ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン4xe(4WD/8AT)
地球に優しい、だけじゃない 2023.05.22 試乗記 ジープ伝統の本格SUV「ラングラー」に、プラグインハイブリッド車(PHEV)の「4xe」が登場。デンキの力を身につけた古式ゆかしきクロカンは、環境性能のみならず、走りの力強さでも純エンジン車に対するアドバンテージを見せつけてくれた。電動技術で「ラングラー」のネックを解消
日本における2022年のジープの販売は、インフレや円安の影響で度重なる値上げを行ったこともあり、1万台を切るところまで落ち込んだ。とはいえ各モデルのキャラクターからみれば、その数は特筆に値する。
とりわけ注目すべきはラングラーの人気だろう。常に全数の3~4割を占めるところにあると聞けば、みんなそんなに険しいとこ行くわけ? と思うわけだ。でも、みんなそんなに積むものあるわけ? という「ルノー・カングー」の売れ方をみていればさもありなんで、少なからぬ方々は、ファミリーカーとして機能しながらレジャー気分を高めてくれるか否かが購入のトリガーとなっているのだろう。
と、そういう方々にとって悩みの種が、街なかの渋滞をはいずりまわっての燃費だとしたら、この新しいグレードは魅力的に映るかもしれない。今回、アンリミテッドに用意されたのは4×4ならぬ4xe、つまりPHEVのラングラーということになる(参照)。
搭載するエンジンの側は2リッター直4直噴ターボで、アウトプットは最高出力272PS、最大トルク400N・mとなる。エンジン本体に組み合わせられるモーターは、始動や発電、回生などに用いられるもので、駆動用モーターはエンジンと8段ATとの間にクラッチを介して配される。その最高出力は145PS、最大トルクは255N・m。システム全体でのアウトプットは、本国発表値によればそれぞれ380PS、637N・mとなる。この数値は従来の3.6リッターV6ペンタスターを軽く上回るもので、ことに最大トルクの側は、日本未発売の6.4リッターV8ヘミと同等だ。
求められるのは経済性“以外”のベネフィット
96のセルで構成される駆動用バッテリーは後席座面下部にぴったりと隠れるかたちで置かれており、その容量は15.46kWhとなる。普通充電のみの対応で、200V/3kWの出力であれば満充電に要する時間は約4時間。ガレージなどに据え置くウォールマウントの6kW仕様を別途導入すれば、約2時間に短縮できる。充電ポートは左Aピラーの付け根の辺りに増設されているが、ラングラー4xeは左ハンドルのみとなるため、抜き忘れなどのミスは起こりにくいだろう。
ちなみに満充電からのEV走行距離はWLTCモード計測で最長42kmと発表されている。同じシステムを搭載するグランドチェロキー4xeが53kmとなるのに比べれば2割ほど距離が短い。アナログな四駆システムや空気抵抗は二の次のボディー形状などを勘案すれば致し方なしといったところだろう。加えて日本仕様のラングラー4xeは、最も悪路走破性の高いルビコンのみに用意されるため、泥濘地(でいねいち)対応のマッドテレインタイヤを履いていることも、転がり抵抗を高める一因になっているはずだ。
ということで、ラングラー4xeのBEV状態での実効走行距離は、7掛けでみて約30kmといったところに落ち着くだろう。街場に住む人なら日々の通勤や買い物等での行動範囲を満たすか否かというところか。それでも、同じラングラーの内燃機モデルであればタウンユースで30kmも走れば4~5リッターくらいの燃料は消費するだろう。夜間電力なども利用すれば、4xeなら半額程度のコストで日々の移動を賄うことができそうだ。それでも元を取るには程遠いだろうから、果たしてプラスαのベネフィットがいかなるものかに存在理由が大きく左右される。
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静かなパワートレインとにぎやかなドライブトレイン
ドライブモードは「エレクトリック」「ハイブリッド」「Eセーブ」の3つから任意で選択することが可能だ。基本はハイブリッドモードで、モーターと内燃機の双方を常にクルマの側が制御しながら最適効率で走ることになる。そしてエレクトリックは駆動バッテリーの残量ギリギリまでBEV走行となるモード、Eセーブは駆動バッテリーの残量を温存しながら内燃機で走るだけでなく、内燃機側に据えられたモーターで発電し、走りながら駆動バッテリーに蓄電することも可能なモードとなる。
モーターと内燃機では出力特性がまったく異なるだけに、額面からの想像を覆されることもしばしばだが、ラングラー4xeもしかりで、その走りだしは思い浮かべていたところよりもひと回り以上は力強く感じられた。PHEV化により車重は内燃機モデルより300kg以上は重いが、それをものともせず、60km/hくらいまでのタウンスピードならばモーターだけですいすいと加速する。
この間、パワートレインはがぜん静かなわけだが、そのぶん、今まで内燃機の稼働音に埋もれていたトランスファーのギア音や、大きなバネ下が前後リジッドアクスルとともに発するドンドンという弾むような音が耳につくのは致し方ない。そこに“マッテレ”の深溝から発せられるパターンノイズや風切り音なども加わり、80km/hくらいになれば内燃機のラングラーと大差ない音環境となってくる。
と、この速度域に至ってもBEV走行で周囲の流れに乗っていられるだけの動力性能がモーターで担保されているのは、ちょっと驚きだった。
ハイブリッド走行で感じる怒涛のパワー
BEV走行での最高速は130km/hに設定されているというが、さすがに100km/h前後から向こうになると、ハイブリッドモードでは内燃機側にご助力を請う機会が多くなる。言い換えれば高速巡航領域ではモーターよりも内燃機の側が高効率ということだ。思えばホンダの「e:HEV」も、この域になると内燃機直結モードを多用するように制御されている。
内燃機とモーターが協調する状況での動力性能は、明らかにV6ペンタスターよりも上の域にある。0-100km/h加速は6.4秒とのことだが、60km/h前後からの中間加速はそれ以上のトルクの厚みを感じさせる。このゆとりは今までの日本仕様のラングラーには望み得なかったものだ。
今回はオフロードでのドライビングがかなわなかったが、パワートレイン由来の変貌ぶりがパフォーマンス面で最も顕著に現れるのはそこではないかと思う。岩場やモーグルなど、繊細なアクセルワークが求められる場面で、モーターの精緻なアウトプットがラングラーの強烈な走破性をさらなる高みに引き上げているのかが、とても興味深い。なんとあらば、悪路に行くまでの間はEセーブモードで電池を温存、もしくは発電して満充電に近づけながら走行し、セクションではモーターでオフロード走行を楽しむという乗り方が普通になるのかもしれない。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン4xe
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4870×1895×1855mm
ホイールベース:3010mm
車重:2350kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:272PS(200kW)/5250rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3000rpm
モーター最高出力:145PS(107kW)
モーター最大トルク:255N・m(26.0kgf・m)
タイヤ:(前)LT255/75R17 111/108Q M+S/(後)LT255/75R17 111/108Q M+S(BFグッドリッチ・マッドテレインTA KM2)
ハイブリッド燃料消費率:8.6km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:42km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:42km(WLTCモード)
交流電力量消費率:368Wh/km(WLTCモード)
価格:1030万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3740km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:211.3km
使用燃料:19.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.7km/リッター(満タン法)/10.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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