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そんなに騒ぐ必要なし? 自動車の不正発覚が“ものづくりの劣化”とは無関係と言える4つの理由

2023.06.12 デイリーコラム 鶴原 吉郎
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品質問題が明るみに出るのは正常なこと

このところ、自動車業界で品質問題が相次いで発覚している。あまりにも多いので、いちいちチェックするのが難しいほどだ。ざっと見ただけでも、以下のような案件が報告されている。

  • ダイハツ工業 衝突試験不正(その1その2
  • 日野自動車 エンジン検査不正(参照
  • 豊田自動織機 フォークリフト用エンジンの排ガス検査不正
  • 日立Astemo 定期試験等における不正
  • 三菱電機 品質検査不正
  • 東亜石油 軽油などの製品試験に関する不正

少し前にさかのぼると、以下のような事例も記憶に新しい。

  • 日産自動車、スバル、スズキの完成検査不正

こうした品質不正は、自動車分野だけで起きているのではない。製薬業界や鋼材、建材業界、食品業界など、あらゆる業界で起きている。

筆者は日本の製造業の品質問題について、20年以上前からウオッチしてきているが、最初に指摘しておきたいのは、こうした品質問題の多発が、即、日本のものづくり現場の劣化を意味するわけではないということだ。その理由は、主に4つに整理できる。

1つ目は、そもそも「品質問題はゼロにはできない」ということだ。今日の製造業の前提として、どんなに注意深く製品開発・製造をしても、不備や欠陥を完全に排することはできない。工業製品は絶えず進化しており、常に新しい技術を盛り込まねば競争に後れてしまう。しかも自動車は、電子部品やソフトウエアを取り込み、ますます複雑化・高度化している。新たな技術の検証は、シミュレーションや試験では限界があり、市場に出て初めて明るみに出る欠陥も避けられない。重要なのはそうした欠陥をいかに早く検知し、商品の改良にフィードバックするかであり、品質問題が明るみに出ること自体は正常なことだ。

ダイハツのコンパクトSUV「ロッキー」のハイブリッド車。認証申請におけるポール側面衝突試験での不正の発覚により、姉妹車の「トヨタ・ライズ ハイブリッド」ともども生産停止となった。
ダイハツのコンパクトSUV「ロッキー」のハイブリッド車。認証申請におけるポール側面衝突試験での不正の発覚により、姉妹車の「トヨタ・ライズ ハイブリッド」ともども生産停止となった。拡大

本質的な品質管理とは何なのか

第2に、単なる「欠陥」や「不良」を超えた、いわゆる品質「不正」と言われるような問題は、多くの場合、技術の問題ではなく経営の問題だということだ。2000年に発覚した三菱自動車工業の「リコール隠し」や、同じく三菱自動車で2016年に発覚した「燃費不正」は、いずれも開発現場に十分な経営資源を配分していなかったにもかかわらず、実現の難しい開発目標を掲げさせたことが、結果として不正に手を染める原因になった。

海外でも、こうした例はある。無理な開発目標を開発陣に強いた最も悪質かつ悲劇的な例は、2015年に発覚したドイツ・フォルクスワーゲンの「ディーゼルゲート事件」だろう(参照)。製品開発の目標設定が企業体力に対して適切なのかどうか、経営者は絶えず確認することが必要だし、開発担当者が正直に実情を報告できる企業風土も必要なのだ。

また日本企業で起きる「品質問題」の類型のひとつに、「ルールの形骸化」がある。典型的な例が、前掲した日産自動車やスバル、スズキの完成検査工程での不適切行為だろう。これは、資格のある作業員しか完成品検査は行えないにもかかわらず、実際には資格のない作業員が実施していたというものだ。1990年代には既に常態化していたというこの問題だが、実はこれに起因する品質不良は報告されていない。つまり、検査工程の自動化が進み、実際には無資格の者が行っても何ら問題ないものとなっていたのである。だからこそ現場でも問題視されず、常態化していたのだろう。

こうしたルールは、現場の実態に合わせて変更していくべきであるが、実際には「品質ルールを緩めましょう」と社内で提案したとしても「何かあったらどうする」「責任を取れるのか」というような議論に陥るのは目に見えている。かくして、現場が「よきに計らう」ことでルールが形骸化していく(参照)。本質的な品質管理とは何かを議論できる企業風土が、ここでも必要になる。

2015年に発覚したフォルクスワーゲン・グループによる排出ガスの不正問題では、当時のマルティン・ヴィンターコルンCEOが退任に追い込まれた。
2015年に発覚したフォルクスワーゲン・グループによる排出ガスの不正問題では、当時のマルティン・ヴィンターコルンCEOが退任に追い込まれた。拡大

正直者に石を投げても意味はない

最後に指摘したいのは、品質ルールの厳格化は必ずしも品質向上につながらないということだ。不正や品質問題におけるよく見る企業の対策として、「チェック体制の強化」が挙げられる。しかし、それらの施策はつまるところ、今まで担当者とその上長の2人で確認していたものを、さらに上の職制の確認も必要にするとか、他部署の人間も確認するようにするといった、「チェックする回数を増やす」場合が多い。

これが「チェック体制強化のために専門の部署を設ける」など、実質的に担当者の人数も増やすのであればいいのだが、組織全体の人員は同じまま1人あたりのチェック件数が増えるような対策だと、各担当者の負担が増すだけで終わってしまう。それでは、一つひとつのチェックがおろそかになるのは目に見えている。どう実効性のあるチェック体制を構築するかは企業それぞれの事情により異なるだろうが、少なくとも、単に回数を増やすだけでは実効は上がらないだろう。

自戒を込めて思うのだが、われわれメディアも報道の仕方を考える必要がある。ジョージ・ワシントンの桜の木の逸話(これはつくり話だそうだが)ではないが、品質問題や品質不正を正直に発表する企業に対して、ネガティブな取り上げ方をするのはあまり好ましくない。先述のとおり、品質問題を根絶することは不可能であり、できることは発生した問題に対して可及的速やかに対処することだ。だとすれば、よほど悪質な不正行為でない限り、品質問題の発覚は「社内のチェック体制が機能している結果」だとポジティブに受け止めることが、品質問題の発見を促し、ひいては品質の向上につながっていくはずだ。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=花村英典、newspress、webCG/編集=堀田剛資)

いたずらにチェックの回数を増やしたところで、一回一回のチェックがおろそかになっては意味がない。組織体制の拡充や検査の自動化・機械化など、本当に品質管理を強化するなら、本質的な施策は避けて通れない。
いたずらにチェックの回数を増やしたところで、一回一回のチェックがおろそかになっては意味がない。組織体制の拡充や検査の自動化・機械化など、本当に品質管理を強化するなら、本質的な施策は避けて通れない。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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