第277回:魂の込め方が変わったのか
2024.02.12 カーマニア人間国宝への道メルセデスの車名が判別できない問題
自動車ライターをなりわいとしているが、個人的な興味に基づいて半径3m圏内で事業を展開しているので、いったん興味がなくなると、若いアイドルの名前同様、さっぱり訳がわからなくなる。最近はメルセデスについてもチンプンカンプンになった。
メルセデスについてチンプンカンプンになったきっかけは、2年半ほど前に試乗した新型「Cクラス」だった。Cクラスといえば、かつてはモータージャーナリストにとってメートル原器的存在。しかし「C200アバンギャルド」には全面的に失望した。ぜんぜんカッコよくないし、ボディーやサスペンションが重厚とかって感じもないし、なによりパワートレインがイカン。1.5リッター直4ターボ+マイルドハイブリッドは、回すと安っぽくてうるさくて、パワーもトルクも燃費もぜんぜんイマイチ。なのに価格は旧型より130万円くらい高くなっていた。
「ありえんだろー!」
C200アバンギャルドは、当日乗って行った「日産ノート オーラ」にすべての面で劣っているように思えた。あ、4WSの恩恵で小回り性能は上か。でも、ノート オーラは約300万円でメルセデスC200アバンギャルドは約700万円。私なら迷わずノート オーラを選ぶ。ノート オーラも買わないけど、ノート オーラのほうが300倍好き!
加えてメルセデスは、モデル数の大増殖や電動化の強力推進もあって、ナントカ坂〇〇同様、車名の判別すらつかなくなりつつあった。
こんなことではイカン! 反省。
そこで今年のJAIA(日本自動車輸入組合)が主催する報道関係者向けの試乗イベントでは、個人的に興味を抱けそうなメルセデスを2台選び、試乗させていただくことにしました。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
いま一番そそられるメルセデスは?
1台目は「CLA200dシューティングブレーク」だ。私は「Aクラス」系の1.3リッター直4ガソリンターボにも激しく失望しているが、200dは2リッター直4ディーゼルターボなので大丈夫だろう。というより、いつの間にかこのモデルからはガソリンエンジンがカタログ落ちし、200dのワングレードになっている。人気ないのかな……。
CLAシューティングブレークのデザインは、とてもエレガントでバランスがいい。エリートっぽいのが大好きな私にピッタリだ。インテリアの「AMGレザーパッケージ」(の赤い部分)はありえんが、オプションを外せばいいので問題ない。
走りはどうか。同じ2リッター直4ディーゼル搭載の、わがちょいワル特急こと「プジョー508 GT BlueHDi」と同等に走ってもらわねば困るところである。
結果は「65点」だった。低速トルクは普通にあるが、回したときのパワー感はいまひとつ。最高出力/最大トルクが150PS/320N・mと控えめなのである。フィーリングも、BMWやフォルクスワーゲン、アウディのソレに比べるとやや粗く物足りない。世代の古いわがプジョーの2リッターディーゼルにも負ける。ガチなディーゼルファンとしては厳しく判定せざるを得ないが、実用エンジンなので、許せるといえば許せる。
お値段は617万円。約700万円のC200アバンギャルドよりお安くて、走りはずっと印象がいい。そしてカッコいい。なんだかんだで、いまのメルセデスのなかで一番そそられる!
試乗車には「AMGラインパッケージ」や「アドバンスドパッケージ」などのオプションが合計130万円分付き、総額747万5000円。シャレにならないお値段だが、中古車には早くも300万円切りの個体アリ! それならゲタとして使い倒すのもヨシ! 今後もこのクルマには熱視線を送りたい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
昔のような唯一絶対感は皆無
続いて「GLC220d 4MATICクーペ」に乗る。メルセデスのSUVラインナップは充実しすぎていて、私にはぼんやりとしか見分けがつかないが、そのなかではこれが一番カッコよく、サイズもギリギリ手ごろに思えた。東京・杉並周辺では「GLB」をよく見かけるが、アレを買うなら断然「ヴェゼル」のほうがいいと思っている。
先ほどのCLAシューティングブレークはFFのAクラスベースだが、こっちはFRのCクラスベース。近年のメルセデスの小排気量ガソリンターボには到底納得できないが、「あの」CクラスベースのSUVに2リッターディーゼルを積むとどうなるのか、いまさらながら確かめよう。
見た目はやはりシュッとしていてカッコいい。真四角な「Gクラス」か、じゃなかったらこういうクーペSUVが好みである。んで、このクルマもエンジンは2リッターディーゼルのみ。先代には2リッターガソリンターボがあったがいまはワングレードだ。これはどういう意味だろう。単に売れ筋に絞ったのか? うむう。
こっちの2リッターディーゼルは197PSのハイスペック版。車体はCLAシューティングブレークより430kgも重いけど、マイルドハイブリッドの助けもあり、だいぶ軽快に加速する。これはこれで悪くない。悪くはないが特に刺さる部分もない。
あらためて思うのだが、現在のメルセデスには、昔のような唯一絶対感は皆無だ。
思えば私が信奉するフェラーリも、V12自然吸気エンジンを除き、かつてのような唯一絶対感は雲散霧消、数あるスーパーカーブランドのひとつになっている。もう、いちブランドが突出できる時代じゃなくなったのか。それとも魂の込め方が変わったのか? うおおおおおおおおおお~ん。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第324回:カーマニアの愛されキャラ 2025.12.1 清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。
-
第323回:タダほど安いものはない 2025.11.17 清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。
-
第322回:機関車みたいで最高! 2025.11.3 清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。
-
第321回:私の名前を覚えていますか 2025.10.20 清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
NEW
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.12.6試乗記マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。










































