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【スペック】1.3G:全長×全幅×全高=3995×1695×1585mm/ホイールベース=2550mm/車重=1090kg/駆動方式=FF/1.3リッター直4DOHC16バルブ(95ps/6000rpm、12.3kgm/4000rpm)/価格=158万円(テスト車=185万9300円/マルチリフレクターヘッドランプ ディスチャージ=4万7250円/運転席・助手席SRSサイドエアバッグ&全席SRSカーテンシールドエアバッグ=4万2000円/HDDシンプルナビゲーションシステム+バックモニター=19万50円)

トヨタ・ラクティス1.5S(FF/CVT)/1.3G(FF/CVT)【試乗記】

「ほどほど」の時代の、「ほどほど」なクルマ 2010.12.16 試乗記 鈴木 真人 トヨタ・ラクティス1.5S(FF/CVT)/1.3G(FF/CVT)
……210万6300円/185万9300円

トヨタのコンパクトワゴン「ラクティス」がフルモデルチェンジ。スポーティさを捨て、室内スペースや使いやすさに磨きをかけた新型の一番のウリは?

5年前はスポーティ、今度は家族

5年ほど前、毎月テーマを決めてクルマを乗り比べる「webCGセレクション」という連載企画があった。「スポーツカー」「SUV」「初めてのクルマ」等々テーマは多彩で、2006年2月は大人気だった発売直後の初代「ラクティス」を取りあげた。比較対象として「スズキ・スイフトスポーツ」、「MINIクーパーS」、「フォルクスワーゲン・ポロGTI」と元気玉ばかりをズラリと並べ、タイトルは「ホットハッチなんて要らないでしょ?」と挑発。著者の島下さんにはムチャ振りをしてしまったものだ。すみません。

こんな企画をたてたのは理由があって、ラクティスは当時スポーティさが強調されていたのだ。実質的な前身である「ファンカーゴ」が荷物グルマ然としていたのに対し、パドル付きCVTの採用などで「走りへのこだわり」をアピールしたのである。今では誰も覚えていないが、車名の由来は「Runner with Activity and Space」だった。スペースより前に、ランとアクティブがある。

しかし、今回のモデルチェンジでは、「走り」はそれほど強調されていないようだ。新垣結衣のテレビCMなんて、そもそも走っている姿が出てこない。代わりのキーワードは、「ファミリー」らしい。ガッキーは「家族でコンパクトカー。これって、アリ?」と今ドキな若夫婦に問いかける。答えはもちろん、「アリ」なわけだ。ファミリーにはミニバンという図式を、ダウンサイジングしてコンパクトカーに代替させる明確な意図がある。

たぶん、これには二つの理由があるのだと思う。一つは、ことさらに言いたくないが、昨今の経済状況の反映だ。ミニバンに200万円も300万円も費やすより、もっと切実な使い道が頭に浮かぶ。「ラクティス」なら、144万5000円から買えるのだ。もう一つは、ミニバンに取って代われるほどの実力を、ラクティスが身につけたということなんだろう。ちなみにCMに登場するのは両親に子供が一人の家族で、これが標準ならコンパクトカーで十分という見立てだ。

「1.5S」のインテリア。シートやステアリングホイールにオレンジのステッチが施され、スポーティな印象に。専用メーターやパドルシフトが備わるのも他グレードとの違い。
「1.5S」のインテリア。シートやステアリングホイールにオレンジのステッチが施され、スポーティな印象に。専用メーターやパドルシフトが備わるのも他グレードとの違い。
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「1.3G」のシート。
「1.3G」のシート。 拡大
「1.5S」にはサイドマッドガード、マフラーカッターが専用装備される。
「1.5S」にはサイドマッドガード、マフラーカッターが専用装備される。 拡大
トヨタ ラクティス の中古車

走りより、快適な内装

評判が良かっただけにスタイリングは前モデルを受け継いでいるが、「スズキ・スイフト」のように見分けがつかないほどのそっくりさんではない。いろいろなところが角張って、全体に男っぽくなった印象。ランプ類のとんがり具合は、このところの流行にのっとっている。
試乗会場へ移動する途中で何台もの旧型を見かけたが、それと比べると車高の低さは一目瞭然だ。トールワゴン感は薄れている。55ミリ低くしたということで、それでも車内のスペースは減らさないというのが絶対の課題だから、開発者は大変だ。

このクラスでも、上級モデルにはもうエンジンスタートのための鍵穴はなく、ボタンを押して始動する。スポーティを売りにする「S」は1.5リッターのみの設定で、7段マニュアルモードをパドルで操ることができる。思えば、初代登場の頃はまだパドル付きのCVTが目新しかったので走りのイメージを打ち出すことができたのだ。乗り始めはむやみにシフトダウンしたりして遊んでみるが、しばらくするとよくできたCVTのプログラムにまかせるようになる。

