【F1 2023】第16戦シンガポールGP続報:フェラーリのサインツJr.快勝 レッドブル&フェルスタッペンの連勝ついに止まる
2023.09.18 自動車ニュース![]() |
2023年9月17日、シンガポールのマリーナベイ・ストリートサーキットで行われたF1世界選手権第16戦シンガポールGP。今季全勝中だったレッドブルがまさかの絶不調に見舞われた一方、これまでの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのようなライバルたちの奮闘がレースを大いに盛り上げた。
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勢力図に変化あり? 「フレキシブル・ボディーワーク」取り締まり強化へ
F1のレギュレーションがシーズン中に大きく変更されることはないが、法をつかさどるFIA(国際自動車連盟)が「技術指令(テクニカル・ダイレクティブ、通称TD)」というかたちでチーム側に文書を通達することがある。百戦錬磨の技術者たちが見つけたルールの抜け穴やグレーゾーンなどを管理するための手法である。
シンガポールGPから施行されたTDは、いわゆる「フレキシブル・ボディーワーク」と呼ばれるようなボディー各所の“たわみ”を規制するものだった。レギュレーションでは、空力に影響するパーツは可動にしてはならないとされている。しかし、走行中のマシンのオンボードカメラを見れば、多くのマシンのフロントウイングなどが強大なダウンフォースにより押し下げられていることに気がつくはずである。
このたわみは、ストレートでは大敵となる空気抵抗を減らせ、またコーナーでは再び元のフォームに戻りダウンフォースが得られるというアドバンテージが得られるため、チーム側はFIAのテストに合格させつつ、許容される範囲内でパーツを動くように設計し活用してきたとされている。当然だが、法の順守を求めるFIAとしては見過ごせないわけで、この週末から検査を厳しくすることをチームに伝達したという。
今回のTDに対する各チームの事前の反応は「影響ないだろう」というものがほとんど。もちろん「インパクトは大きい」と明言してしまえば、法の精神を無視していたことがバレてしまうということもあるだろうが、残り8戦の勢力図に何かしらの変化があれば、このTDの影響が疑われても不思議はない。
例えば、「これでレッドブルが0.5秒遅くなったら」という、メルセデスのトト・ウォルフ代表がかましたジョークのようなことが起これば……。
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レッドブル絶不調でまさかの2台Q2落ち、サインツJr.が2戦連続ポール
高温多湿な気候に加え、23ものターンが続いた最もタフな市街地コース、マリーナベイは、工事の影響で今年に限り4つの90度ターンがなくなり、全長は120mほど短くなった。
壁に囲まれたハイダウンフォース・サーキットで好調な滑り出しを見せたのはフェラーリだ。前戦イタリアGPでカルロス・サインツJr.が3位表彰台を獲得した勢いそのまま、3回のプラクティスすべてでトップタイムをマーク。対する今季全勝中だったレッドブルは、2人のドライバーとも明らかに挙動が不安定で初日から苦戦を強いられた。
予選Q1では、アストンマーティンのランス・ストロールが最終コーナーで大クラッシュし赤旗中断のうちに終了。マシンを大幅にアップデートしてきたアルファタウリの角田裕毅がトップでQ1セッションを終えるという一幕があった。
続くQ2では、ステアリングを修正しながらの走行を余儀なくされたレッドブルが2台ともトップ10に食い込めないというショッキングな出来事が起き、マックス・フェルスタッペンは11位、セルジオ・ペレスは13位に沈んだ。レッドブルが1台もQ3に進めなかったのは、実に2018年のロシアGP以来となる。
トップ10グリッドを決めるQ3、熾烈(しれつ)なポール争いを制したのはフェラーリのサインツJr.。0.072秒という僅差で、2戦連続、通算5回目のポールポジションを奪った。メルセデスのジョージ・ラッセルが2位、ポールから0.079秒差でフェラーリのシャルル・ルクレールが3位だった。
マクラーレンのランド・ノリスが4位、メルセデスのルイス・ハミルトンは5位。ハース勢はケビン・マグヌッセンがマイアミGP以来となるQ3進出で6位、ニコ・ヒュルケンベルグも9位に入り、チームは2022年オーストリアGPに次ぐ2位台そろってのトップ10グリッド内につけた。
今季前戦でQ3に進んでいるアストンマーティンのフェルナンド・アロンソが7位、アルピーヌのエステバン・オコンも健闘し8位、そしてアルファタウリのリアム・ローソンが3戦目にして初めてQ3に進み10位に入った。
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スタートでフェラーリ1-2、レッドブルに輝き戻らず
昨季のベルギーGPでは14番グリッドから優勝するという離れ業を演じたフェルスタッペンだったが、さすがの彼とて抜きにくいシンガポールでは勝利は難しいはず──レッドブル&フェルスタッペンの連勝記録更新に黄色信号がともった。
