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第261回:速さのセンサーがブッ壊れた

2023.06.26 カーマニア人間国宝への道 清水 草一
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完成形のおかわり

「清水さん、『日産GT-R』の2024年モデルにお乗りになりますか」

担当サクライ君からのメールに、私は即座に反応した。「乗る乗る~!」と。

なにしろ抽選倍率が100倍を超えたともいわれるおクルマだ。それに乗れるなんて奇跡に近い。カーマニアとして乗らずにおられようか!

とはいうものの、終わったと思ったGT-Rが帰ってきたことに、一抹のズッコケ感はある。私としては、2020年モデルが登場した段階で、「うおおおお、これがGT-Rの完成形!」と感動してしまっている。そこからさらに完成形が何度も登場し、完成形のおかわり続きで、おなか一杯なのである。

2024年モデル最大の変更点はマフラーだ。「絶対ムリ」といわれていた新しい車外騒音規制をクリアしたのだからビックリする。実際のところ、その音はどれくらい静かなのか。

夜8時。いつものようにサクライ君が自宅にやってきた。静かになったGT-Rなので、音じゃ気づかないだろうと思っていたが、かすかな排気音が聞こえた。

オレ:静かといえば静かだけど、そこまで変わらない気もするね。
サクライ:いや、確かに静かになってます。

せっかくなので、少し離れたところまで歩いて行って、サクライ君に時速30kmくらいでの車外騒音を聞かせてもらったが、「静かといえば静かだけど、思ったほど静かでもない」という感想は変わらなかった。これは、開発陣がいったん「ほぼ無音」を達成した後、静かすぎるのであえて少し音を出した結果らしい。うむう、スゲエ。

2023年3月20日に正式発表された「日産GT-R」の2024年モデル。今回は夜の首都高で「プレミアムエディションT-spec」に試乗した。車両本体価格は1896万0700円で、「GT-R NISMO」より1000万円安い設定だ。
2023年3月20日に正式発表された「日産GT-R」の2024年モデル。今回は夜の首都高で「プレミアムエディションT-spec」に試乗した。車両本体価格は1896万0700円で、「GT-R NISMO」より1000万円安い設定だ。拡大
自宅前で、私の愛車“黒まむしスッポン丸”こと1989年モデルの「フェラーリ328GTS」と「GT-RプレミアムエディションT-spec」の2ショット。GT-Rの到着時には、かすかな排気音が聞こえた。
自宅前で、私の愛車“黒まむしスッポン丸”こと1989年モデルの「フェラーリ328GTS」と「GT-RプレミアムエディションT-spec」の2ショット。GT-Rの到着時には、かすかな排気音が聞こえた。拡大
「GT-R」の2024年モデルで大きく変わったのは顔だ。フロントバンパーとリアバンパー、リアウイングに空力性能を向上させる新たなデザインを採用し、空気抵抗を増やさずにダウンフォースを増加させたという。
「GT-R」の2024年モデルで大きく変わったのは顔だ。フロントバンパーとリアバンパー、リアウイングに空力性能を向上させる新たなデザインを採用し、空気抵抗を増やさずにダウンフォースを増加させたという。拡大
夜の住宅街を行く「GT-R」。正面に見えるのは杉並の大宮八幡宮だ。新しい車外騒音規制をクリアするだけあって、従来型よりも静かになっている。
夜の住宅街を行く「GT-R」。正面に見えるのは杉並の大宮八幡宮だ。新しい車外騒音規制をクリアするだけあって、従来型よりも静かになっている。拡大
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きっと誰が相手でも負けない

いよいよ運転である。

運転席で聞くGT-Rのサウンドは、ほとんど変化が感じられなかった。車内にはスピーカーからサウンドが流れ、その音が非常に自然なので、まったくもってGT-Rのままに感じる。

この2日後、2022年モデルに乗る機会があったが、それと比べると、低い回転域ではむしろ車内に響く音(スピーカー音)が大きく、1400rpmで一般道を流していても、刺激的に仕上げられていた。

最初にスピーカーから合成エンジン音を出す技術が登場した頃は、「なんちゅーインチキ!」と思ったものだが、今や技術も向上し、だまされることに何のマイナスも感じない。車内で適度なサウンドを楽しみながら、社会にメーワクをかけないのは、間違いなく善である。

というわけで、GT-Rは永福ランプから首都高に乗り入れた。

音以外の2022年モデルとの差は、乗り心地の向上だった。2020年モデルで「洗練の極致!」と思った乗り心地が、そこからさらにグンと善になっている。今回のGT-Rはスタンダードモデル「T-spec」なので、タービンレスポンスも素晴らしく善だ。

1年半前、サクライ君と「GT-R NISMO」(2022年モデル)で首都高に出撃した時は、極悪ドライビングの「CLS63 AMG」に加速レスポンスで負けてショックを受けたが、NISMOと違ってスタンダードモデルはタービンが軽く、アクセルを踏めば即座に反応する。これなら誰が相手でも負けないだろう。今日は誰も挑んでごないけど。

そんな感じで、GT-Rは快適かつ善良に首都高を走る。でも、私の心は冷めたままだった。「レクサスIS500」にはあんなにコーフンしたのに、このGT-Rには高揚を感じない。

