変わらないために変わり続ける 最新型「Gクラス」はどんな進化を遂げたのか?
2024.03.26 デイリーコラム 拡大 |
「メルセデス・ベンツGクラス」が2018年のモデルチェンジ以来初の大規模な改良を受けた。当時と同様に今回も重視されたのは「変わらないこと」。変わっていないように見せるために最新技術を惜しみなく投入する。人気者には人知れぬ苦労があるものだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「前のほうがよかった」と言われないために
メルセデス・ベンツGクラスは、「ポルシェ911」や「MINI」のように、その形自体がアイコンとなってしまったモデルである。おそらく、1979年のデビュー当時には、将来的にそういうクルマになるだろうとは開発チームですら思っていなかっただろう。
正確に言えば、Gクラスにはエクステリアデザインを変えたくても変えられなかった事情がある。そもそもGクラスは、NATOの軍用車両の民生版として登場した。以後もしばらくはNATOとの契約が更新され続ける。ミリタリースペックの車両は、部品供給が安定的に継続できることが何よりも重要であり、ちょくちょくフルモデルチェンジをしてしまったら、その度に部品のストックを一新する必要があるため、おいそれと新型を開発するわけにはいかなかったのである。先代までのGクラスのウィンドウがすべて真っ平らな板ガラスだったのも、破損しても現地で調達しやすいからといわれている。
モデルチェンジできなかったことで、結果的にはその格好が世界中で広く認知され、いつの間にかGクラスのアイコンとなり、絶大なる人気を博すまでに至った。いちモデルがブランド化したというのは喜ばしいことであると同時に、つくり手側にとってはなかなかやっかいでもある。下手にいじると「前のほうがよかった」と必ず言われるからだ。かといって、自動車の技術は日進月歩を遂げており、いつまでも旧態依然としたままでいるわけにもいかない。そこでGクラスの開発チームがとったのは、先進技術を使うことで格好や性能を大きく変えずにブラッシュアップさせる方法だった。
空力性能が劇的に改善(当社比)
現行Gクラスは先代と見た目がほぼ同じながらも、流用部品は(小さなねじ類などを除けば)わずか4品目といわれている。前述のウィンドウも、リアガラスのみが板ガラスのままだが、フロントとサイドはわずかな曲率を持つ空力に配慮したガラスに刷新されている。ボンネットの先端に乗っかっているターンシグナルは、現代の衝突安全基準に照らし合わせると、突起物とみなされて本来であればNGである。しかしこれを、ある程度の衝撃が加わると下に落ちるようにしてクリアした。変わってないように見せるために、開発チームは並々ならぬこだわりと努力を尽くしてきたのである。
2018年にフルモデルチェンジを受けた現行モデルにとっては、今回が初めての改良となる。そのコンセプトは相変わらず「変わってないように見せる」だった。例えばドアハンドルは、前述の4品目のひとつに該当し、そのせいで現代のクルマでは当たり前の“キーレスゴー”が装備できなかった。ドアハンドルを流用した理由について、当時のチーフエンジニアは「オーナーが最初に触れるものだから、その時点でGクラスだと実感してほしかった」と語っている。そして最新型ではついに“キーレスゴー”が標準装備となった。基本的にはドアハンドルは従来型と同型だが、よく見ると小さな突起があって、これが接触式スイッチになっている。最新の技術を旧式のパーツに埋め込むことに、見事に成功したのである。
その格好から、Gクラスに空力性能を求めるのは事実上不可能といわれてきた。この点に関しても手が加えられている。ボンネットの中央部が従来型よりもわずかに盛り上がっている。これは、エンジンルーム内のパーツとの干渉を避けるためではなく、ボンネット上の空気を整流することが狙い。フロントグリルがほぼ真っ平らだった形状から奥行きを持たせた立体的形状に変更されたのも同じ理由である。さらに、Aピラーにかぶさっていた樹脂製のスポイラーの形状も刷新された。これにより、Cd値は従来の0.53から0.44に向上したという。「そもそも0.53もあったのか」「これだけやってもまだ0.44か」など、ツッコミどころは満載ではあるけれど、少しでもよくしようという開発チームの気概は伝わってくる改良である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
V8エンジンはメルセデスAMG専用に
インテリアにおける最大のトピックは、「MBUX」が最新版に(ようやく)アップデートされたことだ。実はこれまでは「ハイ、メルセデス」の音声認識機能もタッチ式液晶パネルも採用されていなかったのである。同時にセンターコンソールのダイヤル式スイッチも、他のメルセデスと同様のパッド式にあらためられた。それ以外は基本的にほぼ従来のスタイルを継承している。
パワートレインは「G450d」が積む2989ccの直列6気筒ディーゼルターボ、「G500」の2999cc直列6気筒ガソリンターボ、そして「G63」の3982cc V8ツインターボの3種類。最高出力/最大トルクはG450dが367PS/750N・m、G500が449PS/560N・m、G63が585PS/850N・mで、さらに3つのエンジンはすべてISG仕様となり、メルセデスのなかで唯一の“無電動化モデル”だった汚名を返上した。なお、現行モデルは「G550」がV8を搭載していたが、今後はAMG専用となる。
