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目指すは死亡事故ゼロ! スバルの安全技術開発は今どうなっている?

2024.06.27 デイリーコラム 鈴木 真人
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重要度を増すテクノロジー

スバルの「クロストレック」と「インプレッサ」が、自動車アセスメント「JNCAP」で「自動車安全性能2023ファイブスター大賞」を受賞した。国土交通省と自動車事故対策機構(NASVA)が行うテストにおいて、衝突安全性能と予防安全性能の総合評価で最高得点を獲得したのだ。素晴らしいことで、お祝いを申し上げるとともに安全への取り組みを続けていることに感謝したい。動力性能やデザインは自動車の大切な魅力だが、昨今では安全性能がそれらと同等の価値を持つようになっている。購入動機のなかでも、かなり優先度の高い指標なのだ。

そのスバルは2024年6月18日、テックツアー「SUBARUの事故低減に向けた取り組み ~総合安全性能の進化~」と題したオンライン取材会を開催した。今回の受賞の詳細を報告しながら、スバルの安全思想をあらためてアピールする狙いである。

スバルは、クルマの安全技術を4つに分類して開発してきた。それが「0次安全」「走行安全」「予防安全」「衝突安全」で、これに「つながる安全」も加え、交通事故の削減を目指している。

究極の目標として掲げているのは、「2030年死亡交通事故ゼロ」という大きなテーマだ。現時点では全体の94%をカバーする技術構築に取り組んではいるものの、6%の壊滅的な事故には対応できていない。安全技術は開発途上であり、まだまだ課題が残されている。

スバルのクロスオーバーSUV「クロストレック」は、同世代の「インプレッサ」とともに、国土交通省と自動車事故対策機構(NASVA)が行う自動車アセスメント「JNCAP」において、2023年度の衝突安全性能と予防安全性能の総合評価で最高得点を獲得。「自動車安全性能2023ファイブスター大賞」を受賞した。
スバルのクロスオーバーSUV「クロストレック」は、同世代の「インプレッサ」とともに、国土交通省と自動車事故対策機構(NASVA)が行う自動車アセスメント「JNCAP」において、2023年度の衝突安全性能と予防安全性能の総合評価で最高得点を獲得。「自動車安全性能2023ファイブスター大賞」を受賞した。拡大
JNCAPのオフセット衝突テストに用いられた、「スバル・クロストレック」の実験車両。新世代プラットフォームを採用する同モデルでは衝突安全性能のレベルアップも図られており、クラッシャブルゾーン(フロント)を効果的に折れ曲がらせる一方、キャビンへの影響は最小限に抑えられている。
JNCAPのオフセット衝突テストに用いられた、「スバル・クロストレック」の実験車両。新世代プラットフォームを採用する同モデルでは衝突安全性能のレベルアップも図られており、クラッシャブルゾーン(フロント)を効果的に折れ曲がらせる一方、キャビンへの影響は最小限に抑えられている。拡大
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さまざまなフェイズでより安全に

筆者は、2022年12月にもスバルのテックツアーについて記事を書いた(関連記事)。1年半後にまた同じテーマで開催したのは、その間に技術的な進歩があったということである。前回は「0次安全と走行安全で37%、予防安全で57%、衝突安全とつながる安全では62%の事例で事故回避・被害軽減に役立てられた」と発表していたが、今回はそれぞれ43%(+6ポイント)、58%(+1ポイント)、78%(+16ポイント)で、全体的な向上が見られる。

0次安全では後方を含む良好な視界を確保し、夜間の視認性を高めるためにアレイ式アダプティブドライビングビームとLEDコーナリングランプを採用したことが挙げられた。予防安全では、もちろん「アイサイト」の機能向上である。ステレオカメラとレーダーに広角単眼カメラを追加したことで、より広範囲で高精度な認識性能が得られたという。

実際の交通事故は交差点で発生するケースが多く、右左折時に歩行者や自転車との接触を避けることは最重要課題だ。周囲に注意をはらいながら運転していても、人間の目には限界がある。視野は約200度とされるが、有効視野はせいぜい20度、注視できるのは2度程度しかない。周囲のクルマにも目を向ける必要があり、歩行者や自転車を見落としてしまう可能性がある。安全性を高めるには、広い視野を持つ“機械の目”で認識することが不可欠なのだ。

予防安全の次の局面となる衝突安全の分野では、「スバルグローバルプラットフォーム」を進化させることで性能を向上させた。バンパービームを拡幅し、車高の高いクロストレックは下部にサブフレームを配置することで対応する。乗員の保護だけでなく、対人被害軽減のために歩行者保護エアバッグも標準化。スバルでは現在7車種で標準装備となっているそうだ。

テックツアーではそれそれの部署のエンジニアが最新技術について解説し、動画や画像を使って現在の達成状況をわかりやすく見せた。ただ、正直に言うと見ていてさほど面白いものではない。確かに技術は着実に改良されているようだが、基本的には以前から使われているものだ。他メーカーでも似たような安全技術をアピールしているから、いまさら驚くような目新しさは期待するべくもない。

