ポルシェ911ターボS(4WD/7AT)【試乗記】
そこまでしなくても…… 2011.01.04 試乗記 ポルシェ911ターボS(4WD/7AT)……2434万5000円
「911ターボ」に、さらに30psのパワーを上積みし、各種高性能装備を標準搭載した「911ターボS」って、いったいどんなクルマ?
「911ターボ」の「S」化
「ポルシェ911ターボS」の全力加速を試したあと、思わず笑ってしまった。自分で運転していたのに、ちょっと気分が悪くなったからだ。
530psと71.4kgmものアウトプットをたたき出す過給機付きフラット6。3.8リッター。静止状態から100km/hに達するのに、3.3秒しかかからない。前方に吸い込まれるような加速感があまりに強烈で、生理的な恐怖感がわきあがる。「同乗者がいるときは、決してフルスロットルにするまい」と思う。
「ターボS」には、レーシングスタートに備えて、911自身が最大効率の加速を得られるように統合制御してくれる「ローンチコントロール」機能も標準で備わるが、それは知識レベルにとどめておいたほうがよさそうだ。
911ターボSは、「911ターボ」の豪華版。多くのオプション装備が標準化された。性能面では、オプションの「スポーツクロノパッケージ・ターボ」を搭載した911ターボが得られるオーバーブースト時の過給圧が、ターボSではフルスロットル時の常態となる。
911ターボSのお値段は2365万円。お買い得な価格設定だ。2000万円超でお買い得!? では、ためしに普通の911ターボをターボSにしてみよう。もちろん、実際にはターボSにはならないが、装備やスペック面で近づけることはできる。
ポルシェ911ターボ(6MT)2015万円也。
・ホイールを「19インチRSスパイダーホイール(センターロック)」に。これはバネ下の軽量化に効くはず。追加62万円。
・シートは、電動で調整でき、シートポジションはじめ、ドアミラー、ランバーサポートの設定までメモリー可能な「アダプティブスポーツシート」に。17万9000円。ターボSルックにするには、レザーは2トーンにしなければ(+6万6000円)。
・カーブでヘッドランプが動き、進行方向曲がった先を照らしてくれる「ダイナミックコーナリングライト」(+12万4000円)。
ここまでですでに98万9000円の追加料金だが、911ターボの「S」化計画、本番はこれからである。
お買い得なワケ
通常の911ターボを「S」化するのに避けられない要件。といっても、日本市場ではデフォルトに近い選択だが……。
・6段MTを、イージードライブとダイレクト感を両立した2ペダル式7段MT「PDK」に変更する。75万円。
・強力無比の「PCCB」ことポルシェ・セラミックコンポジット・ブレーキを装着。イエローのカラーリングが誇らしい。153万8000円。
・ハードコーナリング時、LSDをもつ後輪左右いずれかの内輪に軽くブレーキをかけ、回転する力を適度に増してくれるポルシェ・トルク・ベクタリング(PTV)23万2000円。
・エンジン、トランスミッション、サスペンションと連動してチューンを変え、よりスポーティな走りを可能にする「スポーツクロノパッケージ・ターボ」が80万3000円。走りの楽しみが増すほか、ダッシュボードにはストップウォッチが鎮座するから、同乗者にも「スポーツクロノ付き」をアピールしてくれる。オーナードライバーは鼻が高い。
・さらにターボSに標準装備されるクルーズコントロールを付けると7万8000円プラス。
これだけ装備を追加・変更すると、合わせて2454万円になる。2365万円の911ターボSが、いかに“お徳”かがわかるだろう。
新しいターボグレードの登場は、911のターボ車を買おうと本気で考えている人には朗報だ。しかし、裕福で幸福なクルマ好きが頭を悩ますのは、値段のことだけではない。
「997」を振り返ると
「997」こと現行「ポルシェ911」が登場したのは、2004年。モデルチェンジ最大の眼目は、不評だった涙目を伝統の丸目ヘッドランプに変えたこと。……というのは(半分)冗談だが、997が「本当の意味で」新しくなったのは、デビュー4年後にビッグマイナーチェンジを受けてからといえるだろう。
フラット6が直噴化され、水冷ユニットのさらなる環境性能と燃費向上に道筋を付けた。そして「ティプトロニック」と名付けられたトルクコンバーター式ATがついに捨てられ、ツインクラッチ式のPDKことポルシェ・ドッペルクップルングが採用された。
ターボモデルの刷新ぶりも同様で、NAカレラが3.6と3.8リッターに分かれたあとも、まずは「排気量3.6リッター+過給機」でスタート。そして大方の予想通り、直噴エンジンとPDKが導入された際に、新しい911ターボは3.8リッターとなって投入された。
こうした経緯があるから、いま、911ターボの購入を検討している人は、悩むのかもしれない。997のモデルライフもそろそろ終盤。現行ターボモデルは「S」で打ち止めか。それとも……。
まだあるオプション装備
ただ、購入車種をターボと決めているヒトはまだいい。「“スペシャル”なナインイレブンなら、NAでもいいか」などと考えようものなら、最近ではスピードスターがラインナップに加わったし、モータースポーツ専用モデルの「911 GT3 RSR」は排気量が4リッターだ。レースカーと市販モデルを関連づけるのは無茶なハナシだが、でも、そこは「ポルシェ」だから……。
ポルシェ車の自慢に、「市販車でそのままサーキットで走れる」ということがある。高いボディ剛性、良好なパワー・トゥ・レシオ、絶対的な大出力に、それに負けない強力無比なストッピングパワー。よくチューンされた足まわり……。レースコースを一般の人が借りて使う、いわゆる「走行会」に行くと、やたらと目につく車種がある。「ポルシェ911」と「日産(スカイライン)GT-R」である。実際、クローズドコースを使わないことには、両車のポテンシャルを堪能することは難しいだろう。911ターボSの場合、それでも911ターボとの違いがわかるかどうか……。
サーキット通いが趣味の911ターボオーナーにとって、興味深い新機構がある。「スポーツクロノパッケージ・ターボ」に含まれる「ダイナミック・エンジンマウント」がそれ。走行時の操舵(そうだ)角、横G、前後Gをモニタリングして、必要とあらばマウントを硬くして、エンジンとボディの一体感を増すシステムだ。そこまでしなくても……と思う反面、リアエンジン車にまつわる蘊蓄(うんちく)がまたひとつ増えたとうれしくなる。
※
余談だが、今回の試乗前、「ポルシェ911ターボSとは、つまり911ターボのフル装備版である」と勝手に理解していたが、違った。テスト車のオプションリストを見て驚いた。
・ナチュラルレザーインテリア(ブラウン):21万1000円
・フロアマット:3万2000円
・シートヒーター:7万7000円
・シートベンチレーター:20万円
・カーボン・インテリアパッケージ:17万5000円
トータルプライス2434万5000円也。ポルシェ車のオプションの豊富さには、いまさらながら、あきれるばかり。
(文=細川 進/写真=郡大二郎)

細川 進
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