1.3リッターの「G」に乗り換えると、やはり少々力不足に感じる。フルスロットルでの加速時は、エンジン音が結構うるさい。ただ、どちらにしても「走り」が売り物になっている気配はなかった。家族のために特化されたクルマにとって、その優先順位はあまり高くはない。
運転席に座っていると、過不足なくきれいに仕立てられた内装に包まれ、快適さに身をまかせる気分の割合が増していく。誰からも文句の出ない緻密(ちみつ)で隙のない作り込みの安心感には、素直に感心する。特にオシャレバージョンの「L'épice(レピス)」のインテリアは、明るい雰囲気に好感を持てた。

荷室を拡大した余波で室内長はわずかながら減少しているというが、リアシートに座ってもまったくそれは感じない。足の前も頭の上もゆとりがあるし、シートの座面長も十分だ。ただし、乗り心地に関しては、少々不満があった。悪い路面では、ゴツゴツとした突き上げを感じる。

おしゃれ仕様の「L'épice(レピス)」。フロントバンパーとグリルが専用デザインとなる。
おしゃれ仕様の「L'épice(レピス)」。フロントバンパーとグリルが専用デザインとなる。 拡大
「L'épice(レピス)」の内装は、ライトブルー&ブラックのインテリアカラーが標準。なお、ブラックも選択可能。
「L'épice(レピス)」の内装は、ライトブルー&ブラックのインテリアカラーが標準。なお、ブラックも選択可能。 拡大
FF車のリアシートは、座面が沈み込みながら背面が倒れるチルトダウン式で、荷室側からシートを倒すことができる遠隔可倒レバーが備わる。4WD車は、ダブルフォールディングタイプで、遠隔レバーは装備されない。
FF車のリアシートは、座面が沈み込みながら背面が倒れるチルトダウン式で、荷室側からシートを倒すことができる遠隔可倒レバーが備わる。4WD車は、ダブルフォールディングタイプで、遠隔レバーは装備されない。 拡大
「S」と「G」グレードに標準装備される「アジャスタブルデッキボード」は、簡単な操作でフロアを120mm下げることができる。
写真をクリックすると、フロアボードのアレンジが見られます。
トヨタ・ラクティス1.5S(FF/CVT)/1.3G(FF/CVT)【短評】

魔法のように床が低くなる

「荷室を拡大した余波」と書いたが、要するにそれがユーザーの一番の関心だったということだ。コンパクトなサイズでラゲッジスペースは限りなく広く、という無理難題が技術者に突きつけられる。さすがに新たに開拓する余地はないんじゃないかと思っても、ちゃんと探し出してくるのが日本のエンジニアの偉さだ。
今回のサプライズは、荷室の床をワンタッチで落とし込む機構。力もいらず魔法のように床が低くなる。1.2メートルまでの高さのものが載せられるそうだ。リアシートを6:4分割で収納するのも、レバー操作で楽ちんに行う。IKEAに家具を買いにいく時ぐらいしか使わないかもしれないけれど、あれば便利な仕組みなのは間違いない。

FF車には、荷室側からも簡単にリアシートを倒せるレバーが新しく採用された。
写真をクリックするとシートが倒れるさまが見られます。
トヨタ・ラクティス1.5S(FF/CVT)/1.3G(FF/CVT)【短評】

「子どもの誕生日に有給とっちゃう」
「ブランド物より手ごろで似合う服」

そんなライフスタイルにぴったりのクルマを目指したのが「ラクティス」。ガッキーに言われれば、納得だ。燃費だって悪くないし、賢い消費者の選択としては、文句のつけようがない。経済成長を後押しするのはある種狂気のような欲望の解放だから、不況対応型の製品であることは否定できない。でも、それはまた別の話。日本は、偉そうなセダンや押し出しの利いたSUVをもてはやす社会より、一歩先の文明段階に突入したのだ。それを誇りに思うしかないし、そうするべきなんだと思う。

【スペック】1.5S:全長×全幅×全高=3995×1695×1585mm/ホイールベース=2550mm/車重=1110kg/駆動方式=FF/1.5リッター直4DOHC16バルブ(109ps/6000rpm、14.1kgm/4400rpm)/価格=178万5000円(テスト車=210万6300円/175/60R16タイヤ&5.5Jアルミホイール=5万7750円/マルチリフレクターヘッドランプ ディスチャージ=4万7250円/運転席・助手席SRSサイドエアバッグ&全席SRSカーテンシールドエアバッグ=4万2000円/HDDシンプルナビゲーションシステム+バックモニター=19万50円)
トヨタ・ラクティス1.5S(FF/CVT)/1.3G(FF/CVT)【短評】

ラクティスは、「ヴィッツ」では狭いと感じる人たちを「ホンダ・フィット」に持っていかれないために、全力で取り組んだ結果の良心的な作である。今ドキの若夫婦には、豊富な選択肢が用意されているのだ。3列シートが欲しければ、「ホンダ・フリード」だってある。「ほどほど」を望むなら、いい時代になった。

(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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