レクサスLC500h“Sパッケージ”(FR/CVT)
理想まであと一歩 2022.05.07 試乗記 足まわりやハイブリッド制御などに改良が加えられたレクサスのフラッグシップクーペ「LC500h“Sパッケージ”」に試乗。5リッターV8自然吸気エンジンを搭載する「LC500」とのちがいを含め、磨き込まれた最新モデルの走りをリポートする。深化した売れ筋モデル
LCといえば、先日試乗記をお送りしたLC500のほうが、クルマオタク的な注目度は高いかもしれない。LC500の心臓部となる大排気量5リッターV8自然吸気エンジンは今や世界的にも貴重な存在だからである。
しかし、国内で実際の売れ筋となっているのは、やはり3.5リッターV6ハイブリッドのLC500hである。その車名からも分かるように、性能的にはV8と同等というポジショニングであるうえに、レクサス=トヨタは、なにはなくとも安心の元祖ハイブリッドブランドであり、静粛性や経済性とのバランスもハイブリッドに軍配が上がるからだ。
というわけで、今回は最新のLC500hを試乗に連れ出すことにしたのだが、前回試乗したLC500が標準モデルだったのに対して、今回の試乗車は“Sパッケージ”であることにも注目である。LCのクーペではどちらのパワートレインにも、標準モデルのほか“Lパッケージ”と“Sパッケージ”という、計3グレードが設定されている。このうち“Lパッケージ”はガラスパノラマルーフや専用セミアニリン本革シート、21インチタイヤが標準化される豪華版だが、走り方面のメカニズムにおいては標準モデルとの差はほぼない。
対して“Sパッケージ”は走り方面の専用装備が多い。タイヤは“Lパッケージ”と同じ21インチだが、そこに自慢の「LDH」と、車速25km/hで自動展開する「アクティブリアウイング」といった専用装備が組み合わされる。それに加えて「トルセンLSD」や高摩擦ブレーキパッドも標準装備となるのだ。
ちなみに、ここでいうLDHとは某国民的ダンスボーカルユニットを抱える芸能事務所のことではなく、「レクサスダイナミックハンドリング」の略称だ。標準の連続可変ダンパーに加えて、後輪操舵やギア比可変ステアリングを統合制御して「安全とクルマを操る楽しさを両立する」のだという。
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静かになってパンチ力がアップ
高回転でスカーンとぬけるサウンドとパワーの伸びが売りのV8と比較すると、ハイブリッドの走りは静かで上品だ。とはいえ、3.5リッターV6も黒子に徹するわけではなく、アクセルを踏み込めばシステムが10段ATのようにふるまって、エンジン回転が上下する。さらにマニュアルモードで引っ張れば6600rpmまで回り、エンジン音も意外なほど耳に届く。それが良くも悪くも、この「マルチステージハイブリッド」の特徴である。
LCは2017年3月の国内発売以降、毎年欠かさずシャシーに改良の手が入っているが、ハイブリッドシステムも毎年とはいわないが頻繁に改良されてきた。基本ハードウエアに変更はないものの、具体的には2018年8月の一部改良と2020年の大規模改良時に、それぞれ駆動制御が手直しされている。
細かい改良内容は明かされていないが、基本的にはバッテリーの活用範囲を広げてモーターアシストを強化し、2020年時にはさらにブレーキング時のダウンシフト制御の変更で、ギアを2速(それ以前の下限は3速)まで落とせるようになったという。つまりは、よりパワフルでリニアなパワー特性を目指しているようだ。
実際、走行中にエンジン駆動が出入りするときのショックがいまだ強めなのは気になるものの、モーター駆動範囲が広がったためか、デビュー当初より静かになり、同時にパンチ力を感じるようになった。また、高回転時のエンジンも快音とまではいわないが、以前より耳ざわりではなくなり、踏んだときにそれなりに気持ちよくなった気はする。
なるほど“500”を名乗るだけに、市街地や都市高速で加減速を繰り返すような(ハイブリッドが得意とする)シーンでは、それなりに小気味いい。ただ、上り勾配が続く高速道や山坂道など、エネルギー回収が追いつかない場面では、V8より絶対的に小さな排気量に加えて、60kgほど重いウェイトもあって俊足とはいいがたくなる。LCを高性能スポーツクーペとして乗りたいなら、現時点ではV8のほうが満足度は高い。
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ドライブモードで迷わせない
“Sパッケージ”の「S」はおそらくスポーツの意味だろうが、かといって「Fスポーツ」を名乗らないところが、このクルマのキモということもできる。とくにソフトな減衰となる「コンフォート」モードで市街地を走ると、その乗り心地はV8の標準モデルよりあからさまに快適だ。ここはサスペンションを固めずともロールを抑制できるLDHならではの美点だろう。
しかし、高速道路に踏み入れると少しずつ落ち着きが薄れて、80〜90km/hくらいを境に、1段階引き締めた「ノーマル」モードのほうがフラットで快適になってくる。さらに国内上限の120km/h付近では目地段差の突き上げもいよいよ優しくなり、なんとなくスイートスポットに入った感がある。
