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このままのカタチで市販化希望! 「Honda 0」の実車にデザインのプロが感じた期待とハードル

2024.03.15 デイリーコラム 渕野 健太郎
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シンプル・独創的・ダイナミズム

先日、東京・港区の「Hondaウエルカムプラザ青山」で、2024年1月にCESで発表された「Honda 0」シリーズの2台のコンセプトカーが、日本でも公開されました。その際、デザインセンターの清水陽祐さんとBEV開発センターの中野弘二さんに話をうかがう機会を得たので、実車を見た率直な印象も交えてリポートします。

まずデザイナーの清水さんいわく、ホンダデザインの本質は「シンプル」であり、Honda 0シリーズではそのシンプルをベースに、いかに「独創的」なものとするか、クルマとしての「ダイナミズム」をどう表現するか、というところに注力したということ。

Honda 0シリーズのコアバリューのひとつである「共鳴できる芸術的デザイン」を具体化するにあたり、苦心されたと思います。前回のコラムでも書きましたが、カーデザインではなかなか「芸術的」という言葉は使わないんですよね。デザイナーにとってはハードル爆上がりです(笑)。

写真向かって左が、本田技研工業 電動事業開発本部 BEV開発センター BEV完成車統括部 BEV商品企画部 部長の中野弘二氏。同右が、本田技術研究所 デザインセンター e-モビリティーデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ チーフデザイナー兼クリエイティブリーダーの清水陽祐氏。
写真向かって左が、本田技研工業 電動事業開発本部 BEV開発センター BEV完成車統括部 BEV商品企画部 部長の中野弘二氏。同右が、本田技術研究所 デザインセンター e-モビリティーデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ チーフデザイナー兼クリエイティブリーダーの清水陽祐氏。拡大
「Honda 0」シリーズの2台のコンセプトカーは、2024年3月5日から3月10日にかけて「Hondaウエルカムプラザ青山」にて一般公開された。
「Honda 0」シリーズの2台のコンセプトカーは、2024年3月5日から3月10日にかけて「Hondaウエルカムプラザ青山」にて一般公開された。拡大
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これまでの既成概念を覆すデザインの「SALOON」

その「シンプル」な要素で「独創的」かつ「ダイナミズム」を表現するという難題を、この「SALOON(サルーン)」は見事に具現していました。

まず、このクルマは普通のセオリーとは違った造形をしていて、そこが独創的なんですね。私はこれまで、どのビューから見ても「印象が同じ」ことが、まとまりのあるいいデザインの条件だと思っていました。しかし、このクルマは正面から見たら背の低いミニバン、サイドから見るとスーパーカーと、まったく印象が異なります。

なぜそう見えるかというと、サイドガラスがミニバン並みに立っているからなんですね。また上から車体の形状を見ると、前輪の位置では車幅いっぱいくらいにボディーが広がっていて、リアに向かってダイナミックに絞られているので、フロントフェンダーがほとんどありません。そのような造形なので、サイドではダイナミックなシルエットにもかかわらず、正面から見たたたずまいが箱っぽく見えるんです。

清水さんは、「横方向の空間の広さと、空力を両立させた」と言っていましたが、この形状がこれまでの既成概念を覆す、カーデザインの新たなオリジナリティーを創出していると感じました。

車内に乗り込むと、なるほど清水さんの言うとおり横方向の広さを実感できます。しかし頭上にはあまり余裕がなく、リアシートに至っては身長175cmの私でも頭が天井にぶつかりそう。こちらのクルマは市販化されるとのことですが、その場合、もう少し余裕のあるルーフラインになるのではないでしょうか。

市販化といえば、サイドウィンドウは自由な曲率でつくられていると思うので、このままだとガラスが昇降できなさそうですね。サイド面の流れがこのデザインのキモでもあるので、設計要件を盛り込んだときにどのようなものとなるかが興味深いところです。

