第262回:クラッシュ! 爆発! 走って殴ってぶっ壊す
『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』
2023.05.18
読んでますカー、観てますカー
『SKY MISSON』の10年後を描く
『ワイルド・スピード』のファンにとっては、うれしいサプライズがいくつも盛り込まれている。オープニングでは、ポール・ウォーカーが出てきてエキサイティングなドライビングを披露するのだ。なんだか既視感があると思ったら、これは2011年の『ワイルド・スピード MEGA MAX』の映像だった。麻薬王エルナン・レイエスから奪った金庫を引きずって激走する場面である。ポールが非業の死を遂げたのは2013年で、2015年の『ワイルド・スピード SKY MISSON』まではスクリーンに姿を見せていた。
『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』は、リベンジの物語である。『MEGA MAX』のクライマックスでレイエスが死んだ時、息子のダンテも橋の上から海に転落して命を落としかけたことが明かされる。ダンテを演じるのは、ジェイソン・モモア。2011年当時は『コナン・ザ・バーバリアン』でボブ・サップと一緒に半裸で暴れまわっていて、ワイスピにキャスティングされるとは本人も想像していなかっただろう。『アクアマン』で大ブレイクを果たすのは2018年である。
10年後のLAでは、ドムことドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)が息子のリトルBに運転を教えている。8歳ながら見事なドリフトを披露し、父は満足そうだ。クルマはもちろん1970年モデルの「ダッジ・チャージャー」である。この映画では、最新モデルも含め、何台ものチャージャーが活躍する。
家に戻ると、庭ではバーベキューの用意ができていた。妻のレティ(ミシェル・ロドリゲス)はもちろん、ミア(ジョーダナ・ブリュースター)、ローマン(タイリース・ギブソン)、テズ(クリス・ブリッジス)、ハン(サン・カン)といった面々が顔をそろえている。ドムの祖母アブエリータ(リタ・モレノ)がお説教をかますのはいつもの光景だ。
ローマでイタリア車が激走
彼らにはローマでのミッションが与えられていた。リーダーに指名されたのはローマンだが、いささか荷が重い。ただ、現場が大混乱に陥ったのは彼の能力不足のせいではなく、ダンテのわなだったからだ。彼は、ローマとバチカンを破壊する巨大な中性子爆弾を持ち込んでいた。爆発を止めるために、2台のクルマで爆弾を乗せたトラックを追いかける。「ランボルギーニ・ガヤルド」と「アルファ・ロメオ2000GT」だ。イタリア車が活躍するのは、シリーズ初かもしれない。
舞台はナポリ、ロンドン、リオ・デ・ジャネイロと世界をめぐる。麻薬王のダンテは金がうなるほどあるから、グローバルな陰謀を仕掛けるのだ。資金が潤沢なのは、制作陣も同じである。低予算で始まったが今では映画界きってのビッグバジェットなのだ。第1作では地元LAだけで撮影されていた。小型の日本車を改造して暴走することが流行していたのを背景に作られたカルトムービーだったのである。
当時は「ホンダ・シビッククーペ」「三菱エクリプス」「トヨタ・スープラ」などがフィーチャーされていたが、ブームの終了で姿を消す。高級車やスーパーカーがメインとなり、金満グルマが幅を利かすようになっていったのは寂しい限りだ。それでも、毎回ストリートレースを入れるのがお決まりである。本作では、リオ・デ・ジャネイロで4台がバトルするシーンがあった。ある日本の名車が登場するので、楽しみにしてほしい。
シリーズを通して変わらないのは、ファミリーが何よりも大切という価値観だ。彼らの行動のベースにあるのは、リアルも疑似も含めた家族の絆である。正義や倫理より、仲間内の関係性が最優先される。わが国のヤンキーとも通じる思考法で、日本でこのシリーズが好まれる要因のひとつなのかもしれない。
クルマも登場人物も大幅に増加
そして、もうひとつの大切な約束事が、「昨日の敵は今日の友」ということ。ワイスピでは、対立して殺し合った相手が後で仲間になるのが通例である。全力でケンカした後に互いを認め合って親友になるという、ちょっと昔の少年マンガのような風情が楽しめるのがいい。
ポール・ウォーカーが演じるブライアンとドムの関係が典型である。トラックを襲って強盗事件を起こしていたドムを捕まえようとする潜入捜査官がブライアンだったのに、友情が芽生えてファミリーの一員になったのだ。前作で敵だったジェイコブ(ジョン・シナ)が、今回はリトルBを守るいい叔父さんとして登場する。非情で狡猾(こうかつ)な悪役だったショウ(ジェイソン・ステイサム)だって、まあまあいいヤツになった。
死んだ人間が平気で生き返るのも、ワイスピのおきてである。これまでにも、明らかに死んでいたレティやハンがしれっと復活している。今回も何人かが爆発に巻き込まれるが、心配はご無用だ。彼らが簡単に死ぬはずがない。
相変わらずたくさんのクルマがぶっ壊される。CGだからいいけれど、前回までに2500台が破壊されたという記録は大幅に更新されたはずだ。登場人物もとんでもない人数になった。プレス資料には37名ものキャラクターが紹介されていたが、半分以上はどんな役だったか記憶にない。だからといって、映画を楽しむのに不都合があるわけではないのがワイスピの強みである。細かい設定なんて気にせず、派手なクラッシュや爆発を楽しむための映画なのだ。
いろいろ解決しないままに映画はラストを迎える。ワイスピ最終章は2部から3部構成になることがすでに発表されている。ジェイソン・モモアがさらにパワーアップして強大な敵となるのだろう。できれば、最後はまた地元でストリートレースを楽しむ生活に戻ってほしい。長年戦い続け、ヴィン・ディーゼルもいい年になった。安らかな老後を迎える権利がある。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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