第170回:スローな東京ブギウギにしてくれ! 光岡自動車で考えた
2010.11.27 マッキナ あらモーダ!第170回:スローな東京ブギウギにしてくれ!光岡自動車で考えた
意外なほどに変化する東京
先日、東京に滞在した。
成田から都心に向かう空港バス内では、井上陽水「TOKYO」や小田和正「東京ラブストーリー」から、ザ・ピーナッツ「ウナ・セラ・ディ東京」、笠置シヅ子「東京ブギウギ」まで、東京にまつわる曲ばかりをiPodで聴きながら昔の東京に思いをはせる、というのが毎回ボクの習慣である。
ちなみに恥ずかしながら、「ウナ・セラ・ディ東京」とは「Una sera (一夜)」のことだとボクが気がついたのは、イタリアに住んでからだった。日本のカタカナ表記は、ときに外国語理解の妨げとなる。
しかし、実際の東京は、そうしたイメージに「全消去ボタン」を押そうとしているかのごとく目まぐるしく変化していた。
秋葉原の家電量販店では、日本人の店員さんを探すのに苦労するようになっていた。外国人店員さんの中にも、ボクのイタリア語やフランス語とは比べものにならないくらい、日本語がうまい人がいる。
イタリアやフランスの家電量販店などでは、中東出身のスタッフなど昔から当たり前だ。だから、そうやって働いている人たちを、どうこう言うつもりは毛頭ない。言いたいのは、日本人店員を減らしてもいいところまで、日本人の購買力が下がり続けているということだ。
また、スーパーやデパートに陳列されている製品や食品を見ると、「日本製」と書かれているものが去年よりさらに増えていた。ボクが1990年代、アメリカで雑貨を探すたび、アジア製でないことを強調すべく「MADE IN USA.OUR PRIDE」などと書かれていたものだが、あれを今、日本が繰り返す時代になったのだ。
気分はシェルブール
クルマの話もしよう。女房の実家近くでのことだ。エアロ系の軽自動車ばかりが何台も集っているので、そうしたクルマのファン集会かと思って近づいてみた。だが、そこは学童クラブで、クルマはすべて子供のお迎え用だった。ふと見るとクルマの陰で、ママたちがしゃがんで話し込んでいたので、ボクは気づかれないように立ち去った。
最近の日本の軽自動車は工場出荷時からエアロ系っぽい格好になっていることを認識し、今さらながら複雑な気持ちになった。
いっぽう銀座では、もっと衝撃的なことがあった。
何度その界隈を通っても「ない」のである。何が? って、銀座と新橋の間にあった「ヤナセ銀座スクエア」だ。
交番巡査に聞くと、「見落としたんじゃないですか」と言う。仕方がないので、もういちどだけ銀座から新橋に向かって歩いてみることにした。そして、ようやく張り紙のあるビルを発見。そこには「ヤナセ銀座スクエアは2010年7月15日をもって閉館」と書かれていた。子供の頃から、親と銀座に行くたび楽しみにしていた店が消えてしまっていた。
1964年の有名なフランス映画「シェルブールの雨傘」で、戦争から帰ってきた若者(ニーノ・カステルヌオーヴォ)が、恋人(カトリーヌ・ドヌーヴ)の雨傘店を訪ねると、とっくに売り払われてコインランドリーに変わっていた、というあのシーンが重なって泣けてきた。
日本の商店にも昼休みを!
いっぽうで、これだけ社会情勢が変わっても、なかなか変わらないものもある。イタリア生活にどっぷり漬かっている身からすると、「そこまで要らないんですけど」というサービスだ。
たとえば小包を運ぶ宅配便。
「そんなに急がないんですけど」というモノでも翌日配達になってしまう。だからといって期日指定をしても、料金は安くならない。「遅くて安い」となると、小さなサイズ限定、かつ郵便ポストに投函されてしまうタイプしかない。
集荷時刻はより遅く、配送時間は翌日できるだけ早く、というサービス合戦は、まだまだ続いているようだ。
恩恵を受けている企業は多いのかもしれないが、ボクからすれば「もう少し配送日数かかっていいから、料金安め」という選択肢も設定してくれればいいのに、と思う。それのほうがトラックドライバーのストレスも減り、ひいては交通安全につながると思う。
スーパーや家電量販店の長時間営業もどうか? と思う。そうした店の多くは、お客さんがたいして多くない時間帯でも店をひたすら開けている。そして店員さんは、必要最小限の人数でやっている。質問があっても店員さんをつかまえるのがやっと。ようやくつかまえても、お目当てのメーカーのことは知らない、他社から来た販売応援員だったりする。
そこでこちらも提案。営業時間は短くていい。いや、イタリア式に毎日2時間近い昼休みをとらせてあげよう。そのかわり、開店しているときは商品知識豊富なスタッフがバッチリいる店というのは、できないものか。
イタリアに住んでいるとわかるが、たとえ昼休みで店が閉まっちゃっても、日曜定休でも、客がそれに合わせればいいだけだ。「慣れればなんとかなる」のである。店員さんも、休息を多くとれば、もっと仕事にも精が出るだろう。
もちろん顧客志向は大切だ。それはイタリアの殿様商売に泣かされているボクには痛いほどわかる。しかし、お客が望む以上の配送時間短縮や長時間営業を提供したあげくに働く人がハッピーになれないこの状況は、そろそろ考え直したほうがいいんじゃないか、と日本を眺めて思うのである。
「光岡モード」に、ほのかな期待
そんな東京滞在中、ちょっと印象的な新車発表会があった。すでに報道でご覧になった読者も多いと思われるが、2010年11月11日に行われた光岡自動車の新型「ガリュー(我流)」の発表会だ。車両自体は「日産ティアナ」をベースにしたものだが、興味深かったのは席上で示された企業姿勢である。
現在光岡は「世界中で光岡のクルマが走れば楽しいなと思う」として東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国などへの進出計画を一歩一歩進めている。
しかし同時に
「手の込んだ車は生産台数が限られる」
「私たちはささやかな、田舎の会社」
「時代に逆行したアナログ感覚」
といった言葉が用いられた。
規模の小ささをよしとする、この反拡大志向は、まさに往年のイタリアにおける、フィアット車をコツコツとモディファイしていた小カロッツェリアと同じである。
光岡製モデルの顧客イメージも面白い。
「どんな高級車に乗っても交差点で誰も振り向かれないが、光岡のクルマに乗っているとみんなに注目され、ときには写真を撮られる、といったことに喜びを感じる人」なのだそうだ。
限られた人に満足してもらうため、仕事をする。これも昔のカロッツェリア・イタリアーナではないか。
もちろん、日本全体が「光岡モード」にはなれない。だが、機関車のごとくひたすら突っ走ってきた日本の産業に、スローなモードへの発想転換を促す鍵が光岡にあるのではないか? と、ボク自身はほのかな期待を抱いたのだった。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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