TOM'S GRヤリス(4WD/6MT)
みなぎる名門の本気 2023.05.08 試乗記 モータースポーツの第一線で活躍するTOM'Sが、「トヨタGRヤリス」をベースにコンプリートカーを開発。名門が2年の歳月をかけて完成させた「TOM'S GRヤリス」は、サーキットを走り込む人にこそ薦めたい、無二のクラブスポーツに仕上がっていた。TOM'Sの“原点回帰”が生んだ一台
TOM'Sのコンプリートカー、TOM'S GRヤリスに試乗した。そう、トヨタのセミワークスチームとしてスーパーフォーミュラや全日本F3選手権、そしてSUPER GTに参戦している、“あのTOM'S”がつくり上げたコンプリートモデルだ。
ちなみに試乗車は、「TOM’S IS300」とともに2023年の東京オートサロンに出展された車両だ。そのコンセプトは至ってシンプルであり、今一度原点に立ち返って、「TOM’Sらしさ」を表現することだったという。
TOM’SはGRヤリスがデビューした当初から、いち早くエアロパーツを中心に商品開発を進めてきたのだが、こと走りの性能を高めるチューニングパーツに関しては、その開発が難航していたのだという。つまりそれだけ、GRヤリスの完成度が高かったということになる。そして約2年の歳月を経て、コンプリートカーを完成させるに至ったのだ。
そんなTOM’S GRヤリスで目を引くのは、そうはいってもやはり、細かく手が入れられたエアロパーツだ。
バンパー下を覆うフロントディフューザーは、派手さを抑えた大人っぽい仕上がりだが、その存在感はとても高い。エンドの翼端板形状は、フロントからの整流したエアフローでタイヤハウスの乱流を引き抜くのが目的と思われ、往年の993型「ポルシェ911カレラRS」のフィニッシュを思い出させる。小ぶりなカナードのデザインに、サイドスクープ中段のフィンから連続性を持たせている点も、なかなかスタイリッシュだ。サイドにまわると、フロントの翼端板と同じ処理がホイールベースに渡されたサイドディフューザーにも施されており、イメージに統一感が持たされている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
28PSの出力向上と4.3kgf・mのトルクアップ
対してリアセクションには、翼端板にカナードを備える大型リアウイングを筆頭に、現役のWRC(世界ラリー選手権)トヨタワークスドライバーである勝田貴元(かつた・たかもと)選手とともにつくり上げた、「Type TK」のパーツが装着された。オーバルフィニッシュのシングルテールマフラー「トムス・バレル」を中央配置するアンダーディフューザーは、先述のリアウイングともどもWRカーのイメージを表現したデザインだ。また純正バンパーをくり抜くかたちで装着されるダクトが、小さいパーツながらもリアビューを引き締めるアクセントになっている。
そろそろコンプリートカーの本丸である機能面に話を移そう。1.6リッター直列3気筒エンジンは、本体こそノーマルだが純正タービンのインテーク側をハイフロー化した。燃調やブースト圧の設定は専用ECUでコントロールし、そのアウトプットは最高出力300PS、最大トルク42.0kgf・mに。ちなみに、先日デビューした「GRカローラ」もその数値は304PSと37.7kgf・mだから、パワーこそ4PS小さいがトルクは4.3kgf・m上回っている計算になる。またこのハイパワー化に伴い、インタークーラーとラジエーターの容量をアップさせて、冷却性能も高められた。
これを支える足まわりは、TOM’Sのオウンブランドである「Advox」(アドヴォックス)の車高調整式サスペンション。ブレーキシステムにはオプションで、ブレンボ社と共同開発したフロント:6ポット、リア:4ポットのキャリパーと、2ピースのドリルドローターがおごられる。試乗車のタイヤは、これもオプションで用意される純正より幅広な255/35R18サイズの「ブリヂストン・ポテンザRE-71RS」だった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
走りだす前から感じられる闘争心
さてこのTOM’S GRヤリスを走らせた印象だが、はじめから“ヤル気満々”である。
スターターボタンを押すと、短いクランキングの後にマフラーから初爆が響き、続いてアイドリングで“プトトトトッ……”っと鳴り響く。高反発なステンレスマフラーの振動は、まるでバイクのようだ。排気量の違いもあるが、音量的にはいわゆるイタリア系スーパースポーツに比べれば、十分控えめ。もしかしたら「アバルト595」の「レコルトモンツァ」のほうがうるさいかもしれないが、決して静かではない。
というわけでちょっとブリップしてみると、ターボの割に乾いた高周波がレスポンスよくさく裂した。「Eマーク」(欧州のECE規制に適合していることを示すマーク)が付いていれば許されてしまう輸入車とは違って、日本の試験をクリアするマフラーとしては、かなりギリギリまで攻めた音質であり音圧、そして音量だ。
この割り切りからも想像がつくだろう。乗り味はハッキリとハードだ。32段階の調整機構を持つ車高調整式ダンパーは、オープンロード試乗用に幾らかその減衰力を緩めていたようだが、速度が低いほど路面の凹凸や目地段差は素直に拾う。ただしその入力は、装着タイヤであるRE-71RSの剛性が主な原因で、サスペンション自体は短いストロークのなかでも突っ張らず伸縮していた。ちなみにスプリングはフロント13kg/mm、リア14.5kg/mmというハイレートな仕様で、それを考えると“よく動くアシ”だといえる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