全体に標準モデルや“Lパッケージ”より乗り心地は快適なのだが、同時に、LCのような高速高級ツアラーなら、この領域まではひとつのモードでこなしてほしくもある。ただ、LDHなしのLC500が路面状況によって乗り心地が刻々と変化して、どのモードを選んでいいか迷わせるのに比べれば、このLDH付きのLC500hは「市街地や郊外道路までならコンフォート、高速ならノーマル」と迷わせないところが美点といえば美点だろう。
さらに山坂道に分け入ったときにはサスペンションを「スポーツS」にすると、LDHはいよいよ真骨頂を発揮する。そのためにはドライブモードで「スポーツS+」モードを選ぶか、「カスタム」モードでサスペンション設定を選ぶ必要がある。ちなみに、スポーツS+モードにすると、パワートレインもカスタムモードでも選べない専用制御となる。
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なにはなくとも“Sパッケージ”
スポーツS+モードにセットしたLC500hの走りは“オンザレール”そのものだ。ダンピングもそれなりに引き締まるようだが、内臓が揺すられるほど硬くなるわけではない。速度が上がるとリアタイヤは基本的に同位相に切れるようで、手首の返しひとつでノーズが引き込まれるほどクイックなステアリングフィールなのに、リアタイヤは地面に根が生えたようにドシッと安定する。このあたりは、いかにも四輪操舵らしい味わいだ。
ただ、速度や曲率によってステアリングレシオが刻々と変わるLDHでは、コーナー手前から舵角を決め打ちしていくような古典的なドライビングスタイルは似合わない。逆にステアリングでクルマを追うように、走行軌跡をなぞるような意識で運転すると、LDHでは一体感が得られる。ハイブリッドのパワートレインも同様だ。山坂道で無遠慮にアクセルペダルを踏みつけるだけでは動力性能はどんどん物足りなくなってくるが、ドライバー側からクルマを遊ばせるようにリズミカルな加減速(≒適度な回生充電)をしかけると、動力性能も小気味よくなる。
サスペンションが柔らかめでもロールも小さく、ハマったときには路面に吸いつくような身のこなしになるのもLDHの利点である。まあ、大きくうねる路面で上下動がおさまりきらないLC特有のクセは、完全に隠しきれてはいない。それでもLDH非装着車よりはスイートスポットも確実に広いので、LCを快適かつ優雅に走らせるには、LDHは最低限の必須装備であり、個人的にはこれを標準設定にすべきと思う。LCにLDH非装着車を用意するなら、スイートスポットのせまさを逆手にとって、乗り心地なんぞ二の次三の次(!?)でアシを徹底的に締め上げた武闘派モデルに仕立ててもらえたりすると、マニアックで面白いクルマになりそう……なんてことまで考えてしまう。
いずれにしても、LCにハイエンドクーペらしい快適性をお望みなら、現時点では、なにはなくとも“Sパッケージ”と申し上げておきたい。
(文=佐野弘宗/写真=田村 弥/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
レクサスLC500h“Sパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1920×1345mm
ホイールベース:2870mm
車重:2010kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:299PS(220kW)/6600rpm
エンジン最大トルク:356N・m(36.3kgf・m)/5100rpm
モーター最高出力:180PS(132kW)
モーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)
システム最高出力:359PS(264kW)
タイヤ:(前)245/40RF21 96Y/(後)275/35RF21 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツZP)※ランフラットタイヤ
燃費:14.4km/リッター(WLTCモード)
価格:1500万円/テスト車=1535万5300円
オプション装備:オレンジブレーキキャリパー<フロント&リア LEXUSロゴ入り>(4万4000円)/カラーヘッドアップディスプレイ(8万8000円)/“マークレビンソン”リファレンスサラウンドサウンドシステム(22万3300円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1220km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:290.6km
使用燃料:35.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.1km/リッター(満タン法)/8.2km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。