キャデラック・リリック スポーツ プロトタイプ(4WD)
電気仕掛けのアメリカンラグジュアリー 2025.03.07 試乗記 ゼネラルモーターズが満を持して日本に投入する、新世代BEV(電気自動車)の「キャデラック・リリック」。すべてがBEV専用設計で、しかも日本などのマーケットのために右ハンドルも用意……と、GMとしても気合の入った注目の一台に、いち早く試乗した。キャデラックのBEVがいよいよ日本に
アクセラレーターに軽く足を載せると、全長がギリギリ5mを切る大型SUVはスルスルと走りだし、そのまま静かに滑らかにスピードを上げていき、しかしその静粛性の高さが仇(あだ)となって気がつかないうちにとんでもない速度になっていて……。安心してください、クローズドコースですよ。
キャデラックのBEV SUVたるリリックのプレス向け試乗会が、千葉県のサーキット、袖ケ浦フォレストレースウェイで開催された。前後モーターのアウトプットを合わせたトータル出力は522PS、スタンディング状態からわずか5.5秒で100km/hに達するというスポーツカー顔負けの動力性能を存分に堪能してください。というわけではなく、日本で正式に発売する前のクルマのため、一般公道ではなくサーキットが試乗場所に選ばれたのだ。
本国アメリカでは2020年に発表(参照)。翌2021年から市販車の受注が始まった(参照)キャデラック・リリック。同ブランド初の量産電気自動車として、既存車種のプラットフォームを利用するのではなく、バッテリーをフロアに敷き詰めたBEV専用の新しいアーキテクチャー(当時は「アルティウム」と呼ばれていた)をベースに開発されたことが話題となった。バッテリーの効率的な配置はもちろん、搭載するモジュールの自由度が高く、高剛性、低重心にして、モーター搭載位置を前後から選ぶ、または前後両方に置くことによって、車種によって駆動方式を最適化できるのも強みとなる。
北米では後輪駆動と4WDが用意されるリリックだが、日本には前後2つのモーターを備える後者のみが輸入される。フロントモーターの最高出力は231PS(170kW)、最大トルク309N・m、リアのそれらは328PS(241kW)と315N・m、システム全体では522PS(384kW)と610N・mとされる。ガソリンSUVの中堅モデル「キャデラックXT5」では、3.6リッターV6エンジンで最高出力314PS、最大トルク368N・mだから、EVリリックのマッチョぶりがうかがえよう。ただしリリックのウェイトは2650kgと、いささか重量級だが。
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ライバルは「メルセデス・ベンツEQE SUV」「BMW iX」
2025年5月に発売予定の日本向けリリックは、なんと右ハンドル!(参照) 95.7kWhの大容量バッテリーを積み、510kmの航続距離を豪語する。もちろんCHAdeMO方式の急速充電に対応し、「日本に存在する95%以上の急速充電器で互換性を確認」と、マッチングのよさに自信を示す。ゼネラルモーターズは、極東の地でもリリックが「アメリカンラグジュアリーEVの新たなスタンダードを確立」すると期待する。
日本市場でのキャデラックSUVのラインナップを復習しておくと、トップモデルの「エスカレード」、3列シートの「XT6」、その姉妹車といえる2列シートのXT5、そしてコンパクトな「XT4」が用意される。言うまでもなくいずれも内燃機関車だが、太平洋の向こう側ではBEV SUVのヒエラルキーが急速に整備されていて、「エスカレードIQ」「ビスティック」「リリック」「オプティック」が、それぞれのカウンターパートナーとなる。なかでもデビューが最も早かったリリックは、電動キャディの先兵というわけだ。
キャデラック・リリックの全長×全幅=4995×1985mmというフットプリントは、「日産アリア」がスッポリ入る大きさ。キャビンを大きくとるのに有効な3085mmという長いホイールベースは、BEV専用フロアの恩恵だ。
フロントフェイスには、内燃機関車のグリルに代わる「ブラッククリスタルシールド」が採用され、薄いLEDランプの多用と併せて未来的な雰囲気を醸し出す。日本ではまだ見慣れないこともあって、街なかで黒塗りのリリックがヌッと出てきたら、相当押し出しが利くだろう。直接のライバルは、「メルセデス・ベンツEQE SUV」「BMW iX」といったあたり。