さすがのエンジン、さすがの足まわり
対するパワーユニットは、ハイフロータービンのキャラクターが明確に表れていた。トルクバンドに入るのは、3000rpmを超えてから。アイドリング+αの領域でも加速はするが、1.6リッターにハイフローインペラーの組み合わせだと、まだ少しだけ眠たい感じがある。そもそものトルクが分厚いだけに、普通に走れてしまうという印象だ。
しかしそのぶんだけ、トルクバンドに突入してからの加速は抜群に楽しい。特に5000rpmを超えてからの整い方は格別で、高性能な小排気量のターボエンジンを走らせている満足感に、たっぷり浸れる。
また6段MTのシフトフィールが抜群によかったのだが、シフトストロークを縮めるクイックシフトは入っていなかった。純正シフトの剛性感の高さに加え、強化クラッチがもたらす切れのよさが、そこに影響していたようだ。
肝心の+28PS、+4.3kgf・mのパフォーマンスアップに対しては、完全にシャシーが勝っている。高回転になるほどはじけるパワーを、タイヤと足まわりがきっちり抑え込めている印象だ。ただ、前述のとおり試乗車はダンパーが少しソフトで、タイヤのグリップと剛性をやや持て余していた。そこで太いフロントタイヤの隙間から手を突っ込み、モノチューブダンパーの下にある調整ダイヤルを数段回してみると、そのレスポンスはがぜんシャープになり、操舵に対するレスポンスがリニアになった。
ブレーキングで荷重をかけてステアしたときの、驚くほど滑らな操舵フィール。RE-71RSの剛性をものともせず、そこから粘り気のあるグリップを引き出す剛性感の高さ。これを味わってしまうと、サスペンションアームのフルピロボール化もありだと思えてしまう。ハードコアが嫌われがちなこの時代に躊躇なく、スポーツハンドリングを求めるTOM'Sの姿勢は一周してカッコいい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
サーキットを本気で楽しみたい人へ
このことからもわかるとおり、TOM’S GRヤリスが狙うステージは、明らかにサーキットだ。ただそのターゲットがラップタイムなのか、GRヤリスの性能をフルに発揮して、そのコントロールを楽しむことなのかは、今回の試乗ではわからなかった。筆者は後者である気がするけれど、多分タイム的にもこのコンプリートカーを手に入れたオーナーが満足するレベルを狙っているのだと思う。
そういう意味で言うと、TOM’SがオプションでブリヂストンのポテンザRE-71RSというタイヤを用意しているのにも、両者がレースパートナーであるという以上の理由があるように思える。
TOM’S GRヤリスの足まわりは、このタイヤの能力に合わせて磨き上げられている。そしてこのタイヤだからこそ、オンロードでの移動とサーキット走行の両立が可能になるのだ。予期せぬ雨にも浅溝なハイグリップタイヤより、はるかに安心して対応できるのである。
まとめるにTOM’S GRヤリスは、ガレージ・トゥ・サーキットを本気で楽しむための、クラブスポーツ仕様のコンプリートカーだ。走りを楽しむというシンプルな目的がまったくブレていないだけに、ハイパフォーマンスなスポーツカーが欲しいだけの人には薦められない。
一日たっぷりTOM’S GRヤリスで走り回った筆者だったが、正直まだまだ食い足りない。もっといろいろなセッティングを試してみたい、というのが本音だ。そしてこの奥深さこそが、TOM’S GRヤリスの一番の魅力なのだと思う。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
TOM’S GRヤリス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
ホイールベース:2560mm
車重:1290kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:300PS(200kW)/5800rpm
最大トルク:412N・m(42.0kgf・m)/3000-3800rpm
タイヤ:(前)255/35R18 94W XL/(後)255/35R18 94W XL(ブリヂストン・ポテンザRE-71RS)
燃費:--km/リッター
価格:829万円/テスト車=1047万1080円
オプション装備:TOM’S×bremboキャリパーキットFront/Rear(109万2300円)/TOM’S鍛造ホイール<4本>(35万2000円)/LSD F・R+リアデフマウントカラー(35万9700円)/タイヤ「ブリヂストン・ポテンザRE-71RS」(25万0800円)/エアクリーナー「スーパーラムII」(8800円)/カーボンシフトノブ(1万4080円)/サスペンションメンバブレースフロントNo.1(3万7400円)/サスペンションメンバブレースフロントNo.2(3万7400円)/リアエンドバー(2万8600円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”(4WD/6MT)【試乗記】
