ4Xも似たようなダイヤル式だが回しているときの感触やクリック音といった動的質感はRZのほうが上質である。押して右に回してDを選び、右足をブレーキペダルからアクセルに乗せ替えて軽く踏み込んでみると、RZはスウッと動き出した。このタイヤの転がり始めのところが、まるで手慣れた人がふすまを開けるときの上品な所作のようで心地いい。もしRZを運転する機会があれば、煩雑にガバッとアクセルを踏むのではなくぜひじっくりと味わってほしい。
乗り心地は速度や路面を問わず、常に同じような快適性を保つ。周波数感応ダンパーは、3つのバルブが振動周波数に応じて動き、低周波域から高周波域まで設定範囲内での減衰力を最適化するというもの、らしい。勉強不足で詳細な仕組みをまだ正確に理解できていないのだけれど、外部入力の大小に左右されづらい乗り心地になっていることは確かである。これならAVSもエアサスもこのクルマには必要ないと思った。
まさに“The Natural”
ドライバーのステアリング操作に対する反応は速すぎず遅すぎず極めてリニアで、そこからの挙動にはまったく不自然な動きが見られず、意のままにクルマをコントロールしている気分になる。RZの操縦性を表現するとだいたいこんな感じである。これが実現できているのは体幹がしっかりしていてサスペンションがきちんと仕事をしていることに加え、「DIRECT4」と呼ばれる駆動力コントロールのサポートもあると思われる。DIRECT4は車輪速度/加速度/舵角などの情報を元に前後の駆動力配分を100:0から0:100まで随時可変する。例えば発進・加速時にピッチング方向の動きが出るように、駆動力でもばね上が動く現象を操縦性に活用する仕組みである。もちろん、前後輪に常に最適なトラクションもかけつつ、である。
RZのコンセプトは“The Natural”だという。モーター駆動でありながらトルクの立ち上がりをあえて線形としたり、いたずらに機敏にせずあくまでもリニアな操縦性としたり、まさしくコンセプトどおりの自然な身のこなしになっている。これが“レクサスならではのBEV”だそうだが、むしろこれこそがレクサスがずっと探し求めていた“レクサスの味”ではないかと思った。静粛性と乗り心地はBEVだからある程度のレベルまで底上げされ、動力性能と操縦性には雑みがないので運転するうれしさに集中できる。改良の余地が残っている部分もあるけれど、現時点でものどごしがよくて、すっきりした後味が残る味つけになっていた。
今後登場するBEV以外のパワートレインを搭載したモデルでもこの乗り味が実現できれば、レクサスはようやく己の味を完成したことになるだろう。
(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
レクサスRZ450e“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1895×1635mm
ホイールベース:2850mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:204PS(150kW)
フロントモーター最大トルク:266N・m(27.1kgf・m)
リアモーター最高出力:109PS(80kW)
リアモーター最大トルク:169N・m(17.2kgf・m)
システム最高出力:313PS(230kW)
タイヤ:(前)235/50R20 104V XL/(後)255/45R20 104V XL(ダンロップSPスポーツマックス060)
一充電走行距離:494km(WLTCモード)
交流電力量消費率:147Wh/km
価格:880万円/テスト車=980万6500円
オプション装備:フロント:235/50R20+リア:255/45R20タイヤ&ホイール<ダークプレミアムメタリック塗装>(1万1000円)/デジタルキー(3万3000円)/レクサスチームメイト アドバンストパーク<リモート機能付き>+パーキングサポートブレーキ<周囲静止物>(4万4000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万1000円)/おくだけ充電(1万3200円)/寒冷地仕様<LEDフォグランプ、ヘッドランプクリーナー、ウインドシールドデアイサー、発光エンブレムヒーター等>(3万1900円)/パノラマルーフ<IR&UVカット機能付き、Low-Eコート付き、調光機能付き>(26万9500円)/ドライブレコーダー<前後>(4万2900円)/ボディーカラー<ブラック&ソニックカッパー>(33万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:325km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:313.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.2km/kWh(車載電費計計測値)
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渡辺 慎太郎
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