「Honda 0」のフラッグシップモデルを示唆するコンセプトカー「SALOON(サルーン)」。横から見ると、かつてジュネーブショーなどに花を添えたスーパーカーのショーモデルのようにも見えるが……。
「Honda 0」のフラッグシップモデルを示唆するコンセプトカー「SALOON(サルーン)」。横から見ると、かつてジュネーブショーなどに花を添えたスーパーカーのショーモデルのようにも見えるが……。拡大
真正面から見ると、ご覧のとおり。フロントフェンダーの張り出しもほとんどなく、空間重視の箱型のクルマを思わせる。
真正面から見ると、ご覧のとおり。フロントフェンダーの張り出しもほとんどなく、空間重視の箱型のクルマを思わせる。拡大
車内空間については、前後・左右のゆとりは十分だが、頭まわりが窮屈な印象。市販化に際してはルーフを高める必要がありそうだが、それでコンセプトカーの魅力的なフォルムを保てるのか……。デザイナーやモデラ―の、腕の見せ所である。
車内空間については、前後・左右のゆとりは十分だが、頭まわりが窮屈な印象。市販化に際してはルーフを高める必要がありそうだが、それでコンセプトカーの魅力的なフォルムを保てるのか……。デザイナーやモデラ―の、腕の見せ所である。拡大
ボディーパネルと完全に一体化したサイドウィンドウも、市販化に際してどう変更されるか気になるところ。……というか、巨大な2枚のガルウイングドアは継承されるのだろうか? 「普通の4枚ヒンジドアになったら、がっかりだよ!」というのはwebCG堀田の弁。
ボディーパネルと完全に一体化したサイドウィンドウも、市販化に際してどう変更されるか気になるところ。……というか、巨大な2枚のガルウイングドアは継承されるのだろうか? 「普通の4枚ヒンジドアになったら、がっかりだよ!」というのはwebCG堀田の弁。拡大

リラックス空間が魅力の「SPACE-HUB」

「SPACE-HUB(スペースハブ)」は、実際に見ると想像よりは大きくなく(といってもショーカーなので道を走っているクルマよりはずいぶん大きいですが……)、空間を最大限に使うことを想定したデザインスタディーという印象です。後席の対面レイアウトは、家族で使う想定だと運転手が孤立しそうですが(笑)、ドアトリムと連続した一体感あるシートを中心とした、とてもリラックスできそうな空間が魅力的でした。

エクステリアは、極限まで要素が少ないサルーンに比べると、やや複雑に見えました。サイドガラス下の段差がヘッドライト横までしっかり回っているので、フロント部で立体が分かれているんですね。ここは造形テーマの「起点」になる部分なので、サルーンのように一体感を出すとしたら、自分ならどうするかな? とか妄想していました。

でも、繭のようなシルエットにオリジナリティーがあり、スタンスもよいので市販化に期待ですね! もっとも、市販が明言されているサルーンに対し、こちらはその予定はないとのことですが……。

ちなみに、前述の空間と一体となったシートについては、そのまま実用化できるかといえば、なかなかハードルが高いと思います。シートはご存じのとおり、リクライニングなどの調整機構をはじめ、乗降性や視認性、ホールド性、またミニバンならロングスライドや格納などによる多彩なシートレイアウト等々、さまざまな機能や要件が課せられています。これらを考慮すると、どのメーカーも似たようなシートしかできないんですよね。

一般的にインテリアデザインにおいて、コンセプトカーと市販車とで一番違うところはシートだと思います。……が、もし市販化されることになるのなら、ぜひこの魅力的な空間を継承してほしいですね。

