第267回:昼のおしりと夜のおしり
2023.09.18 カーマニア人間国宝への道結局おっさんくさい?
担当サクライ君からメールが届いた。「今度トヨタの『クラウン クロスオーバー』にお乗りになりますか」と。
「乗る乗る~!」
いつもと同じパターンだが、継続は力なり。続けていればきっといいことがあるはずだ。
午後8時、いつものようにサクライ君がわが家にやってきた。
クラウン クロスオーバーに乗るのは、2022年に開催された報道関係者向けの試乗会以来だ。もちろん夜の首都高で乗るのは初めて。いつものコースを走るクラウン クロスオーバーは、どのように感じるのだろう。
首都高に乗り入れる前にあらためて感じたのは、内装が素っ気なくてクラウンらしくないことだった。リボーンなのだから変わるのは当然とはいえ、「これはクラウンじゃない!」と激高するマニアがいても不思議はない。
オレ:このクルマ、発表のときは「クラウンがこんなになるなんてスゲー!」って思ったけど、街で見かけるようになるにつれ、「結局おっさんくさいカッコだな」って思うようになったんだよね。
サクライ:ですか?
オレ:ウエストラインが高くて全体にでっぷりしてるでしょ。なんとなく、ダブダブのズボンをつりベルトでつってる恰幅(かっぷく)のいいおっさんに思えてきたんだよ。
サクライ:僕はけっこう好きですけど。
クラウン クロスオーバーは、いつものように首都高に乗り入れた。合流車線でフル加速をかませば、システム最高出力349PSの2.4リッター直4ターボハイブリッドはなかなか俊足。シャシーの安定感も高い。しかし、クラウンらしい重々しさのようなものはない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
マニアにクラウンのハードルは高い
オレ:このクラウンが出てから、先代や先々代がすごく輝いて見え始めたんだよね。
サクライ:わかります。僕もイナズマグリルの先々代「クラウン アスリート」が輝いて見えます。
オレ:あれ、メッチャカッコいいよね!
サクライ:メッチャカッコいいです。
とはいうものの、前回クルマの買い替えを検討した際、いったん先々代クラウン アスリートを購入候補に挙げながら、いざ買うとなるとそのおっさんくささに耐えられなかった。
「オレは本当にコレを買うのか? それでカーマニア人生に悔いはないのか!?」と自問自答した後、「プジョー508」の写真を見て心が躍り、一も二もなく「こっちにするっ!」と決めてしまった。
サクライ君の「メッチャカッコいいです」も、じゃ本気で欲しいのかと問い詰めれば、「いや、それは……」となるだろう。なんだかんだでカーマニアがクラウンオーナーになるのはハードルが高い。
その時、前方にどこか見覚えのある腰高なクルマが見えた。
オレ:あっ! あれ、クラウン クロスオーバーじゃない?
サクライ:ですね。
オレ:うおおおお、夜に後ろから見るとあんな感じなのかぁ。
サクライ:はい。テールランプは横一文字です。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
昼と夜とでまるでイメージが変わる
オレ:じゃあれはなに!?
サクライ:「トヨタ・プリウス」じゃないですか。
オレ:だね! 横一文字テールランプ、多いなぁ。そもそもクラウン クロスオーバーって、プリウスの車高を上げればかなりソックリにならない?
サクライ:多少似てますね。
オレ:クラウンがこの内装なら、プリウスでいいんじゃないかな。見た目スーパーカーだし。
そんなことを話しているうちに、またも横一文字のテールランプが出現した。
オレ:あれもクラウン クロスオーバー?
サクライ:いえ、あれは違います。
オレ:違うの!? じゃ何?
サクライ:ポルシェです。「カイエン」かな。
オレ:ええーっ! あれがカイエン? まさか! ホントに?
サクライ:たぶん。
オレ:せめて「マカン」じゃない?
オレ:かもしれません。
横に並んで確かめてみたところ、それはマカンだった。マカンとクラウン クロスオーバーを見間違えるとはカーマニアとして衝撃だが、最近、昼と夜とでまるでイメージが変わるクルマが増えている。中高年になると夜走る機会が減るので、新型車の夜の見え方がわからなくなってくるのである。
オレ:あっ! またマカンだ!
サクライ:またマカンですね。
オレ:サクライ君、なんだか探検みたいで楽しいね!
サクライ:はい。楽しいです。
こうして夜の首都高で、中高年カーマニア2人は、周囲のクルマのおしりを見てキャッキャはしゃぐのであった。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。