アバルト500C(FF/5AT)【試乗記】
どんなシーンでも 2010.11.29 試乗記 アバルト500C(FF/5AT)……339万円
かわいらしいイメージの「フィアット500C」にアバルト仕様が登場。ベースモデルとの走りの違いを確かめた。
これぞイタリアン
このクルマは、一種のファンカーと考えていいだろう。とはいえ、めっぽう速いその仕上がりはスポーツカー的でもあり、一方、乗り心地については日常のアシとして使える実用的な面も持ち合わせている。乗れば心をウキウキさせる楽しい情緒に満ちあふれ、クルマというよりも“人生の相棒”と呼ぶにふさわしい。こんなクルマは、ありそうでなかなか見つからないものだ。
イタリア人にこういうクルマを造らせると、天賦の才能を発揮する。
開発のベースとなったクルマは、言わずと知れた「フィアット500C」。まずこのクルマ自体が愛くるしい。見ているだけでほほ笑ましくなる容姿、顔立ちを備えている。
「500C」の車名にある「C」は幌型のカブリオレを示し、それは、サンルーフのように単に天井部分だけが開くものではない。今風に電動でオープンするのは当然として、全開にするとリアウィンドウごと畳んでしまう。分厚い幌は耐候性に優れ、閉めてしまえばスチールの天井より静かなほどだ。下ろした幌は後ろのほうで重なり合い、後方視界を多少妨げるものの、ドライバーの頭上が解放感で満たされることは言うまでもない。
もともとクローズドボディのクルマをカブリオレに改造する手法はさまざまだが、モノコックボディの一部を切開するのだから、その剛性は、ほぼ例外なく低下してしまうものだ。しかし、「500C」の場合には、ドアを取り囲むボディのサイド部をそのまま残すことで、骨格としての強度を確保し、同時に独特のスタイリングを手にしている。この装い、着こなしは、やはりイタリア人の美的センス。1150kgの車重から判断して、十分な補強も行われているはずだ。
スタートは、レースのように
重量を増したボディを運ぶパワーも、十二分に補われており、ターボ過給により140psと18.4kgmを得ている。
変速機は、5段MTをベースに自動的なクラッチ操作を行うタイプのオートマチック式で、本来シフトレバーがあるべき位置には、4つのボタンしかない。そしてステアリングホイールのリム裏側には変速パドルが備わっており、雰囲気的には「フェラーリ458イタリア」を思わせる。
ステアリングホイールの奥に潜む、巨大な一眼メーターには、中心軸をともにする速度計や回転計が備わる。適度に光り物を配するデザイン手法は、華やかで、にぎやか。中途半端な小型車にはない“リッチな感覚”すら漂うが、なにせナリが小さいゆえに、一種のユーモラスさもある。この辺の演出はさすがで、決して「アバルト」の名に恥じないものだ。
4つのボタンは「A(オート)/M(マニュアル)」の切り替えボタンと「1(ロー)」「N(ニュートラル)」「R(リバース)」であるが、安全性にはぬかりなく、ブレーキペダルを踏んでいる時以外は、「1」と「R」にはシフトできない。
交差点などでの信号待ちは、「1」にシフトしたままブレーキを踏んで待ってもいいが、それを長時間行うのは機械のために良くないという心理から、「N」で待って発進時に「1」を押す。ブレーキを踏んでいないと「1」には入らないから、いずれにせよ停止時にはブレーキを踏んで待つ。そうして信号が変わるまでの間、左手の中指は「1」ボタンの上で待機。信号が変わると同時に押して、ブレーキペダルをリリースしつつスロットルを開ける、左手もすかさずハンドルに戻してシフトパドル操作に備える。
こんな風に信号待ちのたびに繰り返されるセレモニーは、ちょっとGPレースのスタートを連想させる。この場合、ブレーキはもちろん左足で踏み続けることになり、MT車でクラッチを離す感覚さえある。それなりに両手両足をフルに使うため、オートマチック車にありがちな退屈さや眠気から解放される。
過給エンジンゆえに加速初期の立ち上がりがやや緩慢な性格に対しても、ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み換えるより、それぞれの操作を別々の足で行うほうが、レスポンスの点で理想的だ。踏み間違えをしてしまう心配もない。
「うれしい誤算」の乗り心地
195/45R16という、オーバーサイズにも見えるタイヤ&ホイールは、「まあ カッコも大事だし、イタリア流ということで許さねば……」くらいに考えていた。ノーマルのチンクエチェント(185/55R15)でさえ、バネ下重量は重めなのだ。
しかし、走りだしてみるとうれしい驚き。同じアシを持つ「フィアット・パンダ100HP」のオーナーとしては、うらやましい限りだ。
何と乗り心地は大きく改善されていて、姿勢はフラットでピッチングはほぼ解消されている。チューニングが進んで特にバネ系の前後バランスが程よく選定されている。これで走りは完璧。カブリオレになって重量は後輪で100kg程重くなっていることも効いているのだろう。
ターボの加速感は、NAで100psを発生する同型エンジンの生き生きした感覚はないものの、ターボラグを少しだけ待てば、期待にたがわぬ爽快(そうかい)さをもって吹けあがる。乗り心地は重厚と言ってもいい。
たとえこのクルマの魅力の大半を占める“ファンな部分”を一切忘れてしまったとしても、339万円の価格に見合うだけの所有する喜びは十分に得られる。オープンもよし、ルーフを閉じてエアコンを効かせるもよし。時にはスポーツカーになり、時にはルーフを開けて長尺物を積むのもよし。もちろんデートカーにも使えて、話題には事欠かない。とにかく多用途に使えて、便利な1台である。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
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