クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

マクラーレン・アルトゥーラ スパイダー(MR/8AT)

新世代のエース 2024.07.03 試乗記 渡辺 敏史 「マクラーレン・アルトゥーラ」にオープントップの「スパイダー」が登場。ルーフの開閉機構が組み込まれただけでなく、ランニングチェンジでパワートレインやシャシーが進化しているのも見逃せないポイントだ。モナコを舞台にドライブした。
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

コモンアーキテクチャーの第2章

商業的にはともあれ、圧倒的なパフォーマンスでスポーツカーの歴史に名を刻んだ「マクラーレンF1」。その栄光を背景に、本格的なプロダクションモデル製造への道筋を歩むべく、マクラーレン・オートモーティブが発足したのが2010年のことだ。そして第1弾となる「MP4-12C」が2011年に登場してから、13年の時がたつ。

この間、マクラーレンは着々とそのファミリーを増殖させ、当初は「アルティメイト」「スーパー」「スポーツ」の三段構えで考えられていたラインナップのマトリクスが多面化していった経緯がある。片や「GT」シリーズのようなラグジュアリースポーツもあれば、「エルバ」や「スピードテール」のような吹っ切れたアルティメイトもあり……と、モデルの硬軟も含めてレンジが広がったというわけだ。

が、大枠で共通していたものが2つある。ひとつはモノセル/モノケージと呼ばれるカーボンタブを核としたシャシーコンストラクション、もうひとつは共同開発元のリカルドが生産を担うM838/M840系の90度V8直噴ツインターボユニットだ。いってみればマクラーレンはMP4-12Cを始点にGTからエルバまで、マツダのようなコモンアーキテクチャー戦略でマトリクスを広げてきたということになるだろう。うちはリアミドシップ専業でいくとハナから腹をくくっていたからこそ、技術も資金もそこに全集中できたともいえる。

アルトゥーラはいってみればマクラーレンのコモンアーキテクチャーの第2章となり得るモデルだ。その根拠となるのはモノセル/モノケージの経験を生かして新たな生産設備でつくられるMCLAアーキテクチャーの採用と、これまた専用設計の電動パワートレインの採用にある。

2024年2月27日に世界初公開された「マクラーレン・アルトゥーラ スパイダー」。早くも4月11日には国内でも披露されている。
2024年2月27日に世界初公開された「マクラーレン・アルトゥーラ スパイダー」。早くも4月11日には国内でも披露されている。拡大
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4539×1913×1193mm。後方にはモナコの街並みが見える。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4539×1913×1193mm。後方にはモナコの街並みが見える。拡大
シャシーには「MP4-12C」以来の知見が注ぎ込まれた新世代のMCLAアーキテクチャーを採用している。
シャシーには「MP4-12C」以来の知見が注ぎ込まれた新世代のMCLAアーキテクチャーを採用している。拡大
タイヤはフロントが235/35ZR19 でリアが295/35ZR20。専用開発の「ピレリPゼロ コルサ」を履く。
タイヤはフロントが235/35ZR19 でリアが295/35ZR20。専用開発の「ピレリPゼロ コルサ」を履く。拡大
マクラーレン の中古車webCG中古車検索

スケルトン仕上げのバットレス

その初出となるクーペは2022年に登場するも、パワートレインだけではなく電子プラットフォームも完全刷新されたこともあって性能安定には手こずったようだが、今やポテンシャルのマージンを見直す余裕が出てきたのか、2025年型ではクーペのスペックがプログラムアップデートによって一気に底上げされた。ちなみにこのプログラムの一部は既納車両にも適応されるという。

そして、これを契機に投入されたのがオープンモデルのスパイダーだ。ルーフパネルの開閉に要する時間はそれぞれ約11秒、50km/h以下であれば走行中でも開閉が可能というスペックは「750Sスパイダー」と同じ。オプションで透明度の変更が可能なエレクトロクロミックガラスルーフを選ぶこともできる。

こだわってるなぁと思うのはルーフトップからリアエンドへとつながるバットレスがスケルトン仕上げになっていることだ。シャシー構造的にはストレスメンバーにはあたらない部位ということもあって、視認性を確保すべくそういう処理を施してある。750Sもしかり、マクラーレンの視界に対する執着はライバルとは一線を画す個性でもあるが、このかいあってアルトゥーラ スパイダーも斜め後方の視界が望外に抜けており、死角低減に大きく寄与している。

マクラーレンのこだわりといえばコックピット環境もしかりだ。握りの細いステアリングは断面も指先や手のひらでの微細な入力が加えやすい形状を追求しており、それに合わせるようにウインカーレバーの操作感、さらにはクリックの加減に応じて変速時間が異なるシフトパドルのタッチや形状など、子細なところまでがきっちりと煮詰められている。テスト車は試乗会の開催国に合わせて左ハンドルだったが、右ハンドルのステアリングやペダルレイアウトに妥協がない点も含めて、運転動作に引っかかりのない空間と接点を完璧なまでに追求していることが、座って触れば伝わってくる。先のコモンアーキテクチャーの話を持ち出してしまうが、この点もマツダのそれとかぶるところだ。