「人々の暮らしの拡張」(報道資料より)を提供することをテーマとした「SPACE-HUB(スペースハブ)」。ボンネットなどは一切なく、フロントマスクの直後からウインドスクリーンが始まる。
「人々の暮らしの拡張」(報道資料より)を提供することをテーマとした「SPACE-HUB(スペースハブ)」。ボンネットなどは一切なく、フロントマスクの直後からウインドスクリーンが始まる。拡大
「サルーン」と比べるとエクステリアの造形はちょっと複雑。ベルトラインには写真のような段差が設けられていて、それがヘッドランプの左右まで続いている。
「サルーン」と比べるとエクステリアの造形はちょっと複雑。ベルトラインには写真のような段差が設けられていて、それがヘッドランプの左右まで続いている。拡大
「スペースハブ」の魅力といえば、なんといってもこの車内空間! しかし、インテリアとの連続性を感じさせるこのシート形状は、市販モデルへの反映は難しそうだ。市販車のシートには、リクライニング&スライド機構や、格納・可倒機構など、さまざまな機能を盛り込まなければならないからだ。
「スペースハブ」の魅力といえば、なんといってもこの車内空間! しかし、インテリアとの連続性を感じさせるこのシート形状は、市販モデルへの反映は難しそうだ。市販車のシートには、リクライニング&スライド機構や、格納・可倒機構など、さまざまな機能を盛り込まなければならないからだ。拡大
「サルーン」「スペースハブ」ともにリアウィンドウはないが、これは後方視界をカメラのみに頼る想定としたため。すでに一部のスーパーカーなどにも取り入れられている手法で、デザインの自由度がグッと増す。
「サルーン」「スペースハブ」ともにリアウィンドウはないが、これは後方視界をカメラのみに頼る想定としたため。すでに一部のスーパーカーなどにも取り入れられている手法で、デザインの自由度がグッと増す。拡大
2台のコンセプトカーの開発にあたり、シンプルさと独創性、ダイナミズムを重視したというデザイナーの清水陽祐さん。コンセプトムービーの作成にも関与したという。
2台のコンセプトカーの開発にあたり、シンプルさと独創性、ダイナミズムを重視したというデザイナーの清水陽祐さん。コンセプトムービーの作成にも関与したという。拡大
商品企画の中野弘二さんによると、「Honda 0」シリーズは一部の人のための特別なモデルではなく、既存のホンダ車と同じように、幅広いユーザー層を想定しているとのことだった。
商品企画の中野弘二さんによると、「Honda 0」シリーズは一部の人のための特別なモデルではなく、既存のホンダ車と同じように、幅広いユーザー層を想定しているとのことだった。拡大
2026年に最初の市販モデルが登場するという「Honda 0」シリーズ。どのようなモデルが登場するか、興味津々(しんしん)である。
2026年に最初の市販モデルが登場するという「Honda 0」シリーズ。どのようなモデルが登場するか、興味津々(しんしん)である。拡大

ホンダらしいプロダクトを期待

この2台のコンセプトカーにはそれぞれ、魅力的なコンセプトムービーがあるんですよ(その1:サルーン、その2:スペースハブ)。清水さんにうかがったところ、デザイナー自身がムービーの制作に深く関与したということでした。あのようなつくり込まれたムービーは、特に日本のコンセプトカーでは異例のことでしたので、大変興味深かったです。

ただ私がそこで感じた印象は、例えばアウディのようにスマートで知性的なイメージを強く打ち出したものでした。Honda 0シリーズはこれまでのホンダ車とは違い、高価格帯の新たなユーザーをターゲットとしたブランドなのかな? と思っていたんですね。そのような具体的なユーザー像、狙いがあるのかと中野さんにたずねると、「Honda 0としてはこれまでのホンダと同様に、幅広いユーザーを想定している」ということでした。

マーケットに特化した特殊なモデルを除くと、これから先、ホンダのEVはすべてHonda 0になるとのことでしたし、Honda 0は私が考えていたような“ブランド”という存在ではなさそうですね。

……ということで、今回は具体的な商品の狙いなどは示されませんでしたが、ぜひホンダらしいユニークで魅力的なプロダクトを期待したいと思います。

(文=渕野健太郎/写真=webCG/編集=堀田剛資)

 
このままのカタチで市販化希望! 「Honda 0」の実車にデザインのプロが感じた期待とハードルの画像拡大

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渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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