TOM’Sスープラ(FR/8AT)
好きな人ならわかるはず 2020.08.08 試乗記 トヨタのオフィシャルチューナーであるTOM'Sから、「トヨタ・スープラ」のコンプリートモデル「TOM'Sスープラ」が登場。レースカーかと見まがうボディーにノーマル比+120PSのハイチューンエンジンを搭載したマシンは、“通(ツウ)”をもうならせる一台に仕上がっていた。サーキットでのノウハウを詰め込んだストリートモデル
待ち合わせ場所のサービスエリアで初対面したTOM'Sスープラは、大きく張り出したブリスターフェンダーと派手な「レジェンドグリーン」のボディーカラーで異様なオーラを放っていた。全幅はベース車両から85mm広がった1950mmでSUPER GTのGT500車両と同寸。ドライカーボンのディフューザーやGTウイング、各部のエアアウトレットなど、本物のレーシングカーのようなたたずまいだ。
1974年に設立されたTOM'Sは、トヨタ車を中心に据えたレース活動およびコンプリートカーの製作、チューニングパーツの販売を行う“名門”であり、スープラとの関わりも深い。初代A70では全日本ツーリングカー選手権、2代目A80ではSUPER GTとその前身である全日本GT選手権といった国内トップカテゴリーで活躍。SUPER GTでは2006年にスープラに代わって「レクサスSC」が採用されて以来、14年にわたってレクサス車がトヨタのGTマシンとされてきたが、2020年からはGRスープラが復活した。その開幕戦ではKeePer TOM'S GR Supraが見事ポール・トゥ・ウイン。GRスープラはGT500では上位5位を独占、GT300でも優勝を飾り劇的なレースデビューとなった。そんな2020年にTOM'Sが送り出すのがコンプリートカーのTOM'Sスープラだ。
テーマは“THE SPORTS”。GTマシン風ではあるものの、サーキット走行にフォーカスしているのではなく、あくまでストリートで理想的なスポーツカーを標榜(ひょうぼう)している。SUPER GTでのエアロダイナミクスは強いダウンフォースを生み出すことが第一の目的だが、TOM'Sスープラはそこまでダウンフォース重視ではなく、リフトフォースを抑制して高速走行での安定性を確保するのが主眼。ホイールハウス内の乱流を引き抜くエアアウトレットなどにはもちろんレースで培ったノウハウが使われている。スタイリングパーツはフロント・サイド・リアのドライカーボン製ディフューザーにリアウイング、フロントバンパーガーニッシュ、前後オーバーフェンダー。ホイールはTOM'Sオリジナルの鍛造20インチ10本スポークで、タイヤは「ブリヂストン・ポテンザS007A」を装着する。
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速度を増すと見えてくる実力の高さ
エンジン系はターボの風量を稼ぐハイフロータービン、専用チューンのECU、インタークーラーの性能を向上させるヒートエクスチェンジャー、吸気抵抗を軽減するサクションパイプ、エキゾーストシステムの「TOM'Sバレル」および専用エキゾーストマニホールドが採用され、最高出力はノーマル比120PS増の460PS、最大トルクは78.6N・m増の578.6N・mとなっている。ちなみにノーマルのGRスープラはエンジン改良が発表されており、秋に発売されるモデルからは従来の340PSから387PSへとパワーアップされる。
サスペンションはTOM'Sの自製ブランドであるAdvoxのコイルダンパーユニットだが、ドイツのKWも選択可能。試乗車には後者が装着されていた。
迫力あるルックスに気おされ少々身構えて走り始めたが、最初は肩透かしを食った気分になった。エンジンは「あれっ? ノーマルだったっけ?」と勘違いするほどにマナーがよく、乗り心地も存外にいい。チューニングカー特有の気難しさがまったくないのだ。
だが、ペースを上げていくと様相が変わっていった。エンジンは扱いやすいのはたしかだが、5000rpm以上での吹け上がりが鋭く、マニュアルシフトで7000rpmまで引っ張っても頭打ち感がなくパワーがさく裂。しかも、レスポンスもノーマル以上に感じられ、右足の動きに瞬時に呼応してくれるから一体感が高い。
ハンドリングはGRスープラ特有のシャープな回頭性はそのままに、スタビリティーが高まり、コーナー立ち上がりで安心してアクセルを踏み込んでいけるようになっている。初期のGRスープラは、シャシーなのか電子制御デファレンシャルのセッティングなのか、時折トリッキーな挙動をみせることもあったが、少なくともワインディングロードで試せる範囲でのTOM'Sスープラは、コーナリングスピードの次元が高まりつつも、挙動は素直でドライバーの予測を裏切るようなことがない。
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ボディーに見る名門の底力
さらに感心したのが、サスペンションの動きの質が高いことだ。短いストロークのなかでも正確かつスムーズに動くので、しなやかで不快な硬さを感じない。ハイスピードでのコーナリング中に路面のギャップを通過しても、サスペンションがスッと吸収してボディーは無駄に上下動せず、安定した姿勢で駆け抜けてしまう。
高速道路の目地段差などで大きな入力を受けた際も、突き上げ感はノーマルと変わらないかむしろスムーズなぐらいで、通過後の収束は格段にいい。街中での乗り心地も見た目から想像するよりもはるかに良好。ポテンザS007Aは快適性にも気を配ったスポーティータイヤだが、その性格がいい方向に働いているようだ。
ブレースなどでサスペンションまわりの剛性強化を図っているそうだが、やみくもに硬くすればいいというわけではなく、止めるべきところとそうではないところを見極めて適正な強化を施すには、長年のノウハウが必要だ。そのあたりはさすがTOM'Sで、サスペンションにきっちりと仕事をさせていることが感覚的にも伝わってくる。KWとAdvoxは特性としてはほぼ同様で、後者のほうが減衰力の調整幅が広いという違いがあるそうだ。
TOM'Sスープラはハイパフォーマンス化されるとともに、洗練度も大いに引き上げられており、総じて高い完成度を誇っているのが印象的だった。爆音のエキゾーストノートやはっきりと硬い乗り味など、昔ながらのわかりやすいチューニングカーが好みの人もいるだろうが、TOM'Sスープラは目の肥えたスポーツカー通をうならせるモデルだ。最近はBMW MやメルセデスAMGなど、自動車メーカーのハイパフォーマンスカーにも快適で扱いやすいモデルが増えているが、そんなトレンドとも近い。こういった高度なハイパフォーマンスカーが、トヨタのディーラーで購入できてもちろんアフターサービスもノーマル車同様に受けられるというのは、ユーザーにとってうれしいことだろう。
(文=石井昌道/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
TOM'Sスープラ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4450×1950×1275mm
ホイールベース:2470mm
車重:1550kg(車検証記載値)
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:460PS(338.3kW)/6800rpm
最大トルク:578.6N・m(59.0kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)255/35R20 92Y/(後)275/30R20 97Y(ブリヂストン・ポテンザS007A)
燃費:--km/リッター
価格:1565万3000円/テスト車=1713万8000円
オプション装備:ボディーカラー<レジェンドグリーン>(143万円)/ストライプ<ディフューザー、ホイール>(5万5000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:3617km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:279.0km
使用燃料:26.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(満タン法)/10.7km/リッター(車載燃費計計測値)

石井 昌道
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