電動リトラクタブルハードトップの開閉に要する時間はそれぞれ約11秒。50km/h以下であれば走行中でも操作を受け付ける。
電動リトラクタブルハードトップの開閉に要する時間はそれぞれ約11秒。50km/h以下であれば走行中でも操作を受け付ける。拡大
オープントップ化に伴ってリアのエアベントを「クーペ」よりも後ろにレイアウトしている。
オープントップ化に伴ってリアのエアベントを「クーペ」よりも後ろにレイアウトしている。拡大
オープントップモデルでありながら上に開くディヘドラルドアを採用。マクラーレンの他のラインナップよりもドアオープン時のサイドへの張り出しが小さいのも特徴のひとつ。
オープントップモデルでありながら上に開くディヘドラルドアを採用。マクラーレンの他のラインナップよりもドアオープン時のサイドへの張り出しが小さいのも特徴のひとつ。拡大
 ルーフトップとリアエンドをつなぐバットレスはスケルトン仕上げに。マクラーレンの視界に対する力の入れ方はライバルとは一線を画す。
 ルーフトップとリアエンドをつなぐバットレスはスケルトン仕上げに。マクラーレンの視界に対する力の入れ方はライバルとは一線を画す。拡大

ひたむきなまでの軽量化

考えてみればマツダが一括企画やMBDを伴って初代「CX-5」で商品群がまったく新しいフェイズに入ったのは2011年。MP4-12Cが登場したのと同じ年でもある。規模やカテゴリー的にはまったく異なる両社ながら、持ち得るソリューションでクルマづくりの理想と現実を突き詰めると同じようなアウトプットに収束したのかもしれない……と、そういうことを考えたりもする。

搭載するパワートレインは3リッターV6ツインターボと駆動用モーターの組み合わせ。今回のアップデートで内燃機側のマネジメントの改変で20PSが上乗せされた。これに小型でも高トルクを発するアキシャルギャップモーターを組み合わせての総合出力は700PSの大台に乗せている。ちなみに搭載されるM630Tユニットは120度バンク角を持つ完全専用設計で、生産は750Sなどに搭載されるM840Tユニットと同じリカルドが担当。GT4車両が搭載するのもM630Tとなる。

駆動モーターは95PS/225N・mで、130km/hまではモーターのみでの走行が可能だ。シート背後に搭載されるバッテリーの容量は7.4kWhと変わりはないが、今回のマネジメント変更によりモーター走行での航続可能距離が30kmから33kmへと1割延びている。電動化にまつわるシステム重量は130kgとなるが、この増加分を可能な限り相殺すべくエンジン本体でM840Tに対して-50kgを筆頭に、車台や配線に至るまで軽量化を積み重ねている。

その車台=MCLAアーキテクチャーはシェフィールドにある最新のテクノロジーセンターで自社生産される。一部アルミセクションとモールディングで一体成型されるその重量は82kgと「570S」のモノケージに対して約10%の軽量化を果たした。加えて車内通信をイーサネット化したことでワイヤハーネスの重量を約25%減らしている。スパイダー化による重量増は約60kg。それでも、これらの減量が奏功して、おそらく「296GTS」を指すだろう“ライバル”に対して80kg以上軽く仕上がっているという。

3リッターV6ツインターボエンジンとモーターを組み合わせたパワーユニットは最高出力700PSを発生。EV走行換算距離は33km(WLTPモード)。
3リッターV6ツインターボエンジンとモーターを組み合わせたパワーユニットは最高出力700PSを発生。EV走行換算距離は33km(WLTPモード)。拡大
飾り気の一切ないキャビンはまさにコックピット。マクラーレンらしく視界や広さなど、ドライバーにとって一切のストレスがない空間に仕上がっている。
飾り気の一切ないキャビンはまさにコックピット。マクラーレンらしく視界や広さなど、ドライバーにとって一切のストレスがない空間に仕上がっている。拡大
電気的にルーフの透明度を変えられるエレクトロクロミックガラスルーフも採用。ルーフを開けられない状況でも開放感が得られる。
電気的にルーフの透明度を変えられるエレクトロクロミックガラスルーフも採用。ルーフを開けられない状況でも開放感が得られる。拡大
シフトセレクターは「D」「N」「R」を縦に並べたプッシュボタン式。各ボタンを大きくし、高低差もつけることで操作ミスを防いでいる。
シフトセレクターは「D」「N」「R」を縦に並べたプッシュボタン式。各ボタンを大きくし、高低差もつけることで操作ミスを防いでいる。拡大

