「GMとのEV共同開発中止」でホンダの電動化ロードマップに暗雲? その背景を探る
2023.11.23 デイリーコラムホンダとGMの関係は意外に深い
さる2023年の10月25日、ホンダがかねて進めていたGMとの量販価格バッテリー電気自動車(BEV)の共同開発を中止したことが明らかになった。
思い返せば2020年4月、ホンダが米ゼネラルモーターズ(GM)と北米向けBEVの共同開発を合意したと発表したとき、世のクルマ好きはおおいに驚かされた。ホンダといえば、自社の独自技術に絶対の自信をもっていて、それもあってか同業他社との業務提携はあまり好まず、まして主要ハードウエアの共同開発などほとんど例がなかったからだ。
そのホンダがよりによって(?)、かつて典型的なM&A戦略で世界一の規模にもなったGMと組むとは「BEV時代の生き残り競争とは、かくも厳しいのか?」と思わせる象徴的な出来事ともいえた。
もっとも、北米が生命線であるホンダと、その北米で最大(2021年のみトヨタに首位の座をゆずったが)の自動車メーカーであるGMは、市販乗用車そのものの共同開発以外では意外に関係は深かった。たとえば燃料電池については2000年代から協力関係にあり、2017年には量産化に向けた合弁会社も設立。また、2018年にはGMとGM傘下の「GMクルーズ」との3社共同で、自動運転による無人ライドシェアサービス車両の開発にも乗り出していた。ちなみに、その量産ライドシェア車両「クルーズ・オリジン」は、先ごろ開催されたジャパンモビリティショー(JMS)で初披露されている。
また、ホンダとGMで共通プラットフォームを使う最初のBEVも「ホンダ・プロローグ」(と、その高級ブランド版である「アキュラZDX」)として、すでにカタチになっており、ともに2024年に北米で発売予定である。そういえば、このプロローグも、先ごろのJMSに(国内発売予定はないのに)もちこまれた。
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共同開発中止の理由は?
今回開発中止となったのは、プロローグ/ZDX=中大型BEVとはまた別のクルマで、2022年4月に「量販価格帯のグローバルBEVシリーズ」として共同開発が発表されていたものである。
それは先に開発されたプロローグ/ZDXと同じくGM開発の「Ultium(アルティウム)」電池を搭載しながら、車体を「CR-V」級のコンパクトサイズにおさめたものと考えられた。北米で3万ドル(約450万円)前後というガソリン車と同等レベルの価格競争力を目指し、販売は2027年の北米での発売を皮切りに、最終的にはSUV以外の車形や、世界で数百万台規模の生産も想定したものだった。
そんな量販価格帯BEVの共同開発計画は、ホンダによると「(合意発表から)1年間の検討を経て、コストと商品性の両面でメリットが小さく、ともに独自に手がけるのが合理的と判断した」との理由で、白紙撤回された。
そもそもホンダが同業他社との共同開発に乗り出したことが驚きだったが、その第1弾はプロローグ/ZDXとしてカタチになった。それに続く第2弾とされた今回は、その経験を十二分に吟味した決定だったはずなのに、発表から1年強という、具体的な開発がそれなりに進んでいてもおかしくないタイミングでストップした。ただ、ホンダのコメントにもあるように、実際にはそれ以前の検討に、時間が費やされてしまったということだ。
今回の開発中止の理由については各メディアでいろいろと報じられているが、結局のところは、ホンダとGMのクルマづくり思想のちがいに行き着くようだ。
最近のクルマづくりは、土台となるプラットフォームを可能なかぎり共用化して、それをできるだけ大量生産することで、一台あたりの開発コストや生産コスト、そして部品調達コストを低減する手法が主流だ。そのために、メーカー間の合併やグループ化、共同開発が世界的に頻発しており、ホンダとGMによる一連のBEV共同開発もそのひとつだった。
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GMはお金の話が多すぎる?
しかし、そもそもホンダはそうした共通化・共有化を好まない企業風土をもっている。たとえば、ホンダはこれまでの自社開発エンジン車でも、表向きは共通プラットフォームといいつつ、じつは各車種で意外なほど多くの専用部品を使っていたりする。
また、今年4月にホンダが発表した「2023年ビジネスアップデート」には、前出のプロローグ/ZDXとは別に、独自開発プラットフォームによる中大型BEVを2025年に北米で発売すると記されている。ホンダとしては複数のプラットフォームによってバリエーションを増やし、その結果として販売台数も稼ぐという考えなのかもしれない。しかし、最近のクルマづくりの世界的潮流としては、同じ市場に投入する似たようなクラスのBEVを、別の骨格でつくり分ける思想には違和感もある。
すでに発売が決定しているプロローグ/ZDXにしても、ホンダがGM版とはまったく異なる独自の内外装デザインを主張したために、思ったほどのコスト削減ができなかったと指摘する声もある。より大胆なコスト削減が不可欠な量販価格BEVでは、ホンダが望むようなつくり分けがさらに困難になったであろうことは想像にかたくない。
また、ホンダ関係者のものとして「GMはお金の話が多すぎる」という発言を報じるメディアもある。GMといえば、値段交渉のスペシャリストである購買部門が伝統的に強い権限をもっており、そうしたコスト管理のノウハウが同社の強みでもある。
1990年代にフォルクスワーゲン(VW)とオペル(当時は欧州GM)の間で起こった有名な産業スパイ疑惑も、もとは利益率の低さに悩むVWが、オペルの購買担当副社長だったH.I.ロペス氏をヘッドハンティングしたことがきっかけだった。
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ホンダの野心的な計画は継続
いっぽうのホンダは、良くも悪くも自由闊達(かったつ)なエンジニアリングが身上だ。これまでの取材経験からいうと、会社や上司の目を盗んででも(?)、あえて凝った設計や、高コストな専用部品をひっそり仕込むのが、ホンダならではのエンジニア魂である。われわれ末端ユーザーにとっては、そこがホンダ最大の魅力でもあるのだが、企業経営的には喜んでばかりもいられない。
実際、ホンダ四輪事業の売上高は二輪事業のそれの約4倍にものぼるのに、営業利益は数分の1しかない。この2022年度にいたっては二輪事業が4887億円の営業利益を上げたのに対して、四輪事業は大型リコールの影響もあって、11年ぶりの赤字に転落してしまった。
もちろん、今回の共同開発が中止された本当の理由は分からない。ただ、これだけ企業風土がちがっていて、しかも資本による上下関係もない共同開発は、やはり困難をきわめたということなのだろう。それにプロローグ/ZDXはあくまで北米向け限定の事業だが、量販価格BEVは北米に加えて、欧州やアジア、日本も視野に入るグローバル事業。両社には、さらにゆずれない思いがあったのかもしれない。
とはいえ、すでに動き出しているプロローグ/ZDXや燃料電池などの共同事業は継続するという。さらに、クルーズ・オリジンによる自動運転ライドシェアサービスも、2026年1月にお台場からスタートする予定であることが、数日前にあらためて発表された。
また、2030年までにBEVを年間200万台、2040年には全車をBEV(と燃料電池車)化する……というホンダの野心的な計画もそのままだ。しかし、今回の共同開発中止で、そこにいたるアプローチには、大きな変更が不可避となった。それをおぎなうのは、単独開発の加速か、クルマ開発はホンダが主導できるソニーとの協業か、あるいはまた別の同業他社との共同戦線か……。
(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業、ゼネラルモーターズ、webCG/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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