BMW523iツーリング(FR/8AT)【ブリーフテスト】
BMW523iツーリング(FR/8AT) 2010.12.08 試乗記 ……771万4000円総合評価……★★★★★
ドライバーズサルーンとして名高い「BMW5シリーズ」。ワゴンボディで余裕も増した「523iツーリング」の走りをチェックした。
駆け抜けても、駆け抜けなくても
正直言って、最初は「随分落ち着いちゃったね」と思った新型「5シリーズ」。一見おとなしくなった外見にしても、快適性の高まった走りにしても、先代のエッジの立った感覚が恋しく思えてしまったのだ。
しかし路上を走る姿を頻繁に見かけるようになり、そして自分でもステアリングを握る機会を得るにつれて、評価は180度と言ってもいいくらい変わった。ディテールはたしかに落ち着いた外観だが、しかし実は長さが強調されたノーズ、ゆるやかなウェッジの効いたサイドビューなどによってフォルムは大きく変わっている。ディテールのインパクトが強かった先代から一転、本質的な美しさとスポーティさをそこには感じる。セダンだけじゃなく今回試乗したツーリングも印象はまったく同様である。
走りについてもそう。先代の、特に初期型ではアクティブステアリングの鋭い切れ味にビックリさせられたものだが、新型はハイテクデバイスを多用しつつも、そうした刺激で圧倒するのではなく、先々代以前のBMWが持っていた、たおやかでかつ奥深いスポーツ性を感じさせる味わいへと回帰している。鋭いレスポンスがそうなのではなくて、どこまで攻めても正確な応答性を失うことなく、乗り手の意思に100%応えてくれることこそ、スポーティ。そんな走りっぷりを、しかし従来よりも圧倒的に高い次元にて実現しているのだ。
要するに5シリーズは落ち着いてなどいなかったということ。むしろ見方によっては、よりラジカルになったと言ってもいいかもしれない。
そんな5シリーズの恐ろしいのは、「駆け抜ける歓び」だけでなく「駆け抜けなくても歓び」まで手に入れてしまったことだ。ゆっくり走らせていても、極上の癒やし感すら味わえるのである、BMWなのに!
「523iツーリング」は、新型5シリーズのそうした側面をもっとも濃厚に味わえるモデルと言える。回す楽しさもあるが、速く走らなくたって気持ちいい。そんなテイストゆえに、こけおどしは必要ないし、急ぐ人には先を行ってもらっても全然構わないという寛大な気持ちになれる。ツーリングであることも、そんな余裕を醸し出す重要なポイント。使い勝手に優れるだけでなく、そういう意味ではライフスタイル演出の道具としても、これほど憎い存在感のクルマは無い。
じわじわと染み出すその魅力には脱帽。「もっと乗っていたい」「一緒に暮らしたらどうなるだろう?」 試乗していて、久々にそんな気持ちにさせられてしまった。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2010年3月にフルモデルチェンジされた「5シリーズセダン」に続き、9月に日本上陸を果たしたのが、ワゴンボディの「5シリーズツーリング」。前後輪を操舵(そうだ)する「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング」や、走行特性をセレクトできる「ダイナミック・ドライビング・コントロール」など、セダン同様のスポーティなシャシーに、最大1670リッターとなる大きな荷室が与えられる。テールゲートを開けずに、ウィンドウ部分が独立して開閉できるのも特徴的。ツーリングならではの装備として、リアサスペンションにはセルフレベリング機能も備わる。
販売される3グレードはいずれも直6で、2.5、3リッター、3リッターターボがラインナップされ、いずれも8段のオートマチックトランスミッションが組み合わされる。
(グレード概要)
試乗車はエントリーグレードとなる「523iツーリング」で、2.5リッター直6エンジンを搭載する。カタログ燃費(10・15モード)は10.4km/リッターとされ、エコカー減税(50%減税)の対象車にもなっている。
「ノーマル」「スポーツ」「スポーツプラス」の3つのモードから走行特性を選ぶことができる「ダイナミック・ドライビング・コントロール」は標準装備。iDriveで操作するHDDナビのほか、リアビューカメラ、パークディスタンスコントロールも、上級グレードと同様に採用されている。試乗車に装着されたオプションのラゲージ・コンパートメント・パッケージは、荷室にストラップやレール、フックなどが用意されるとともに、リアシートバックレストの角度を変更することができるようになるというもの。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
インストゥルメントパネルのレイアウトは決して斬新なものではない、というよりむしろきわめてオーソドックスな水平基調なのだが、それをしっかり新しいものに見せるデザインは巧みだ。
装備も、必要なものは標準状態でほぼそろっていると言っていい。最新のiDriveは、初期の「慣れれば画面さえ見ずに操作できる」ものから「画面を見るだけで手元は見ずに操作できる」ものへと、先進性という意味では一歩後退したものの、依然としてこの手のシステムの中では断トツの使いやすさを誇る。
リアビューカメラやパークディスタンスコントロールも標準装備。ただし肝心のナビゲーションシステムの地図表示が、主要幹線道路以外の道がほぼすべて同じ細い線で表示されてしまい、少々見にくいのが残念なところだ。
(前席)……★★★★★
ボディサイズが拡大されているだけに当然とはいえ、乗り込むとその広さ、特に横方向の余裕にうならされる。先代で一旦やめた、操作系をドライバー側に向けるコクピットデザインが復活しているにもかかわらず、ドライバーにとっても狭苦しさはないし、ナビ側から見ても疎外感を味わうことはないのは、きっと念入りに空間設計が行われた成果だろう。
