第274回:報われない善行
2023.12.25 カーマニア人間国宝への道またしても惜しいぞマツダ
待望のロータリー復活! 「マツダMX-30ロータリーEV」発売! うおおおおお!
実車を目の前にし、走らせてみると、その感動は想像の300倍だった。
私も多くのカーマニア同様、「発電機の動力源? そんなの意味ねーじゃん!」と思っていたが、現実は違った。そこには確かにロータリーエンジンが積まれているのだ。絶滅危惧種、いやすでに絶滅した種が、遺伝子工学で復活したのだ。よくぞ! という感動がこみ上げる。観音開きのへんちょこりんなデザインもあんまり気にならない。ロータリーさえ積まれていれば善し! これまで特にロータリーファンじゃなかったけど、大ファンになりました!
でも、このクルマ、欲しいか?
欲しくない……。だって観音開きのへんちょこりんなSUVだし、自宅に普通充電器も付けてないし、バッテリーを使い切った状態だと、燃費はせいぜい10km/リッター強。ハンドリングは驚くほどよかったけど、ロータリーサウンドは低く静かで、どちらかといえば止まってるときのほうが好きだった。
私は1年ほど前、マツダが大切に動態保存している「RX-8」に試乗させてもらったが、あのフェラーリ的な高回転域でのさく裂、「ピイィィィィィ~ン」というわが身を削るようなサウンドに、あらためて感動した。あれとはあまりにも違う! 違いすぎるので比較しようとも思わないのは幸いだが、欲しいかといわれればやっぱり欲しくない。またしても「惜しい! マツダ」。
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マツダは常に善なのだ
マツダというメーカーは、常にカーマニアの心を打つ。なぜなら、報われない努力を繰り返しているからだ。
人が努力して報われる。すばらしいことだ。でも、人が報われる姿を見ると、どうしても嫉妬心が湧いてしまう。
その点、報われない努力は、外野にとっては全面的な善。努力=善、報われない=善。自動車メーカーが報われるというのはつまり、広く大衆に受け入れられるということであり、それはカーマニア的には悪。マツダは常に善なのだ!
そして今回もまた、全力で善行を働いてくれた。目頭が熱くなる。
近年のマツダの主な善行を列挙してみよう。
善行その1:「マツダ・ロードスター990S」
ボディーの軽さと、低い速度域でも楽しめる操縦性を兼ね備えた、完璧なる善。しかも6段MTのみ。嗚咽(おえつ)しか出ない。カーマニア限定で熱狂的に受け入れられた。涙。
善行その2:「マツダCX-60」の直6ディーゼル
いまどき直6を復活させるなんて、人命救助レベルの善行だ。それでいてCX-60は2023年(1月~10月)、マツダ車の国内販売台数トップ(2万2305台)となり、 人気モデル「CX-5」の台数をわずかに上回った! スゲエ! 思った以上に広くカーマニアに受け入れられている! でもトヨタ車みたいに、大衆には受け入れられていない。最高の結果じゃん!
善行その3:「スカイアクティブX」
ガソリン圧縮着火というエンジニアの夢を実現したが、そこに全力を注いだためコストが上昇。その割にメリットは小さく、徹頭徹尾「報われない努力」に終わった。
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カーマニア的には善の三乗
今回のロータリー復活を、これら近年のマツダの善行と比較すると、「その3」のスカイアクティブXに近い気がする。
マツダはロータリー復活に全力を注いだ。もはやそれが目的になり、メリットを度外視した。結果、ロータリーは立派に復活したけれど、カーマニアでもなかなか手が出ない、ハードルの高い商品になった。
元来のロータリーファンは、まず買い替えない。むしろこのクルマが出たことで、「RX-7」やRX-8はより大切にされ、「ほとんど乗らない」といった消極的な方向で延命が図られるだろう。
じゃ、ジャパンモビリティショー2023に出展された2ローターロータリーEVシステム搭載のスポーツカー「アイコニックSP」、あれが市販化されたらどうなのか!? カーマニアは争って買うのか!?
う~~~~ん。
「あの美しいカタチだけでいい」「あれが走ればなんでもいい」という思いに突き動かされるカーマニアは、MX-30ロータリーEVを買う者の100倍いそうな気がする。たぶん2ローターロータリーEVに、現実的なメリットはそれほどないと思うけど、あの超絶美ボディー×2ローターロータリーなら、神が宿る感はハンパなくなる。それでいて、そんなには売れない。カーマニア的には善の三乗だ。
じゃ自分は買うのか?
アイコニックSPのデザインは、クラシックフェラーリの世界。私が持ってる「フェラーリ328」はネオクラシックなので、完全にバッティングするわけではないが……。
RX-7オーナーは、アイコニックSPを増車することはあっても、やっぱり買い替えはしないだろう。同じように自分も、328からアイコニックSPに買い替えることはなく、無念ながら増車の余裕もない。土下座。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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