日産GT-Rシリーズ【試乗記】
ついに完成した 2010.11.26 試乗記 日産GT-Rシリーズマイナーチェンジで各部が大幅にブラッシュアップされた「日産GT-R」。サーキット、そ
して一般道で試乗し、熟成の度合いを確かめた。
スペック以上の進化
早いもので、もう3年である。「日産GT-R」のデビューからの年月の話だ。実は最初のモデルは自分でも購入した。しかし圧倒的な高性能の一方で、ドライバーに訴えかけるような部分が希薄に感じられたことなどから、すでに手放してしまった。しかしGT-Rの進化は常に気になっていて、これまで幾度かのバージョンアップでの完成度の高まりには、満足感に似た感情を味わってきたのも本当である。
そんなふうに個人的にも思い入れのあるGT-Rが、2011年モデルへと発展した。変更内容はこれまでで最大級。いよいよGT-Rの世界はこれで完成と高らかにうたわれているのだから、注目せずにはいられない。実際、変更点はまさに枚挙にいとまがないほどで、エンジンは出力と燃費をともに向上させ、ボディも剛性アップ。サスペンションやタイヤ、制御系に内外装の意匠等々、全身のほとんどの部分に大小何らかの手が入れられている。
そんな11年モデルのGT-Rに、開発のホームコースでもある仙台ハイランドレースウェイ、そして一般道にて丸1日たっぷり試乗した。あらかじめ言っておこう。その進化はスペック以上のものだったと。
まずはいきなりサーキットでの試乗。ステアリングを握ったのはベーシックグレードの「ピュアエディション」である。ピットロードを進む段階でハッキリとわかったのは、サスペンションの動きが格段にしなやかさを増したことだ。小刻みに上下に揺すられる動きが無くなり、しっとりとした接地感が伝わってくる。最初のコーナーからステアリングの手応えに信頼がおけ、より自信を確かにアクセルを踏み込むことができた。
しなやかな接地感
それにしても、これまでだって敵なしだった速さが、明らかに一段上のレベルに達していたことには度肝を抜かれた。エンジンのフィーリングは良くも悪くもそれほど変化は無く、やや無機質な味わいながら、加速はとにかく強烈で、最初は目が追いつかなかったほど。しかしそれに慣れてくると、クルマの動き自体はつかみやすくなっていると気付く。刷新されたダンロップタイヤの分だけでも、ドライで1周あたり1.5秒速くなっているというのにもかかわらず、だ。
筆者のスキルではその実力をすぐに余さず引き出すなんてかなわず、進化の度合いについてなにかを語るには、正直言ってもっと周回数が欲しいと感じた。しかし単に「速い!」ではなく、もっとじっくり走り込んでみたいという気持ちになったのは、それに応えてくれそうな懐深さ、クルマとの対話を深めて、ポテンシャルを引き出すよろこびを、短い時間のなかでも垣間見ることができたおかげである。
ちなみに約100kgの軽量化、専用スリックタイヤの採用等々を行ったサーキット専用車の「クラブトラックエディション」は、GT-Rのそうした部分を抽出した存在と言える。その販売方法や価格を納得できる人にとっては、なるほどコレ、いいオモチャになりそうだ。
しかしなにより感慨深かったのはワインディングロードでの走りっぷりである。サーキットでの印象と同じく、接地感はしなやかで目線の上下のブレも少ない。轍(わだち)で進路がふらつくことも随分少なくなって、多少路面が荒れていようと、余裕をもってラインをトレースできる。さらに、ステアリングの手応えが生き生きとして、手のひらでクルマの動きを逐一感じられるようになった。これは大きい。今まで公道でのGT-Rは、ある人の言葉を借りれば「ずっとピットロードを走らされているみたい」にも感じられた。本領を解き放てるサーキットの本コースに出るまでのもどかしい時間が、ずっと続いているかのようで、フラストレーションが溜まるばかりだったのだ。そんなGT-Rが、2011年モデルでは一般道でも走りを楽しいと感じられるクルマに変わっていたのである。
従来モデルもバージョンアップ可能
GT-Rプロジェクト責任者のご存じ、水野和敏氏によれば、「パワーステアリング内部のバルブの段付きが取れ、正確な手応えが伝わるようになったことが効いているのでは」という。無論、それとて理由のごく一部にしか過ぎないはず。こんな具合でおそらくこの新しいGT-R、まだまだ明らかにされていない進化、改良がそこかしこで行われているに違いない。そうして本来狙った性能をフルに発揮できるようになった結果が、自然と「味」なり「情感」につながってきたのではないだろうか。そんなふうに考えたら、3年で完成というのも納得できる気がして、そして……また一緒に暮らしてみる? なんて思ってしまったのだった。
ずっと一緒に暮らしてきた現ユーザーに向けては、これまでと同じく最新モデルの内容を採り入れたバージョンアップキットが用意される予定だ。また認定中古車には新たに、購入時にのみ選択できる専用オプションのアドバンスキットも設定。これはR32〜R34型GT-Rユーザーの乗り換えを狙い、回頭性の良さに力点を置いた専用セッティングを施したサスペンションなどをセットにしたもの。現行型の開発チームがこうしたものを仕立て、用意するというのは言うまでもなく異例のことだ。
また、新グレードである「エゴイスト」の登場にも触れないわけにはいかない。インテリアやオーディオなどをユーザー1人1人の個性に合わせてつくりあげる、なんと「スペックV」に匹敵する約1500万円のプライスタグを掲げるこのモデルも、間違いなくGT-Rの世界を拡大するものだと言えるだろう。
さすがGT-R、登場から3年がたってもなお、限られたスペースでは書き尽くせないほど話題は豊富だ。正直、相当な部分を端折らざるを得なかったのが、書いていても残念なほど。いずれにせよ、ついにその世界はひとつの完成へと至った。あるいはGT-Rは、これからが面白いところなのかもしれない。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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