◆トヨタGRヤリス【試乗記】
◆TOM’SレクサスLC500コンバーチブル(FR/10AT)【試乗記】
◆TOM'Sスープラ(FR/8AT)【試乗記】

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R(FR/6MT)【試乗記】 2026.5.26 販売台数わずか200台の限定車「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」に試乗。スーパー耐久レース参戦をはじめとするマツダのモータースポーツ活動を担うサブブランドが生み出した初の市販コンプリートカーは、いかなる走りをみせるのか。
-
アウディQ6スポーツバックe-tronクワトロ アドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.5.25 アウディの電気自動車(BEV)「Q6スポーツバックe-tron」で、東京・渋谷と静岡・裾野を往復。雨のなかでエアコンを効かせ、高速や峠道を遠慮なく走らせるハードユースに、最新のBEVはどう応えてくれたのか? そこで感じた“本音”をリポートする。
-
日産リーフAUTECH B7(FWD)【試乗記】 2026.5.23 新型「日産リーフ」にもおなじみの「AUTECH」が仲間入り。デザインや質感などの上質さを目指した大人のカスタマイズモデルだが、走りの質感がアップしたと評判の新型リーフとは、さぞ相性がいいに違いない。300km余りをドライブした。
-
メルセデス・ベンツSクラス【海外試乗記】 2026.5.22 「メルセデス・ベンツSクラス」のマイナーチェンジモデルが登場。メルセデスの旗艦として、また高級セダンのお手本として世界が注目する存在だけに、進化のレベルが気になるところだ。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
マツダCX-5 L(4WD/6AT)/マツダCX-5 G(FF/6AT)【試乗記】 2026.5.21 日本でも、世界でも、今やマツダの主力車種となっている「CX-5」がフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、過去のモデルとはどう違い、ライバルに対してどのような魅力を備えているのか? 次世代のマツダの在り方を示すミドルクラスSUVに試乗した。
-
NEW
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記
2026.5.27エディターから一言“世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。 -
NEW
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】
2026.5.27試乗記「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。 -
NEW
まさしく桁違いの1169PS&2000N・m 新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」が搭載する数々の新機軸
2026.5.27デイリーコラム2025年発表のコンセプトカー「メルセデスAMG GT XX」が新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」として正式にデビューした。その中身は100%電気自動車であり、上位グレードは最高出力1169PSという途方もないスペックを誇る。技術的ハイライトを解説する。 -
NEW
第114回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(前編) ―「トヨタ・タンドラ」の導入に対する元カーデザイナーの本音―
2026.5.27カーデザイン曼荼羅「トヨタ・タンドラ」が日本にやってくる!? トランプ大統領のゴリ押しと、トヨタ&ホンダによるアメリカ生産車の日本導入決定により、今にわかに注目を集めている“アメリカのクルマ”。かの地で育まれた特殊な造形美を、カーデザインの識者はどう見ているのか? -
車載カメラが普及した今、“デジタルサイドミラー”が主流にならないのはなぜか?
2026.5.26あの多田哲哉のクルマQ&Aサイドミラーの役割をカメラが担う“デジタルサイドミラー”は、レクサスやアウディなどで採用例があったものの、普及するには至っていない。その決定的な理由はなにか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんが語る。 -
マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R(FR/6MT)【試乗記】
2026.5.26試乗記販売台数わずか200台の限定車「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」に試乗。スーパー耐久レース参戦をはじめとするマツダのモータースポーツ活動を担うサブブランドが生み出した初の市販コンプリートカーは、いかなる走りをみせるのか。





















































