スバル・レヴォーグ レイバック リミテッドEX プロトタイプ(4WD/CVT)
主役を張れる逸材 2023.09.07 試乗記 「スバル・レヴォーグ」のラインナップに、車高を上げてSUVテイストをまぶしたニューモデル「レヴォーグ レイバック」が登場。専用の足まわりを持つ“都会派クロスオーバー”は、どのようなモデルに仕上がっているのか? 新潟・佐渡のワインディングロードで確かめた。今回の改良の目玉
レヴォーグ レイバック(以下、レイバック)は、ステーションワゴンのレヴォーグの車高をリフトアップしてSUVテイストを加味したクロスオーバーだ。2代目レヴォーグとしては3回目の改良モデルとなる、最新の4型(スバル社内呼称は「D型」)で追加される新グレードというあつかいとなる。
最新のD型レヴォーグ全体では、シャシーやパワートレインなどの基本ハードウエアに変更はない。ただし、「アイサイト」が単眼広角カメラを加えた最新の3眼式にアップグレードされたうえで、グレード構成も「アイサイトX」標準装備モデルのみに整理。ほかにも、サラウンドビューカメラに交差点自動切り替え機能を追加したり、スマホとのコネクテッド機能も強化したりしている。専用開発のharman/kardonブランドのオーディオも新たに用意された。
ともあれ、今回のD型レヴォーグ最大の目玉はレイバックだ。前記のとおり、レイバックは現時点でレヴォーグシリーズの一角というあつかいで、エンジンは1.8リッターターボのみ、グレードも1種類。1.8リッターとしてはもっとも高価な可変ダンパー付きの「STI Sport EX」と手ごろな「GT-H EX」の中間的な位置づけだが、ほかのレヴォーグ同様にアイサイトが標準で付くだけでなく、harman/kardonのオーディオも標準採用となるなど、快適系の装備レベルは最初から高い。
開発陣によると、2代目レヴォーグの初期開発時点ではクロスオーバー版は想定されておらず、レイバックはいわば“後付け”で企画されたモデルだという。スバルではすでに「クロストレック」や「アウトバック」などのハッチバック/ステーションワゴンの派生型クロスオーバーが人気だ。同時に、よくも悪くもスポーツ性能を特化させたレヴォーグは、ライト層や女性ユーザーに敬遠されがちだったのも事実。レイバックは、そのあたりの需要の掘り起こしも期待されているらしい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
都会派といえど“らしさ”は忘れない
レイバックにおけるクロスオーバー化の手法は、“お約束”どおりであると同時に、いかにもスバルらしい。
ホイールアーチやサイドシルなどを樹脂クラッディングでブラックアウトさせて、前後バンパーも大型化されている。ただ、そのバンパーのクラッディング処理は下回りのみで、グリルや専用ホイールもあまりSUVらしくない意匠だ。この点を、開発陣は「土の香りがしないのがレイバックの特徴だからです」と説明する。
いわれてみると、ホイールアーチの処理などはクロストレックやアウトバックより明らかに控えめだ。これは、ホイールアーチとドア開口部のせまいスペースに、ぎりぎり縫うようにクラッディングをあしらうしかないからでもあり、レヴォーグのデザインがもともとクロスオーバー化を想定していなかった証左だ。「土の香りをさせない=都会派クロスオーバー」というコンセプトも、そういう現実を逆手に取った発想ともいえる。
インテリアはシートやコンソール、そしてアームレストにレイバック専用のアッシュカラーを配して、そこに暖色系のカッパーステッチを組み合わせる。この種のアースカラー系コーディネートは、いかにも現代のクロスオーバーSUVっぽい。
スバルSUVのお約束である「X-MODE」はレイバックには用意されない。X-MODE自体は横滑り防止装置や4WD、変速機の制御を変えるだけなので、レイバックでも技術的には追加可能のはずだが、追加するにはそれなりのコストがかかる。今回のレイバックがそれをあえてスルーしているところからも、クルマのねらいが見て取れる。
そのいっぽうで、最低地上高は標準のレヴォーグから55mmものかさ上げとなる200mm。“地上高200mm”といえばスバルのSUVでは最低ラインだが、他社では本格SUVを自称してもいいレベル。このあたりの基準は、いかにもスバルらしい。
足腰に見るスバルのこだわり
今回の取材では、そんなレイバックのプロトタイプに短時間の試乗が許された。舞台は新潟・佐渡島にある「大佐渡スカイライン」の一部を閉鎖した特別コース。基本的にタイトなワインディングロードだ。レイバックのみの試乗でレヴォーグとの比較はできなかったが、さすがに目線が55mmも高いと、あからさまに見晴らしがいいのがわかる。聞けば、着座位置の上昇により、お尻を横に滑らすような乗降動作となるレイバックでは、座面クッションもサイドサポートを低くした専用デザインになっているという。
試乗コースの途中に下手するとジャンプしそうなほどの大きな凹凸があったのだが、そこを最小限の上下動でフワリと吸収してくれたのには感心した。それだけでなく、少なくとも今回のコースでは、豊富なストロークを生かした乗り心地が好印象で、舗装のひび割れを通過しても鋭い突き上げは皆無に近い。
いっぽうで、「SUVとしてはスポーツ性の高いハンドリング」を自負するレイバックだけに、なるほどステアリングは正確で、ロールも大きくない……と思ったら、今回の走りの開発担当者によると「バネ関係は前後ともレヴォーグよりソフトなので、最大ロール角は車高のぶんだけ素直に大きくなっています。ただ、ダンパーはゆっくりした動きのときに減衰がしっかり出る構造にして、ジワッとした動き出しとリニアな反応を目指しました」ということらしい。ということは、ロールが小さく感じるのはある意味錯覚で、この乗り心地のよさはバネ類に秘密がありそうだ。
さらに、ゆったりした動きのわりに無理がきく……という印象ももったが、その大きな理由も「レイバックではクロストレックで専用開発したファルケンのオールシーズンタイヤをそのまま使っています。このタイヤは静かなうえに、グリップも高いんです」と、走りの開発担当氏は教えてくれた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
このクルマが“主役”になる可能性も