今回は、生産工場やエクスペリエンスセンターがあるGクラスの故郷ともいうべきオーストリア・グラーツで開催されたワークショップに参加した。そして実は、前述のモデル以外にもう1台、特別な“ヤツ”も見せてもらった。現時点ではまだ詳細について語れないのだけれど、「変わってないように見せる」はそのモデルにも貫かれているし、何より期待を大きく上回る性能も備えたとんでもない代物だった。
(文=渡辺慎太郎/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)

渡辺 慎太郎
-
誰にいくらでどうやって? トヨタの「GR GT」の販売戦略を大胆予測NEW 2026.2.11 トヨタが「GR GT」で世のクルマ好きを騒がせている。文字どおり一から開発したV8エンジン搭載のスーパースポーツだが、これまでのトヨタのカスタマーとはまるで違う人々に向けた商品だ。果たしてどんな戦略で、どんな人々に、どんな価格で販売するのだろうか。
-
ガス代は下落しハイブリッド好調 では“燃費の相場”はどうなっている? 2026.2.9 暫定税率は廃止となり、高止まりしていた燃料代は下落。一方でBEV化の速度は下がり、ハイブリッド車需要が高まっている。では、2026年現在の燃費はいかほどか? 自動車購入時の目安になるであろう“燃費の相場”について考える。
-
ホンダの「Hマーク」がいよいよ刷新! ブランドロゴ刷新の経緯とホンダのねらい 2026.2.6 長く親しまれたホンダ四輪車のロゴ、通称「Hマーク」がついに刷新!? 当初は「新しい電気自動車用」とされていた新Hマークは、どのようにして“四輪事業全体の象徴”となるに至ったのか? 新ロゴの適用拡大に至る経緯と、そこに宿るホンダの覚悟を解説する。
-
ライバルはGR? ホンダが発表したHRCのモデルラインナップとその狙いに迫る 2026.2.5 ホンダが東京オートサロン2026で、HRC(ホンダ・レーシング)の名を冠したコンセプトモデルを6台同時に発表した。ホンダのカスタマイズカーとして知られるモデューロや無限との違い、そしてHRCをメジャーシーンに押し上げる真の狙いを解説する。
-
社長が明言! 三菱自動車が2026年に発売する新型「クロスカントリーSUV」とは? 2026.2.4 三菱自動車が2026年に新型クロスカントリーSUVの導入を明言した。かねてうわさになっている次期型「パジェロ」であることに疑いはないが、まだ見ぬ新型は果たしてどんなクルマになるのだろうか。状況証拠から割り出してみた。
-
NEW
第859回:トーヨーのSUV向け冬タイヤを北海道で試す! アナタのベストマッチはどれ?
2026.2.10エディターから一言トーヨータイヤが擁するSUV向けの冬タイヤに、北海道で試乗! スタンダードなスタッドレスタイヤから「スノーフレークマーク」付きのオールテレインタイヤまで、個性豊かな4商品の実力に触れた。アナタのクルマにマッチする商品が、きっとある? -
NEW
ホンダN-ONE RS(FF/6MT)【試乗記】
2026.2.10試乗記多くのカーマニアが軽自動車で唯一の“ホットハッチ”と支持する「ホンダN-ONE RS」。デビューから5年目に登場した一部改良モデルでは、いかなる改良・改善がおこなわれたのか。開発陣がこだわったというアップデートメニューと、進化・熟成した走りをリポートする。 -
NEW
開発したクルマについて、発売後にモヤモヤすることはある?
2026.2.10あの多田哲哉のクルマQ&Aセールスの良しあしにかかわらず、世に出たクルマに対して、その開発エンジニアがモヤモヤと後悔することがあるという。それは一体どうしてか? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんが語る。 -
ガス代は下落しハイブリッド好調 では“燃費の相場”はどうなっている?
2026.2.9デイリーコラム暫定税率は廃止となり、高止まりしていた燃料代は下落。一方でBEV化の速度は下がり、ハイブリッド車需要が高まっている。では、2026年現在の燃費はいかほどか? 自動車購入時の目安になるであろう“燃費の相場”について考える。 -
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】
2026.2.9試乗記「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。 -
トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”(前編)
2026.2.8思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”」に試乗。人気の都市型SUVに、GRのデザイン要素と走りの味つけを加味した特別なモデルだ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。











































