BYDドルフィン(FWD)
目を背けたい現実 2023.09.02 試乗記 小型SUVの「ATTO 3」で日本市場に進出したBYDの次の一手は、小型ハッチバックの「DOLPHIN(ドルフィン)」だ。何とも愛らしい見た目ながら、走りにも内外装の質感にもほとんど隙がない。われわれは中国の新興メーカー発という考えを捨て、襟を正さなければならない。飛ぶ鳥を落とす勢いのBYD
電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車の専売メーカーにシフトした2022年、186万台を販売したBYDの勢いは、さらに加速している。2023年の1~6月期の世界販売台数は約125万台で、対前年比は96%増。分母がゼロコロナ政策の折の数とはいえ、伸び率は成熟した自動車産業のそれとは思えない。
と、このうち半分と見積もっても、2023年のBYDのBEV販売数は既納客ガン無視の値引き攻勢を仕掛けるテスラのそれに限りなく近づくことになる。もしくはトップの座から引きずり下ろすことをもくろんでいても不思議はない。
その後押しとなる状況は既に表れている。同じくこの1~6月、自動車輸出において中国は日本を抜き、世界一となった。その原動力が他国が撤退したロシア市場であることは想像できるが、全数の4分の1を中国が言うところのNEV、つまりPHEVとBEVが占めているとあらば話は一筋縄ではいかない。うち、輸出向けはBEVが大半を占め、2022年も90万台強を外に出しているとなると、2023年のBEVの輸出は3桁万台の大台に乗せてくることは確実だろう。ちなみにこの数字には、上海工場から出荷されるテスラも含まれている。
と、ここまでは報道発表を基にした数値的なところから見えてくる話だ。一気にパワーバランスを覆す周到なシナリオを政治が描いていたとか、そのお膳立てがあってこその強力な競争力だとか、そういう詮索話は日々いろいろと出てくるし、イデオロギーの前提が国富の共有である以上はさもありなんだと個人的には思う。あるいは、莫大(ばくだい)な人口が支える市場を横目にそういう二枚舌をみんな容認してきたんじゃないかという話も理解できる。
でもそれはあくまで個人の感想というやつで、あらゆる方々が読む前提で試乗印象を伝えることとは切り離して考えなければならない。ましてや今は日中のカントリーリスクに直結するようなネガティブニュースが大新聞や大電波に乗ってバンバン報道される状況だ。感情任せで政治的思惑に乗せられないよう、できるだけ冷静でいることが大事なタイミングだと思っている。
日本市場に向けたきめ細かな対応
と、そんな最中にBYDは新しいBEVを日本に導入するという。しかもそれは彼らの商品展開において最もアフォーダブルな、つまり数を担うセグメントで展開する銘柄だ。その名はドルフィン。先に投入されているATTO 3と同じく、彼らの最新世代のアーキテクチャー「e-Platform 3.0」を基にしたコンパクトカーとなる。
ドルフィンの全長×全幅×全高の三寸は4290×1770×1550mm。今やCセグメントとしては小さい部類に入る「ゴルフ」のそれが4295×1790×1475mmといえばサイズ感は伝わるだろうか。おおむねB~Cセグメント級としていいだろう、この車格に対してホイールベースは2700mmと、「ゴルフヴァリアント」と比べても長いところにBEV専用プラットフォームの特徴が表れている。ちなみに全高は他の仕向け地では1570mmとなるが、日本仕様は機械式駐車場への対応を織り込んで、アンテナのフィン形状を調整したという。コラムスイッチも日本車と同じ右ウインカー・左ワイパーに合わせたほか、V2H&V2Lへの対応など、仕向け地のニーズのくみ上げもきめ細かい。
グレードはスタンダードと「ロングレンジ」の2つ。前者は容量44.9kWhの、後者は58.56kWhのリン酸鉄ブレードバッテリーを搭載する。急速充電はCHAdeMOに準拠し、対応出力はスタンダードが65kW、ロングレンジが85kW。そして普通充電は6kW対応。一充電走行距離はWLTCモード計測値でスタンダードが400km、ロングレンジが476kmとなる。
ロングレンジという割には航続距離に差がないなあと思われるかもしれないが、理由のひとつは前部に搭載するモーターだろう。スタンダードが最高出力95PS/最大トルク180N・mに対してロングレンジは204PS/310N・mと別物だ。BYDのスタッフいわく、タウンスピードで普通に走る限りは応答性に大きな差は感じないというが、踏み込めばその差は歴然だろう。ちなみに0-100km/h加速はスタンダードの12.3秒に対して、ロングレンジは7.3秒とホットハッチ的な領域だ。この差分を同じタイヤサイズで賄っているということにも驚かされるが、それだけ駆動制御に自信があるということかもしれない。ちなみにロングレンジはリアサスがマルチリンク……とあらば、そのバッテリー容量やモーター出力などをみるに、中身はATTO 3にほぼ準拠しているということになるだろうか。
さながらフランス車の乗り味
われわれに割り当てられた取材車はスタンダード。外観上で最も分かりやすい識別点は、ロングレンジはバイカラーのみということになるだろうか。内装まわりの差はワイヤレス充電のQiやサングラスホルダーの有無といったささいなものしかなく、テキスタイルやオーナメントなど、静的質感面での違いはない。