さまざまなステージにおける事故回避・被害軽減のカバー率を示す、スバルの資料。各段階での安全性は確実に向上しているものの、まだ100%の達成には至らず。同社では「2030年死亡交通事故ゼロ」の目標に向けてまい進するとしている。
さまざまなステージにおける事故回避・被害軽減のカバー率を示す、スバルの資料。各段階での安全性は確実に向上しているものの、まだ100%の達成には至らず。同社では「2030年死亡交通事故ゼロ」の目標に向けてまい進するとしている。拡大
ステレオカメラを使ったスバル独自の運転支援システム「アイサイト」は、最新バージョンで新たに「広角単眼カメラ」も追加。人間の限られた視野では見落としがちなシーンを捕捉することが可能となった。スバルは現在AMDとの協業も進めており、その成果として、例えば「ドライバーが回避行動の判断を迷うような複雑なシーン」にも即応できるようになるという。
ステレオカメラを使ったスバル独自の運転支援システム「アイサイト」は、最新バージョンで新たに「広角単眼カメラ」も追加。人間の限られた視野では見落としがちなシーンを捕捉することが可能となった。スバルは現在AMDとの協業も進めており、その成果として、例えば「ドライバーが回避行動の判断を迷うような複雑なシーン」にも即応できるようになるという。拡大

スバルならではの強み

しかし、それは悪いことではない。こういった安全技術が当たり前のものになったことを示しているのだ。予防安全の分野では、スバルは間違いなくパイオニアである。アイサイトが登場したのは2008年。ステレオカメラで周囲を認識し衝突被害軽減ブレーキを備えるシステムを、世界で初めて商品化したのだ。他メーカーも追随したが、先行したアイサイトはこのような装備の代名詞的存在となった。スバル以外のブランドのディーラーでも、「アイサイトの付いたクルマはどれですか?」と尋ねるユーザーが続出したといわれる。

筆者は2015年、ある元メジャーリーガーにインプレッサを試乗してもらうという、変わった仕事をしたことがある。クルマ好きを自任する彼だが、運転支援システムは初体験。「全車速追従機能付きクルーズコントロール」を使うと、「え、これ本当に、前のクルマとの車間距離を保ってついていくんだ!?」「ブレーキ踏まなくていいって、こんなに楽なんだ!」と大興奮だったのを覚えている。9年前はまだそんな状況だったのだ。

2024年6月22日に放送されたNHK『新プロジェクトX~挑戦者たち~』のタイトルは「夢は、交通事故ゼロ~自動ブレーキへの挑戦~」。もちろん、スバルのアイサイト開発のことだ。わずか4人で開発を始め、一時は予算を20分の1に減らされたこともある。社内でも意義を疑問視されていたが、大メーカーに先駆けて画期的なシステムを完成させた。番組冒頭で流れる中島みゆき『地上の星』の「♪風の中のすばる」という歌詞がまさにこの開発チームのことを歌っているように思えた。

“中島”つながりでいうと、スバルのルーツは中島飛行機である。この日の発表でも、関係者が、スバルの安全思想の原点が飛行機づくりにあることを誇らしげに語っていた。小さな不調でも墜落の危険につながる飛行機は、高度な安全技術が求められる。それが自動車でも生かされたわけだが、現在は逆に、これまで培われた乗員保護の知見などが飛行機製造の現場にフィードバックされているという。テックツアーには航空部門のエンジニアも参加して、コラボの成果を披露した。他メーカーにはない強みである。スバルの安全技術には100年を超える歴史の裏づけがあることを、あらためて実感することになった。

(文=鈴木真人/写真=スバル/編集=関 顕也)

近年では、トラブル時・緊急時に乗員の安心感を高め命を救う「つながる安全」も、安全性能の重要な要素とされる。具体的には、衝突事故発生時の自動通報機能や、あおり運転などに遭遇した際に頼れる「SUBARU SOSコール」、故障時のレッカーサービスに対応する「SUBARU安心ほっとライン」などが用意されている。
近年では、トラブル時・緊急時に乗員の安心感を高め命を救う「つながる安全」も、安全性能の重要な要素とされる。具体的には、衝突事故発生時の自動通報機能や、あおり運転などに遭遇した際に頼れる「SUBARU SOSコール」、故障時のレッカーサービスに対応する「SUBARU安心ほっとライン」などが用意されている。拡大
スバルの「アイサイト」開発への取り組みは、NHKのドキュメンタリー番組『新プロジェクトX~挑戦者たち~』でも取り上げられた。初回放送は2024年6月22日。再放送は同年6月29日の予定で、いわゆる“追っかけ放送”の「NHKプラス」でも同年6月29日8時14分まで配信されている。(写真は同番組のオフィシャルサイトのイメージ)
スバルの「アイサイト」開発への取り組みは、NHKのドキュメンタリー番組『新プロジェクトX~挑戦者たち~』でも取り上げられた。初回放送は2024年6月22日。再放送は同年6月29日の予定で、いわゆる“追っかけ放送”の「NHKプラス」でも同年6月29日8時14分まで配信されている。(写真は同番組のオフィシャルサイトのイメージ)拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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