700PSを持て余さない接地感

アルトゥーラ スパイダーはモーターでの走りだしから、その印象は軽さや小ささが表立って感じられる。0-100km/h加速がクーペとピタリ同じ3秒フラットというのは、まさにトルクで押し込むモーターとの合わせ技がゆえというところだが、おそらくクーペとの重量差を感じる場面はよほどの腕利きがサーキットに持ち込んでシゴき上げるくらいのことをしなければ表れることはないだろう。剛性的にもそもそも天板は構造材には入っていないため、公道レベルでは大入力時にも屋根の有無の差を感じることはない。試乗コースには南欧によくあるタイトでバンピーなワインディングロードも含まれていたが、車体はきしみのひとつもみせなかった。

そのバンピーなワインディングで驚かされたのがビタビタに路面を捉えるフットワークだ。可変ダンピングシステムは今回のソフトウエア更新で応答速度が最大90%も向上したというが、その乗り味は確かに初出時のクーペから体感できるほどの進化を遂げている。低速域での乗り心地、高速巡航でのフラット感はもとより、車体が激しく上下する過酷な路面状況でも路面追従性は見事なもので、その操舵感や蹴り出しからは、タイヤがみっちりとコンタクトしていることが伝わってくる。付け加えればアルトゥーラは他のモデルと同様、パワーステアリングを電動油圧式としており、その操舵フィールの濃度やリニアさも個性のひとつといえるだろう。

強力なロードホールディング性から得られる安心感のおかげで、過酷な路面でさえ700PSものパワーを持て余さない。アルトゥーラは駆動モーターのおかげで得られる低中回転域でのパンチ力がスポーツドライビングにおいても個性となるが、その推進力もちゅうちょなく伝えることができる。

ラリー・モンテカルロのSSともかぶるシチュエーションをコースに選んだエンジニアの自信はしかと感じ取ることができた。アルトゥーラシリーズはスパイダーの追加を機に、トップレンジである750Sの側に限りなく近いドライバビリティーをコンパクトな車体に詰め込んだ、マクラーレンの中軸足り得るモデルへと昇格したといえるだろう。

(文=渡辺敏史/写真=マクラーレン・オートモーティブ/編集=藤沢 勝)

プロアクティブダンピングシステムは「クーペ」の初期モデルと比べて反応スピードが最大90%も向上。見事な路面追従性を味わえた。
プロアクティブダンピングシステムは「クーペ」の初期モデルと比べて反応スピードが最大90%も向上。見事な路面追従性を味わえた。拡大
厚みを抑えながらクッション性に優れたシートもマクラーレンならでは。サイドのサポートを過度に高くしていないため乗り込みやすい。
厚みを抑えながらクッション性に優れたシートもマクラーレンならでは。サイドのサポートを過度に高くしていないため乗り込みやすい。拡大
リムの細さが好印象のステアリングホイールのアシストは電動油圧式。濃厚な操舵フィールを味わえる。
リムの細さが好印象のステアリングホイールのアシストは電動油圧式。濃厚な操舵フィールを味わえる。拡大
インフォテインメントシステムが「Apple CarPlay」などのスマートフォン連携にネイティブ対応したのもトピック。オプションながらスマートフォンのワイヤレス充電器も装着できる。
インフォテインメントシステムが「Apple CarPlay」などのスマートフォン連携にネイティブ対応したのもトピック。オプションながらスマートフォンのワイヤレス充電器も装着できる。拡大

テスト車のデータ

マクラーレン・アルトゥーラ スパイダー

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4539×1913×1193mm
ホイールベース:2640mm
車重:1457kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:アキシャルフラックスモーター
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:605PS(445kW)/7500rpm
エンジン最大トルク:585N・m(59.7kgf・m)/2250-7000rpm
モーター最高出力:95PS(70kW)
モーター最大トルク:225N・m(22.9kgf・m)
システム最高出力:700PS(515kW)/7500rpm
システム最大トルク:720N・m(73.4kgf・m)/2250rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)295/35ZR20 105Y(ピレリPゼロ コルサ)
ハイブリッド燃料消費率:4.8km/100km(約20.8km/リッター、WLTPモード)
EV走行換算距離:33km(WLTPモード)
充電電力使用時走行距離:33km(WLTPモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:3650万円/テスト車=--万円
オプション装備:--

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

マクラーレン・アルトゥーラ スパイダー
マクラーレン・アルトゥーラ スパイダー拡大
 
マクラーレン・アルトゥーラ スパイダー(MR/8AT)【海外試乗記】の画像拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

試乗記の新着記事
  • スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
  • ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
  • スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
  • トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
  • BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
試乗記の記事をもっとみる
マクラーレン の中古車webCG中古車検索
関連キーワード
関連サービス(価格.com)
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。