それはたぶん、善すぎるからだ。

永福ランプから首都高に乗り入れる。スピーカーからエンジンや排気サウンドが流れ、その音が非常に自然なので、まったくもって「GT-R」のままに感じる。
永福ランプから首都高に乗り入れる。スピーカーからエンジンや排気サウンドが流れ、その音が非常に自然なので、まったくもって「GT-R」のままに感じる。拡大
「GT-R」の2024年モデルに試乗した後、2022年モデル(写真)にも乗ることができた。2024年モデルのほうが低い回転域で車内に響く疑似サウンドのボリュームが大きく、1400rpmで一般道を流していても、刺激的に仕上げられていることがわかった。
「GT-R」の2024年モデルに試乗した後、2022年モデル(写真)にも乗ることができた。2024年モデルのほうが低い回転域で車内に響く疑似サウンドのボリュームが大きく、1400rpmで一般道を流していても、刺激的に仕上げられていることがわかった。拡大
「GT-RプレミアムエディションT-spec」は最高出力570PS/6800rpm、最大トルク637N・m/3300-5800rpmの3.8リッターV6ツインターボエンジンを搭載。トランスミッションは6段DCTで、パワーユニットの基本構成やスペックは従来型と同じだ。
「GT-RプレミアムエディションT-spec」は最高出力570PS/6800rpm、最大トルク637N・m/3300-5800rpmの3.8リッターV6ツインターボエンジンを搭載。トランスミッションは6段DCTで、パワーユニットの基本構成やスペックは従来型と同じだ。拡大
車名の「T-spec」は、時代をけん引するクルマであり続ける「Trend Maker」でありたいという思いと、しっかりと地面を捉え駆動する車両「Traction Master」であるという考えから命名したという。
車名の「T-spec」は、時代をけん引するクルマであり続ける「Trend Maker」でありたいという思いと、しっかりと地面を捉え駆動する車両「Traction Master」であるという考えから命名したという。拡大

レクサスIS500はカウンターカルチャー

16年前に登場したGT-R (2007年モデル)は、驚異的に速いけれど、DCTがガッチャンガッチャンうるさいし、乗り心地もかなり極悪。紛れもない悪ガキで、私は朝青龍を連想したものである。

ところがこの2024年モデルは、振る舞いは紳士的で、パフォーマンスは無敵。完全な善玉になっている。朝青龍が更生して温厚な親方になったみたいで、どこかズッコケてしまう。

アクセルを床まで踏んでみた。

GT-Rは加速する。ズンズン加速する。しかしあまり加速感がない気もする。

オレ:サクライ君、これ、速いのかな?
サクライ:速いです。
オレ:ホントに速い?
サクライ:ものすごく速いです。

そうか、これは速いのか。まぁ遅いわけがないし、速いんだろう。

でも、私にはもう、何が速いんだかよくわからない。速さのインフレがすごすぎて、速さに何も感じなくなっている。速さのセンサーがブッ壊れたらしい。

やっぱりもう、クルマの速さに未来はないんだな。

でも、スポーツカーメーカーは、速さの追求から降りるわけにいかない。日産もGT-Rを延命させて、戦線に踏みとどまっている。世間では、無意味なほどの速さを誇るスポーツカーたちが、引っ張りだこの取り合いだ。ロレックスみたいに。

このバブリーな状況は、カーマニアとして、シアワセな背景ではあるだろう。こういうクルマがあるから、わが「フェラーリ328」とか、レクサスIS500みたいな古典的なスポーツモデルが、カウンターカルチャーとして輝くのだ。

やっぱりオレはIS500が欲しいなぁ。抽選に当たらないと買えないけど、とっくに売り切れたGT-Rの2024年モデルに比べれば、買える可能性はゼロじゃない!

(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)

「GT-RプレミアムエディションT-spec」で首都高に乗り入れたあと、いつもの辰巳PAで休憩。この日は「911 GT3」をはじめとするポルシェ軍団やレクサスのチューンドカーチームに遭遇した。
「GT-RプレミアムエディションT-spec」で首都高に乗り入れたあと、いつもの辰巳PAで休憩。この日は「911 GT3」をはじめとするポルシェ軍団やレクサスのチューンドカーチームに遭遇した。拡大
2020年モデルで「洗練の極致!」と思った乗り心地が2024年モデルではさらに進化。首都高での振る舞いは実にジェントルであった。16年前に登場した2007年モデルの荒々しさがどこか懐かしい。
2020年モデルで「洗練の極致!」と思った乗り心地が2024年モデルではさらに進化。首都高での振る舞いは実にジェントルであった。16年前に登場した2007年モデルの荒々しさがどこか懐かしい。拡大
ダッシュボードの中央に組み込まれる8インチワイドディスプレイ。車両コンディションやドライビング履歴を表示する「マルチファンクションメーター」を搭載している。
ダッシュボードの中央に組み込まれる8インチワイドディスプレイ。車両コンディションやドライビング履歴を表示する「マルチファンクションメーター」を搭載している。拡大
騒音規制をクリアしつつ、従来同等のパフォーマンスと迫力あるサウンドを実現したという新構造のマフラーをスマホで撮影。排気管の途中に分岐とレゾネーターを設けることで低音域のサウンドを消音しているとか。これが2024年モデルのキモといってもいい。
騒音規制をクリアしつつ、従来同等のパフォーマンスと迫力あるサウンドを実現したという新構造のマフラーをスマホで撮影。排気管の途中に分岐とレゾネーターを設けることで低音域のサウンドを消音しているとか。これが2024年モデルのキモといってもいい。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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