第841回:イタリアとフランスでダイハツ問題はこう報道されていた
2024.01.11 マッキナ あらモーダ!タイトルは「ダイハツ・スキャンダル」
ダイハツ工業による認証試験不正問題(参照)は、2023年12月に日本で大きく報じられた。ではイタリアやフランスのメディア電子版では、どう報じられていたか? というのが今回の話題である。
予備知識として記しておくが、ダイハツは2013年1月末をもって欧州市場から撤退している。当時の円高ユーロ安、年々強化される欧州排出ガス基準に適合させるためのコスト増が、主な原因だった。国際事業をアジアに注力する同社の方針とも合致していた。
今回のダイハツの不正問題に関して、第三者委員会による調査結果が発表されたのは2023年12月20日。それをイタリアでいち早く報じたのは、自動車誌『クアトロルオーテ』だった。ロゴ入り看板とともに「ゆがめられた安全テスト:メーカーはすべての出荷を停止」の大見出しを載せ、報道資料に沿って説明している。
いっぽう、一般紙は発表の数日後から活発な報道を開始した。最も詳説した一紙は『コリエッレ・デッラ・セーラ』の2023年12月27日版である。「ダイハツ・スキャンダル」の見出しとともに、マレーシアでの合弁車「プロドゥア・アジア」の、アジアNCAP衝突試験における写真を掲載。発表当日に親会社トヨタ自動車の東証株価が最大で5.6%下落したことにも触れ、「財政的影響は時間経過とともにはるかに大きくなる可能性があるため、謝罪は明らかに十分ではなかった」と記している。
なお、同紙は「欧州で販売された車両には、まったく問題はない」と報じている。また部品供給事業を継承している民間企業「ダイハツ・パーツ・サービシーズ(DPS)」も、筆者の質問に「イタリアに輸入された車両に関して、ダイハツ本社からの報告はありません」との回答を寄せた。ただし、メーカーの公式発表を見ると、不正の対象には過去の欧州販売車種も含まれている。本社(池田)工場で製造された「クオーレ」(1999年10月~2002年11月)と、トヨタ高岡工場で製造された「トヨタiQ」(2008年12月~2015年12月)だ。
企業の存続さえ不安視
フランスの一般紙では、2023年12月21日に『ル・モンド』が、ダイハツ奥平社長が頭を下げる写真とともに報じている。執筆にあたっているのは、経済コラムニストのフィリップ・エスカンド氏で、見出しは「ダイハツは自動車業界で最大のスキャンダルのひとつの張本人」だ。
記事は、日本では公衆の面前でいかに深く頭を下げるかが、いかに恥を感じているかの証しであるとの説明から始めている。ただ、記事内には奥平社長が発したとは思えない言葉も含まれていることからして、それは書き出しのインパクトを狙ったものであろう。そのうえで今回のダイハツの不正は、「欧州でディーゼルエンジンを殺す原因となったフォルクスワーゲンの排出ガス不正、いわゆる“ディーゼルゲート事件”に匹敵するもの」と定義している。
自動車メディアでは、『ロト・ピュルス』がいち早く20日に報じている。写真はインドネシア工場製の「アイラ」だ。こちらの記述には早くも、企業としてのダイハツの存続まで不安視する内容が見られた。
別の自動車メディアの『ロト・ジュルナル』も、27日付でこの事件を取り上げ、タイトルにはこちらも「ダイハツ・スキャンダル」というフレーズを用いている。掲載写真12点は、自社アーカイブから集めたと思われる世界各地で撮影されたダイハツ車および販売店だ。「自動車メーカーのダイハツは大きなスキャンダルの中心にいる。ブランドは安全試験における不正行為で非難されている……1989年以来の!」と、感嘆符付きで記している。
ボディーブローのように効いてくる恐れ
いっぽう、世間一般に関していえば、イタリアやフランスで報じられてからも、関心をもってこの問題を追う人は、ほぼいないといっていい。そもそも前述の記事にしても、いずれも探さなければ目に触れないレベルの取り扱いだ。イタリアの一般紙に関していえば、ファッション・インフルエンサーのキアラ・フェラーニ氏がチャリティー販売した菓子の収益が、公にしていた医療機関へ適切に渡っていなかった醜聞報道のほうが大きかったといえる。