ドライビングポジションもBMWにとっては毎度のことながら秀逸だ。このセグメントでもライバル車では多かれ少なかれ見られる右ハンドル化の弊害を、5シリーズはまったく感じさせない。誰でも妥協のないベストな着座姿勢を取ることができるはずだ。
(後席)……★★★★★
前席を筆者自身のシートポジションに合わせた状態で、後席の足元には膝の前に拳を縦にして1個半入れられるほどの空間が残る。試乗車は電動パノラマガラスサンルーフ付きだったにもかかわらず、頭上空間にも圧迫感はなし。実に快適に過ごすことができる。そのサンルーフも、恩恵は前席よりむしろ後席の方で大きく、開放的な視界を楽しむことができる。後席に人を乗せる機会の多い人は、選ぶ価値のあるオプションといえる。
(荷室)……★★★★★
荷室の容量は、5名乗車時で560リッター。最大で1670リッターまで拡大することができる。自動的に持ち上がるラゲッジエリアカバーは便利だし、荷室自体もスクエアな形状で、床面がバンパーとほぼ同じ高さとなることから使い勝手は上々だ。
後席はバックレストを40:20:40の割合で3分割して倒すことができる。荷室側にレバーが用意されているので、後席まで回り込むことなくワンタッチで荷室を広げることが可能だ。ただしこの背もたれ、ワンタッチで倒れるようにするためかバネの力が非常に強く、起こすのに力が要るのが欠点。特に女性にとっては、結構難儀に違いない。
中央席だけ倒せばスキー&スノーボードバッグを使って、大人2名を後席に乗せながらスキー板を最大4組、スノーボードでも3組を収納することができる。このあたりのアレンジ性にも抜かりはない。
|
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
523iを名乗りながら、そのエンジンは実は排気量2.5リッターの直列6気筒である。ちなみに本国では「528i」ともども3リッター直噴ユニットが搭載されており、チューニングによってスペックに差がつけられている。
車重が標準でも1880kgと、先代「525iツーリング」より140kgも重くなっているにもかかわらず、動力性能は大きな不満を抱かせない。速いとまでは言わないが、十分納得できるものになっている。これは、こまめかつスムーズな変速を実現した8段ATによるところが大きい。加速を鋭くするのにも、巡航中のエンジン回転数を下げて静粛性や燃費を稼ぐのにも、大いに貢献しているのだ。
しかも、そこはBMWのストレート6。思い切りアクセルを踏み込んでやれば、3000rpmを超えたあたりからトップエンドに向けて一直線にパワーが立ち上がっていく爽快なフィーリングを楽しめる。回転計上のゼブラゾーンは6750rpmから。しかし勢いに乗ると7000rpmオーバーまで許容するあたりもさすがである。
室内が静かなのはエンジンだけのおかげではなく、クルマ自体が優れた遮音性能を発揮しているからでもあるのは言うまでもない。この5シリーズのアドバンテージはボディ形状では不利なツーリングにもしっかり生きている。
|
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
乗り心地は抜群にいい。路面からの大小あらゆる入力をしなやかに受け流して滑るように走る様は、「これがBMW?」と一瞬困惑してしまうほどの、言葉は古いが“癒やし系”の感触である。ランフラットタイヤを履くネガは、もはやまったく感じられないと言っても過言ではなさそうだ。
それでいてリアにセルフレベリング機能付きエアサスペンションを採用したシャシーは、フットワークの面でも、まったく期待を裏切らない。精度の高い手応えを示すステアリングを切り込むと、手のひらにたっぷりとした情報をもたらしながら、最初はやや穏やかに、その後にはスーッとノーズがインに向いていく。
率直に言って導入当初に乗った「535iセダン」では、インテグレイテッド・アクティブ・ステアリングの4輪操舵に起因すると思われるハンドリングの違和感は明白だった。速度域によって極端に言えば、切ったつもりが足りなかったり、切っていないのに曲がり過ぎたりという、微妙に一体感をそぐ感覚がつきまとったのだが、この523iツーリングはそうしたネガがほぼ払拭されていた。タイヤが鳴くような速度でコーナーに入った時には、ちょっとだけ残っているかな……という程度。同じ時期に乗った「528iセダン」もそうだったから、この個体だけの話ではなく、おそらくこれが5シリーズの真の姿なのだろう。そうだとしたら、完成度は上々だ。
そもそも新型5シリーズはシャシーの基本を7シリーズと共用しており、それがライバル達に対する大きな大きなアドバンテージとなっている。セグメントの水準を上回る走りと快適性には、心底うならされてしまった。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2010年10月7日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2010年型
テスト車の走行距離:3687km
オプション装備:Hi-Lineパッケージ(39万円)/Vスポーク・スタイリング331アロイ・ホイール(33万円)/ダイナミック・ダンピング・コントロール(18万8000円)/ルーフ・レール(サテン・アルミニウム)(5万3000円)/オートマチック・テールゲート・オペレーション(8万1000円)/電動パノラマ・ガラス・サンルーフ(21万5000円)/ラゲージ・コンパートメント・パッケージ(5万7000円)
タイヤ:(前)245/40R19(後)同じ(いずれも、グッドイヤー Excellence☆)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(7):山岳路(1)
テスト距離:−−
使用燃料:−−
参考燃費:−−

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。





























