第763回:100%BEV戦略からのターニングポイント!? IAA2023で見た近未来のメルセデス・ベンツ
2023.09.23 エディターから一言![]() |
2023年9月5日から10日にかけてドイツ・ミュンヘンで「IAAモビリティー2023(IAA)」が開催された。自動車業界の巨人、メルセデス・ベンツはどんな事物を展示し、将来に向けてどんな道筋を示したのか。現地からリポートする。
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2度目のミュンヘン開催なれど
そもそもIAAは“フランクフルトショー”と呼ばれていたように、フランクフルトにある広大な敷地を有するメッセで2年に一度、開催されていた。ところが(主に)政治的な都合や事情によって開催地の変更を余儀なくされ、前回からミュンヘンに場所を移したものの、2021年はコロナ禍の真っただ中だった。自分はプレスパスを取りエアチケットも用意して、パッキングも済ませた出発前日にドイツの入国規制が変更。コロナワクチンの3回目接種が済んでいないと入国できなくなり、まだ2回しか済ませていなかった自分はやむを得ずすべてをキャンセルした。だからミュンヘンでのIAAは、自分にとって今回が初参戦だった。
幸か不幸かコロナ禍の影響により、新型車の発表などメーカーからの発信はオンラインが主体となり、モーターショーの在り方も問われるようになった。これまでは、現地まで赴かないと見られなかった新型車が、発表と同時に世界中のどこからでもネットを介して見られるようになったからである。来場者の減少=チケット販売数の減少も避けられず、興業としての存続すら危ぶまれる事態となった。
メイン会場を2カ所に分散
そんななかで、「新しいかたちのモーターショー」を提案しているのがミュンヘンのIAAである。例えば会場は大きく分けて2つある。ひとつはこれまでのモーターショーと同様にメーカー各社が一堂に集まるメッセ、もうひとつがミュンヘンの旧市街にメーカーのブースが点在する「散策型」である。メッセのほうは、どちらかといえば一般の来場者よりも商談を目的としたB to Bの場で、入場料も100ユーロ以上とそれなりにする。いっぽうの散策型は入場無料で、旧市街をブラブラしているとメーカーのブースに遭遇してフラッと立ち寄る、そんな感じである。メーカーにしてみれば、会場が2カ所になればコストも手間も2倍になるわけで、この方法にもろ手を挙げて賛成している雰囲気ではなかったけれど、街なかにあるポップアップストアのような体裁にすれば、交通費をかけて現地までわざわざ行って入場券を購入するという、ちょっと高い敷居をまたいでくれていたこれまでのいわゆる自動車ファン以外にも、広く自社製品をアピールできるというメリットは大きいと踏んでいるようだった。
メッセには、自動車メーカー以外にもサプライヤーやスタートアップ企業など、さまざまなブースが並んでいた。その多くが電気自動車(BEV)の充電器やバッテリー、ソフトウエア関連で、中国企業も少なくなく、まさしくいまの世相を反映している光景だった。旧市街のほうはもくろみどおり、たまたまミュンヘンを訪れていた観光客が「これは何?」と、モーターショーとの偶然の遭遇に驚きながらも各社のブースに並べられたニューモデルを楽しそうに眺めていたのが印象的だった。
ミュンヘンといえばBMWのお膝元であり、それを強く意識したかどうかは定かではないけれど、今回最も力が入っていたのはメルセデス・ベンツのように見受けられた。小さなライブハウスのような小屋をこのためだけに建設し、その中で今回発表した「コンセプトCLAクラス」を展示。ちなみにこれはメッセには置かれておらず、旧市街でしか見ることができなかった。
“リトルGクラス”をBEVで
「力が入っている」と感じたのはこうした展示方法だけでなく、前夜祭のパーティーで発表されたいくつものトピックスだった。コンセプトCLAクラスは、まったく新しいアーキテクチャーを使ったメルセデスのコンパクトクラスの核となるモデルである。「セダン」の他に「シューティングブレーク」と2種類のSUVを開発中とのことだったが、ハッチバックは含まれていない。これはつまり「Aクラス/Bクラス」が事実上、現行モデルで最後となることを示唆している。またメルセデスは以前、「アンビション2039」という長期計画のなかで「今後登場するアーキテクチャーはすべてBEV専用となる」とアナウンスしていたが、コンセプトCLAクラスのアーキテクチャーは内燃機関車(ICE)への転用も可能とのこと。将来的に100%BEVを目指すという戦略に変化が生じ始めたようだ。また、ミッドサイズとバン専用の新しいアーキテクチャーの開発にも言及した。そして前夜祭を最も沸かせたのは、ケレニウス会長がスピーチの最後に語った「“リトルGクラス”をBEVで発表する」という発言だった。その後の取材で、現行Gクラスのようなフレーム式のアーキテクチャーを新たに開発する予定はないそうで、「リトル」がどれくらい「リトル」なのかにもよるけれど、今後登場する新しいアーキテクチャーのいずれかをベースにする可能性が高い。
そして、メルセデスはサブブランドとして展開していた「メルセデスEQ」にひっそりと終止符を打った。開発トップのマーカス・シェーファー氏によれば「今後ラインナップの主流はBEVとなっていくわけで、BEVをサブブランドとするのは道理に合わない」とのこと。したがって、来年の登場がほぼ確定しているGクラスのBEV版である「EQG」の車名はおそらく変更されるだろう。
IAAの会場では「BEV」と「中国」に関する話題が最も多く聞かれたものの、当の自動車メーカーはその2つに依存する戦略に対して疑義を抱いているように個人的には感じられた。
(文と写真=渡辺慎太郎/編集=藤沢 勝)

渡辺 慎太郎
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