大勢がスタートタイヤにミディアムを選んだ一方、レッドブルはハードを履いてライバルとは逆の戦略を選んだ。62周で争われる灼熱(しゃくねつ)のナイトレースは、サインツJr.、ルクレールのフェラーリ1-2でスタート。ターン2をショートカットして前に出たハミルトンが3位、ラッセル4位、ノリス5位となるも、程なくしてハミルトンがポジションを返したことでラッセル3位、ノリス4位、ハミルトン5位となった。
何かと不手際を起こしては自滅することも多かったフェラーリだったが、この日は戦略、ドライビングいずれも鮮やかに決まっていた。3番グリッドのルクレールには蹴り出しのいいソフトタイヤを履かせ、早々に1-2を形作ると、ルクレールがラッセルの前に立ちはだかり、ミディアムを装着するトップのサインツJr.の防波堤となった。
一方でレッドブルにとっては流れが悪かった。11番グリッドから出走したフェルスタッペンは、オープニングラップで1台抜いて10位、2周目に9位、6周目に8位まで駒を進めていたが、その後は7位オコンの後ろでくすぶり続けていた。
そんな折、19周目にウィリアムズのローガン・サージェントが単独でウォールにヒットし、20周目にセーフティーカーが出た。サインツJr.、ルクレール、ラッセル、ノリスら上位勢が相次いでピットでタイヤを替えることができてしまい、ハードでスタートしたレッドブル勢は数少ないカードを切り損ねた。
これで順位は、1位サインツJr.、2位にハードのまま走行を続けたフェルスタッペン、3位ラッセル、4位にピットに入らなかったペレス、5位ノリス、6位ルクレール、7位ハミルトン。23周目にレースが再開すると、フェルスタッペンはラッセル、ノリスに相次いで抜かれ、またペレスも一気に6位までダウンした。レッドブルは、ペレスを40周目、フェルスタッペンはその次のラップでハードからミディアムに履き替えさせ、結局フェルスタッペン5位、ペレスは8位でゴール。今季ここまで全勝を誇ったレッドブルから、2週間前までの輝きが完全に失われていた。
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サインツJr.、4台による手に汗握る攻防戦を制しキャリア2勝目
首位サインツJr.と2位ラッセルの間隔は1秒以下。サインツJr.としては、抜きづらいサーキット特性を利用してペースを抑えタイヤをセーブし、このままトップでチェッカードフラッグを受けようという作戦だった。しかしレースは終盤を迎えると、メルセデスのアグレッシブな作戦で緊張感が一気に増すこととなった。
43周目、この日誕生日を迎えたオコンのアルピーヌがコース脇にストップすると、バーチャルセーフティーカーが出た。これを好機と見たメルセデスは、ラッセル、ハミルトンをピットに呼び、温存していたミディアムタイヤを履かせたのだ。
これで順位は、1位サインツJr.、2位ノリス、3位ルクレール、4位ラッセル、5位ハミルトン。ラッセルとハミルトンは、ここからミディアムタイヤでファステストラップを刻み猛追を仕掛け、残り10周でラッセルが3位に、続いてハミルトンも4位に上がる。
2台の黒い矢が次に狙うのは、長距離を走ったハードでなんとかゴールを目指していた1位サインツJr.と2位ノリス。数珠つながりの4台による手に汗握る攻防戦は、フェルスタッペンが独走していた時にはなかった独特の緊迫感をもたらし、今季レッドブル以外は大混戦であったことを思い出させた。
とはいえ、シンガポールでのオーバーテイクは至難の業。順位は変わらないままファイナルラップを迎えると、目の前の2位ノリスが軽くウォールにタイヤを当てた直後、ラッセルも同じように、しかしノリスよりもかなり強めに壁にヒットし、メルセデスの1台は脱落。代わってハミルトンが3位表彰台を手にしたのだった。
レッドブルが自滅した週末だったが、その連勝記録を止めたのが最古参チームのフェラーリだったことは、F1の歴史的に見ても興味深い。1988年に16戦で15勝したマクラーレンが唯一落としたレースでも、フェラーリが勝利を拾っていたのだ。サインツJr.は、チームの作戦を味方につけながらタイヤをマネジメントして我慢の末に優勝。昨季のイギリスGPに次ぐキャリア2勝目を飾った。
サインツJr.と同じように、ノリスも背後からのプレッシャーに耐え抜いての2位。最後に3位表彰台をものにした38歳のハミルトンは、体力的に最もつらいとされるマリーナベイで疲労困憊(こんぱい)の様子だった。
レッドブルの連勝記録は「15」、フェルスタッペンは「10」でストップ。最強チームの不振がフレキシブル・ボディーワークの影響ということは言い切れず、むしろクリスチャン・ホーナー代表が言うように、特殊なコース特性とマシンが合っていなかったと結論づけるほうが自然であるが、ここまで勝ち続けてきたプレッシャーから解放されたことで、タイトル獲得に向けて、心機一転で出直してもらいたいところだ。記録はいつか破られる。永遠に続く記録などないのだから。
次戦は、例年の秋の開催から2024年は春に日程が移行することが決まっている日本GP。鈴鹿サーキットで9月22日に開幕、24日にレースが開催される。
(文=bg)