ポルシェ911 カレラGTS クーペ(RR/7AT)/カブリオレ(RR/7AT)【海外試乗記】
カレラS以上、GT3未満 2010.12.02 試乗記 ポルシェ911 カレラGTS クーペ(RR/7AT)/カブリオレ(RR/7AT)「カレラ」シリーズの頂点をうたう新グレード「カレラGTS」が登場。アメリカでの試乗で、そのパフォーマンスを確かめた。
ニッチを狙ったモデル
ターボ付きモデルの走りはあまりにも過剰だと感じるし、そもそも4WDは好きになれない。「911」の頂点はやはり「GT3」に尽きると思うが、しかし自分ではあそこまでスパルタンでハードコアなモデルに乗る勇気はない――端的に言えば、先日開催されたパリサロンでデビューを果たした911シリーズの最新バージョン「カレラGTS」というのは、そうした思いを抱く人のためのポルシェである。クーペボディでMT仕様のみのGT3に対し、カブリオレや2ペダルのPDKを用意するあたりも、より幅広い層の人々にアピールしたいという意識の表れといえるだろう。そしてなによりも、独自のチューニングを施して獲得した408psという最高出力が、「カレラS」の385psとGT3の435psのほぼ中間に位置するものであるというのも、そんな狙いどころを示している。「カレラS以上、GT3未満」……それが、このカレラGTSというモデルの狙うキャラクターである事はハッキリしているわけだ。
そんなこのモデルがGT3にオマージュをささげた存在であることは、ある面そのルックス上からも伺い知ることができる。さすがに、GT3最大のアピールポイントである巨大な固定式リアスポイラーこそ装備はしないものの、フロントインテークのデザインや標準装備となるセンターロック式の19インチホイールなどに、通常のカレラシリーズとは一線を画した“プチGT3”風の雰囲気が盛り込まれている。ちなみに、やはり標準装備される電子制御可変減衰力ダンパー「PASM」を採用のシャシーに対し、オプション設定の「PASMスポーツサスペンション」ではさらに20mmのローダウンが図られる。これを選択すると低く構えたその見た目の印象が、よりGT3に近いものとなるに違いない。
太いトルクを感じる
リアシートが廃され(オプション装着が可能)、標準装備されるスポーツシートやステアリングホイール、ドアハンドルやルーフライニングなど、広範囲にブラック色のアルカンターラが用いられたことで、インテリアの雰囲気もやはり既存のカレラシリーズよりもスパルタンで硬派な雰囲気が強まっている。ちなみにPDK仕様車のステアリングホイールは、従来のカレラシリーズではオプション扱いとされてきたシフトパドル付きが標準装備。個人的には、それがステアリング操作と共に移動(回転)してしまう点に不満が残るが、しかし押してアップ、引いてダウンという特異なロジックを採用してきたこれまでのカレラシリーズに標準採用の「ステアリングスイッチ」よりも、はるかに使い勝手に優れるのは間違いない。
インテークシステムに6カ所の負圧制御式フラップを新採用するなどで、ベースのカレラS用に対して23psの最高出力アップを実現させた3.8リッターのフラット6ユニットに火を入れる。と、始動の瞬間からより迫力あるサウンドが耳に届くのは、このモデルが「スポーツエグゾーストシステム」を標準装備とするからだ。今回のテストドライブで乗ったのはクーペとカブリオレのPDK仕様に限られたが、アクセル開度がわずかにとどまる街乗りシーンでは、その力感のほどは「カレラSと同等」というのが率直な印象。ただし、アクセル踏み込み量を増していくと、すでに4000rpm手前にしてトルク感がより太くなっているのを実感できる。このモデルの心臓は前述インテーク系フラップの制御によって「出力重視のジオメトリーとトルク重視のジオメトリーを両立させている」というのがうたい文句。実際にはアイドリング状態から、カレラS用ユニットよりも800rpm高い7300rpmという最高出力発生ポイントまで、大半のゾーンでトルクも上回るという。
MTでも味わってみたい
そんなカレラGTSの動力性能のハイライトは、やはり高回転域でのパンチ力とシャープなレスポンスにこそある。さすがに、全く異なる生い立ちを持つGT3用エンジンが発する、とことんコンペティティブなフィーリングとは一線を画するものの、それでも「カレラシリーズの頂点に君臨」という自らの紹介文に偽りはない。率直なところ、テストドライブ中には「この心臓はMTでも味わってみたい」と思った。とはいっても、実は日本導入モデルはPDK仕様に限られてしまうのだが。
「カレラ4」シリーズ譲りのワイドボディを採用し、それにあわせて主にリアトレッドのワイド化とリアタイヤの1サイズアップ(295/30→305/30)が図られたシャシーが生み出す乗り味は、とことんスパルタンなGT3よりは、やはり既存のカレラシリーズに近い。例によってクーペとカブリオレのボディ剛性感には小さくない差が認められるが、よりしっかり感が高く、ボディに入った振動が瞬時に減衰される前者であれば、「PASM」をノーマルモードで乗っている限り快適性にも不満はない。
コーナーターンインでのノーズの動きが軽快なのは、やはり前輪荷重の軽い後輪駆動モデルゆえの特徴と実感できる部分。その一方で、アメリカでの公道試乗ゆえ今回は確認する事のできなかったオーバー150km/hレベルでの安定感や安心感を想像すると、「4WD仕様のカレラGTSが欲しい」という声も生まれてくるかもしれない。
いずれにしても、こうして既存のカレラシリーズとGT3というモデル間に開いていたちょっと大きめのはざまが埋められたところで、現行997型の911シリーズのバリエーション展開は“打ち止め”となるはず。なぜならば、「来年末にはさらなる飛躍を行うべく、次期(991型?)911がすでにスタンバイ中」というのがもっぱらの噂であるからだ。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ・ジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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