ATTO 3ほどにぎにぎしくはないが、ドルフィンの内装意匠は若干クセが強めに感じられる。ウィンドウまわりのデフロスターは波をモチーフにしたという三角の吹き出し口が配されるが、強い直射日光下ではその穴がウィンドウに映り込んでちょっとうるさい。また、そういう環境下ではダッシュアッパーの樹脂材のテカリなども気になるところだ。シフトレバーと一体化したセンターコンソールのスイッチ類は回すと押すの入力方法が混在していて初見ではちょっとイラッとさせられた。まぁいずれも独自性を追求するがゆえだから大目に見てあげたいとは思う。
ただし、仕上げ質感についてはおおむねATTO 3と同様で、大メーカーの同級車に比肩するか一部上回るところもある。このあたりは常識を逸脱したコスト感覚やクルマづくりの勢いというものもあるのだろう。思えばバブル期のトヨタや2000年代のアウディにもそういうところがあった。ちなみに後席はだだっ広いというほどではないが181cmの大人が前に座った状態でもゆったり座ることができた。足先の収まりや背もたれの角度などに床面の高さを感じるところもあるが、ファミリーカーとしても通用する空間効率はしっかり備わっている。
スタンダードの動力性能をガソリンエンジン車になぞらえるなら、1.3~1.5リッターのBセグメントといったところだろうか。BEVならではを強調したようなとがったところはまるでなく、交差点を曲がったり駐車場で切り返したりといった街なかで頻用する微低速域でのスピードコントロールのしやすさに感心させられる。アクセルを踏み込めば快活な加速も得られるし、高速域でも力感は十分だ。ただし100km/hを超えるとさすがに加速感はパワーなりに鈍くなる。乗り味はかなり柔らかめだが、BEVらしい低重心に加えてタイヤの接地感も適切で、トリッキーな動きもなく安心して走らせられる。スタンダードのリアサスはトーションビームだが、突っ張りや横揺れなどのクセはきれいに抑えられており、その乗り心地はさながらフランス車……と表しても大げさではないだろう。
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もはや新興メーカーにあらず
車格からすればADASは大盤振る舞いと言っても過言ではないが、ACCやアクティブレーンキープといった快適要素が求められるシステムの作動感はちょっと古くさいというか、粗さが目立った。特に操舵制御はかなり強く介入してくるので、女性などは慣れるまでちょっとドキッとすることもあるかもしれない。とはいえ、いち早く幼児置き去り検知システムを実装したり、日本向けに誤発進抑制システムを標準搭載としたりと、やはりそこでも感じるのは仕事の早さときめ細かさだ。
ともあれクルマ屋的視点で驚いたのは、動的質感の成熟ぶりだった。ATTO 3では生煮え感のあった回生と機械ブレーキの協調時の段付きはきれいにならされているし、低出力仕様だったこともあるかもしれないが、さまざまなアクセル操作に対してもモーターのトルクがラフに表れることもない。BEVはいかに駆動系を上手に御してスムーズにリニアに走らせるかがクルマ屋の見せどころだが、ドルフィンの走る止まるの丸い仕上がりは新興メーカーのそれではない。
毎年ホンダが1つずつ作れるくらいのとんでもない勢いで彼らが人材を集めているというのは今に始まった話ではないが、それは実験部門もしかりで、手だれのマイスター級が意向を反映できる指示系統が築かれていることは明白だ。そしてこの伝統的な汗くさい開発プロセスにもちゃんと一手を投じていることに感心……というよりも冷静に脅威を感じる。BYDの今日の勢いは単に力任せの風任せだけではない。何かしらクルマづくりに携わる方々におかれては、いっときの感情でこの現実を見ないようなことがあれば致命傷になってしまうとお伝えしておきたい。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BYDドルフィン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4290×1770×1550mm
ホイールベース:2700mm
車重:1530kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:95PS(70kW)/3714-1万4000rpm
最大トルク:180N・m(18.4kgf・m)/0-3714rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(ブリヂストン・エコピアEP150)
一充電走行距離:400km(WLTCモード)
交流電力量消費率:129Wh/km(WLTCモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:70km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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