キャデラック得意のラグジュアリーな室内はBEVモデルでも踏襲され、ゆったりリラックスできる空間が演出される。33インチの横に長い大きなディスプレイが、無理なくコンサバティブな室内に溶け込んでいる。体へのあたりがソフトなシートの表皮は、試乗車に採用されていたレザーのほうがオプション扱いで、通常は「インタラックス」ことアニマルフリーの生地となる。意識高い系の同乗者には、ウッド調パネルやアクセントファブリックも100%リサイクル素材からなることを伝えると喜ばれるかもしれない。
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BEV時代のキャデラックの走り
BEVキャデラックの快適性は走行時に増幅され、それは冒頭でも触れた高い静粛性が担保する。吸音、制振材のぜいたくな使用に始まって、遮音性の高い2重ガラスや強化ガラスが使われ、ドア付近には3重のシーリングが施される。動力系が静かなBEVはともするとタイヤノイズが耳につきがちだが、リリックにはロードノイズ低減を狙った専用タイヤがおごられ、さらに目玉装備として、アクティブなノイズキャンセレーションシステムまで搭載される。当然、オーディオ類も一級ということだが、無粋なリポーター(←ワタシです)は、試乗中に音楽を聴くことに思いが至りませんでした。
電動キャディのドライブフィールは、まさにプレミアムBEVのそれ。一定の航続距離を確保するために詰め込んだ大量のバッテリーに起因する重いボディーを、いきなり大トルクを発生する強力なモーターでグイグイと運んでいく。ズッシリと重い物体を足先一つで自在に動かす感覚は、ジャーマン御三家ほかの高級BEVと共通する。
足まわりは、かつての“アメ車”のイメージとは隔絶した全体に締まったもので、2.5t超えの車重をしっかり支え、タイトなカーブでも腰砕けを起こさない。いきなりアゴを出すブレーキはあまり未来的ではないけれど、21インチの広く大きなラバーが路面をつかんで離さないさまは圧巻だ。日本に導入されるリリックのグレードは「SPORT(スポーツ)」オンリーで、その名に恥じないシュアなハンドリングを見せる。平滑な舗装のレースコースを走った限り、最新キャデラックのオーナーも「これが新世代の走りだね」と納得するはずだ。
さて、2019年にGMのプレジデントに就任したマーク・ロイス氏が旗印にしてきたのが、自動車の電動化。2021年にはGMの企業ロゴを電動化をイメージさせるエレクトロニックなデザインに変更するほど気合が入っている。
現在、シボレー、GMC、キャデラックの3ブランドから電気自動車がリリースされ、GMは、テスラに続くBEV販売台数第2位の座をフォードと争っている。直近の北米におけるGMのBEVシェアは、およそ12%(2024年第4四半期)。この先、BEVがどのように成長するのか、はたまた停滞するのかはわからないが、キャデラックがターゲットにするような富裕層は、名誉ある人柱として相応の義務を果たす必要がある。
(文=青木禎之/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
キャデラック・リリック スポーツ プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1985×1640mm
ホイールベース:3085mm
車重:2650kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:231PS(170kW)
フロントモーター最大トルク:309N・m(31.5kgf・m)
リアモーター最高出力:328PS(241kW)
リアモーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)
システム最高出力:522PS(384kW)
システム最大トルク:610N・m(62.2kgf・m)
タイヤ:(前)275/45R21 107V/(後)275/45R21 107V(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)
一充電走行距離:510km(WLTPモード、GM社内測定値)
交流電力量消費率:161Wh/km
価格:1100万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--
テスト開始時の走行距離:1178km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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