レクサスLC500“EDGE”(FR/10AT)
長く乗りたい一生モノ 2024.01.23 試乗記 たゆまぬ年次改良によって商品力強化の手を緩めないレクサス。それはどのモデルでも変わらないが、「LC」の場合はいよいよ「完成」の時が近そうだ。特別仕様車“EDGE”はすでに完売御礼ではあるものの、初期型のオーナーにもそのエッセンスを味わえる仕組みが用意されている。200万円で走りが進化する
発売から間もなく7年を迎えるレクサスLC。2012年のデトロイトショーで発表されたコンセプトカー「LF-LC」のデザインをいかに忠実に投影するかに腐心したというそのたたずまいは、今も鮮度を保ち続けているように見える。もちろん主因は目撃頻度の少なさにあるだろうが、長さ的にも幅的にも均整のとれたFRクーペとしての普遍性が、魅力の維持につながっているのではないだろうか。
と、そんなLC向けに「パフォーマンスアップグレードパッケージ」なるメニューをKINTO FACTORYが用意しているのをご存じだろうか。2017年1月生産分、つまりごくごく初期のモデルにも対応するそれは、リアのアルミ製中空サスペンションメンバー、フロント&リアのサスシステム、カナード一体型フロントバンパーの3アイテムで構成される。施工は50台限定で価格は200万円。「コンバーチブル」や一部特別仕様車には非対応であったり、車両の事前検査が必要であったりと、諸条件があるので興味のある方はオフィシャルウェブサイトをご確認いただきたいが、「N-BOX」も余裕で買えそうなその額を投じる意味はあるのかといぶかしがる向きもいらっしゃることだろう。
このパフォーマンスアップグレードパッケージのネタ元ともいえるのが、2023年半ばの年次改良に合わせて投入された特別仕様車“EDGE”だ。LC500をベースにエンジン部品の質量公差を低減したほか、フロント床面にはコンバーチブルで採用したブレースを追加。手作業でバックラッシュを整えたリアデフなども装備する。リアエンドには2020年発売の特別仕様車“AVIATION”で採用された固定翼を装着するなどしているが、足まわりにまつわる仕様やカナード一体型バンパーなどはパフォーマンスアップグレードパッケージに準じている。ちなみに“EDGE”は60台の限定数がすでに完売。レクサスの開発部門が所有する貴重な一台を借り出してみた。
インフォテインメントやADASも最新仕様に
レクサスといえば銘柄を問わず、購入の機を惑わせるほどの年次改良が常に加えられている印象だが、LCも例外ではない。この“EDGE”の発売と同じタイミングで標準モデルにも加えられたアップデートは、足まわり関係だけでも通算4回目となる。リアサスメンバーの素材はスチールだが、取り付け部に補強を加えたほか、ホイール締結のハブボルト化やラジアルタイヤの標準化などが実施された。“EDGE”はさらにくだんの専用メニューを加えた仕立てとなるわけだ。
乗り込んでみると基本意匠に変更はないようにうかがえるが、前述の年次改良ではインフォテインメントシステムが12.3インチのタッチパネル式となり、最新の車載OSに対応するなどデジタル環境に進化の跡がみてとれる。同様にADAS系も最新世代へと更新され、プリクラッシュセーフティーやレーントレーシングアシスト等も機能向上を果たした。
LC500が搭載する2UR-GSEは、「IS F」への搭載を前提に開発されて以降、レクサス専用ユニットとしてハイパフォーマンスモデルに搭載されてきた。LCの開発を指揮したのは現在トヨタを率いる佐藤恒治社長だが、そのチーフエンジニア時代にうかがった話では、ビジネス的なライバルを当時の「BMW 6シリーズ」に想定しながらも、さまざまな比較検討を重ねるなかでとても印象に残っているのは「マセラティ・グラントゥーリズモ」とのことだった。
特別仕立ての5リッターV8エンジン
2007年の登場以来、大型クーペのカテゴリーで一定の存在感を放ち続けてきたグラントゥーリズモの魅力の源泉はフェラーリが設計と製造を担ったティーポF136系V8ユニットだ。当然フェラーリのミドシップにも用いられたものだが、グラントゥーリズモは前置きならではの長い排気管長を生かした音番長ぶりが際立っていた。が、ハイパフォーマンスユニットのダウンサイジング+過給器化は他のライバルも含めて欧州勢の既定路線となり、見渡してみれば大排気量+マルチシリンダー+自然吸気というパワートレインは、もはやレクサス以外は一部のアメ車か一部の12気筒くらいではないかという様相だ。
そんな5リッターV8を基に、フリクション低減やバランスどりのためにさらなる手を加えたという“EDGE”のユニットは、なるほど発進から芯を食ったように回転がスッキリとしているし、高回転域に向かうその摺動感も軽やかだ。日常的に2UR-GSEに乗りつけているわけではなくても、過去の経験に照らせばその違いははっきりと伝わってくる。
爆発の粒立ちがきめ細かく、放たれるメカニカルサウンドの透明度も高い。そう感じるのはおそらくエンジンの違いだけによるものではない。シャシー側の動きにも濁りがないからだろう。“EDGE”にはフロントブレースも加えられるが、リアに採用したアルミ鋳造の中空サスメンバーはベース車に対して剛性が約2倍に強化されている。それをソリッドマウントするためにモノコック側の結合部も改良したわけだが、この強化はベース車にも織り込み済みだ。加えてエンジンマウントの硬度も変更するなど、前後の振動特性も最適化されている。
リフレッシュして乗り続ける価値がある
ボディー側の減衰に合わせて足まわりをリセッティングしたこと、そしてバネ下締結をハブボルト化したことなど、事細かなチューニングもあって、LCのシャシーの解像度は当初とは別物といえるほどクリアになった。さらにさかのぼれば7年近くの間、ネチネチと改良を重ねてきた、その大団円がいよいよ近づきつつあるのではないか。そう感じさせるほど“EDGE”の完成度は高い。
それゆえ、既納車のLCにくだんのパフォーマンスアップグレードパッケージを加えたところで、“EDGE”同様の乗り味になると考えるのは早計だ。車体の年式によってもその味わいは微妙に変わることになるだろう。一方で、初期モデルが間もなく3回目の車検となり、足まわりのヘタリも気になってくるタイミングということであれば、リフレッシュを兼ねてこのパッケージを活用するという考え方もあるだろう。価値ある自然吸気ユニットを積むクーペとして、もはや孤高の存在となったLCには、その予算の投じがいがある。
内燃機時代のクルマを持つ喜びや走らせる喜びを、速さの側ではなく気持ちよさの側から慈しめる。LCはその粘り強いエンジニアリングでもって、結果的にグラントゥーリズモに比肩するほどの官能性を身につけることになった。クルマ好きにとっての一生モノとして、今一度見直してみるのも悪くないと思う。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
レクサスLC500“EDGE”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1920×1345mm
ホイールベース:2870mm
車重:1930kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:10段AT
最高出力:477PS(351kW)/7100rpm
最大トルク:540N・m(55.1kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)245/40R21 96Y/(後)275/35R21 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
燃費:--km/リッター
価格:1760万円/テスト車=1760万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2804km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:358.4km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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