ダイハツに近い人物の間でもそれは同じだ。当連載の第675回に登場した「ダイハツ・テリオス・クラブ・イタリア」の役員ジョルジョ・デ・マルコ氏は、筆者の質問に「フォルクスワーゲン問題のあとでは、もうなにも驚かない」と返答した。元トヨタ車およびダイハツ車のイタリア人営業担当セールスパーソンに至っては、筆者が知らせるまで事件を知らなかった。そして、その2名とも「今回の事件によって、日本ブランドの信頼が傷つくことはない」と語っている。
ただし、気をつけなければならないことがある。一国の製品の印象悪化は、真綿で首を締めるように、もしくはボディーブローのように効いてくるということだ。それは過去のアメリカを見ればわかる。1950年代まで、米国製品といえば高品質の代名詞だった。城山三郎氏による1984年の対談集『午前8時の男たち』で、ソニーの創業者 盛田昭夫氏の回想として「某企業が大分県宇佐市にかけて、米国製品と間違えてもらえるように“Made in Usa”と記していた」という談話が登場することでもわかる。その米国製品も、1970年代になって品質が凋落(ちょうらく)し、いちじるしく信頼を失っていった。
三菱、タカタ、スバル、日産、マツダ、スズキ、日野、デンソー、そして今回のダイハツ……過去の二十数年で相次いだ日系自動車メーカーとサプライヤーの不祥事が、将来、日本にアメリカと同じ轍(てつ)を踏ませないとも限らない。
イタリア企業を支えたダイハツ
今後、ダイハツの不正検査問題がどういう結末に至るかは、関係省庁やトヨタの采配、裁判を起こされた場合は司法の判断などを見守るよりほかにない。いっぽうで、イタリア在住の筆者が伝えられるのは、イタリアにおけるダイハツには日本ではあまり知られていない別の顔があるということだ。
1981年12月に1000ccエンジン等の供給で調印したことも含め、インノチェンティ社との関係についてはすでに多くのメディアが解説しているので割愛するが、例えばベルトーネの「フリークライマー」は、ダイハツのオフロードカーにBMW製のエンジンを搭載したものだ。1989年に登場した第1世代は「ロッキー」に6気筒、1992年登場の第2世代は「フェローザ」をベースに4気筒を載せていた。
1990年12月には、ピアッジオ社と合弁契約に調印。その結果誕生した「ポーター」は、7代目「ダイハツ・ハイゼット」をもとにピサ県のポンテデラで生産されたものである。当時のイタリア国内市場において、歴史的旧市街の狭い街路で十分な機動性を発揮できる商用車は、「スズキ・キャリイ」をベースに英国で製造されていた「ベドフォード/ヴォクスホール・ラスカル」を除いて事実上なかったため、ポーターは多くのユーザーから歓迎された。さらに2004年に追加された「クアルゴ」は、18PSのディーゼルエンジンを搭載していたために16歳から運転できた。
2021年に中国・福田汽車製のバン/トラックをベースにしたモデルに切り替わった後も、ハイゼットをベースとした時代の車両は、配達車、ゴミ収集車、さらには救急車として現役で使用されている。私たちにとって、ダイハツはいまだに身近な存在なのだ。
いっぽう、メーカー側の観点からすれば、フリークライマーはそれまでベルトーネの生産部門になかった小型オフロード車のノウハウをもたらしたばかりか、第1世代はイタリアの軍警察(カラビニエリ)にも納入され、同社に官公庁向けの需要を生み出した。ポーターも、それまで三輪トラック中心だったピアッジオの商用車部門が拡大するのに大きく貢献した。すなわち、いずれもイタリア企業の稼ぎ手となったのである。それだけに、昨今のダイハツの報道に接するたび、筆者の心境は複雑になるのだ。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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