今回は限定的な試乗だったので、操縦性や乗り心地も場所によっては印象が変わるかもしれない。ただ、少なくとも静粛性だけは明らかにレベルアップしており、とくにロードノイズの小ささには感心した。その静粛性による“上質感”も、レイバックの大きな売りだという。
そんなレイバックの静粛性の秘密も、前出の開発担当氏が明かしてくれた。「レイバックが静かな理由のひとつは、レヴォーグよりホイールハウスを広く取っていることです。ホイールハウスが大きいとノイズを抱え込みにくく、外に逃げやすいんです。車高が高いSUVのようなクルマは、この部分の静粛性ではもともと有利なんですね。もうひとつはドア内部構造の穴(=サービスホール)のふさぎ方が変わったことです。そこはビニールなどでカバーするのが普通ですが、レイバックを含むD型レヴォーグの一部は、しっかりした遮音材でふさいでいます。これはレイバックにも標準装備される、新しいharman/kardon(サウンドシステム)のための処置です。ほかのレヴォーグや『WRX S4』でも、ハーマン付きはレイバックと同じ仕立てです」
確かにもともとのレヴォーグと比較すると、レイバックは車高のぶんだけステアリングフィールなどはわずかに曖昧に、接地感も少し希薄になった感はある。ただ、少なくとも乗り心地と静粛性については、今回の試乗ではシリーズ随一のデキに感じられた。
今やクロストレックは世界的に「インプレッサ」より圧倒的に多く売れており、アウトバックにいたっては、ベースの「レガシィ ツーリングワゴン」が姿を消すという「ひさしを貸して母屋を……」状態(?)である。
もっとも、レイバックも含む今のレヴォーグは日本国内専用モデルで、日本市場では伝統的な車形の人気も根強い。なのでクロストレックやアウトバックほど極端なことにはならないかもしれない。しかし、レイバックが一個のグレードにはおさまらず、最終的にレヴォーグシリーズの主力になる可能性は、十二分にあるかも。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
スバル・レヴォーグ レイバック リミテッドEX プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1820×1570mm
ホイールベース:2670mm
車重:1600kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:177PS(130kW)/--rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98V M+S/(後)225/55R18 98V M+S(ファルケン・ジークスZE001A A/S)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:1456km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(--)
参考燃費:--km/リッター
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆関連ニュース:スバルが「レヴォーグ レイバック」を発表 ブランド初の都会派クロスオーバーが登場
◆画像・写真:スバル・レヴォーグ レイバック リミテッドEX(65枚)
◆画像・写真:スバル・レヴォーグ レイバック用品装着車(44枚)
◆関連ニュース:スバルが「レヴォーグ」と「WRX S4」を一部改良 「アイサイト」やカーナビの機能を強化

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】 2025.12.17 「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。
-
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】 2025.12.16 これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
NEW
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】
2025.12.20試乗記冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。 -
NEW
失敗できない新型「CX-5」 勝手な心配を全部聞き尽くす!(後編)
2025.12.20小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージによる新型「マツダCX-5」の開発主査へのインタビュー(後編)。賛否両論のタッチ操作主体のインストゥルメントパネルや気になる価格、「CX-60」との微妙な関係について鋭く切り込みました。 -
NEW
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】
2025.12.19試乗記フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ911カレラT編
2025.12.19webCG Movies「ピュアなドライビングプレジャーが味わえる」とうたわれる「ポルシェ911カレラT」。ワインディングロードで試乗したレーシングドライバー谷口信輝さんは、その走りに何を感じたのか? 動画でリポートします。 -
NEW
ディーゼルは本当になくすんですか? 「CX-60」とかぶりませんか? 新型「CX-5」にまつわる疑問を全部聞く!(前編)
2025.12.19小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ「CX-60」に後を任せてフェードアウトが既定路線だったのかは分からないが、ともかく「マツダCX-5」の新型が登場した。ディーゼルなしで大丈夫? CX-60とかぶらない? などの疑問を、小沢コージが開発スタッフにズケズケとぶつけてきました。 -
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」
2025.12.19デイリーコラム欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。























































