第867回:これもイタリアあるある? “イタリア版ETC”のサービス変更に物申す
2024.07.11 マッキナ あらモーダ!日本より12年も先んじていた“イタリア版ETC”
「テレパス(Telepass)」とは、イタリアにおける有料道路電子料金収受システムのことである。導入は日本のETCより12年も早い1989年。1990年開催のFIFAワールドカップ イタリア大会に合わせた、当時の目玉プロジェクトだった。
5.8GHzマイクロ波を使用したRFIDシステムであるのは、ETCと同じである。ただし、ETCの車載機が通信距離が長い代わりに電源が必要となるアクティブ型であるのに対し、テレパスはセミアクティブ型というものが採用されている。内蔵電池(公式資料によると寿命は約5年)が交換できないといった短所があるが、アクティブ型と比較して安価、かつ自分でフロントウィンドウに貼り付けて使える。
筆者がテレパスを最初に手に入れたのは、イタリアに住んで間もない2000年代初頭のことだった。ただし日本のETCが年間カード使用料や保険料だけで済むのに対し、テレパスは月額使用料が発生するプラン一択だった。そのためアウトストラーダ、つまり有料高速道路を使う頻度は決して高くない筆者は、しばらく使ってから解約してしまった。
以来、テレパスとは無縁の自動車生活を送っていたのだが、2021年6月に新たなタイプが導入されて事情が変わる。「ペイ・ペル・ユーズ(Pay per use)」というもので、使った月だけ2.5ユーロの使用料が通行料金に上乗せされるプランである。すなわち、高速道路を使わなかった月は、一切の費用がかからない。
筆者がそれに加入するため、端末を購入したのは2022年5月のことだった。場所はテレパス社の販売代理店であるフィレンツェ市内のタバコ店であった。手元の記録によれば、購入時に販売手数料5ユーロ+初回起動料10ユーロの合計15ユーロ(当時の換算レートで約2150円)を店頭で支払っている。
使った月だけプランは至って便利だった。われながら愚かだが、通行券受取ゲートや、有人支払ゲートに並ぶクルマたちを横目で見ながらテレパス専用ゲートを通過するたび、いっぱしのイタリア人になったような優越感にひたっていた。
2024年2月には、スイス、オーストリア、チェコそしてスロベニアの高速道路利用料前払い済証(ヴィニェット)も、テレパスのスマートフォンアプリから購入可能になった。従来のようにステッカーを貼ったり剝がしたり(特に後者は難航する)の手間から解放されたのだ。
ところがそれから約1カ月半後の同年4月18日、テレパス社から突然届いたメールが筆者を困惑させた。
突然の廃止通告
筆者を戸惑わせたメール、それは「使った月だけプランが2024年6月30日24時をもって廃止される」という告知だった。
続く文面は、月払い契約への切り替えの勧めだ。初年度は月額3.9ユーロが無料、加えて2024年9月30日までは全区間の通行料金が2割引という。さらに端末は送料無料でカラーも選べるらしいが、いずれも筆者にとって大してありがたくないオファーだ。そもそも歴史的円安下にある2024年7月現在、月額3.9ユーロは約680円である。たとえ走行しない月があっても、毎年8160円が消えてゆくことになる。とてもわが家のクルマ使用状況にふさわしくない。
読み進むと、新・使った月だけプランも説明されていた。だが従来1カ月あたりで計算されていた使用料が「1日あたり1ユーロ」に変更されている。月に3日以上使用すると、以前より高額になってしまう。さらに月払い、新・使った月だけプランのいずれも、新たな端末を入手する必要があるという。
これらのことを勘案すると、テレパスでサービスを再契約するというのはありえない。とはいえ、再び通行券発券機の列に並び、料金所では無愛想な収受員を相手にしなければならないのかと思うと、気がめいった。
サービス“改悪”のふたつの背景
実は、こうしたテレパスのサービス“改悪”には、背景がある。
欧州連合は2019年、有料道路電子料金収受システム事業の自由化を決定。それは2021年に発効された。これによって、イタリアではテレパス社は四半世紀にわたって続いた独占権を失ったのだ。
さらに、ある事故とも間接的に関連している。それは、2018年8月に発生したモランディ橋崩落事故(本欄第568回参照)だ。それを機会に、高速道路運営会社アウトストラーデ・ペリタリアの親会社で、ベネトン家が筆頭株主を務めるアトランティアへの批判が政官界から浮上。結果として同社は2021年、高速道路の運営権を手放した。
続いてアトランティアは、2023年3月にムンディーズと社名を変えた。ただし、従来の虎の子である高速道路運営を失った同社としては、同じく傘下にあるテレパス社の収益性を向上させる必要があった。その一環として、採算性が低い使った月だけプラン廃止に踏み切ったのは明らかだ。
筆者はといえば2024年6月21日、テレパス社からさらなる通知をメールで受け取った。「予定どおり、7月1日からあなたのペイ・ペル・ユーズは使用できなくなります」という告知はともかく、驚いたことに「デバイスの返却は2024年12月31日までです。未返却または返却が遅れた場合は、25.82ユーロの違約金があります」と、脅しのような文面まであった。方法は書留郵便、もしくは販売代理店への持参という。PDF出力した解約申込書への記入も必要だ。
勝手にサービスを終了するというのに、利用者にこれだけの手間を強いるとは。市場が自由化されたというのに、元・寡占企業の傲慢(ごうまん)さがにじみ出ていた。
“突然の告知”は続く
そこで市場開放された有料道路電子料金収受システムに、どのような企業が参入したのかを調べてみた。参考までに2021年、テレパスグループは有料道路電子料金収受サービスで2億0600万ユーロの営業利益を記録している。この牙城を切り崩そうとする企業とは?
1社は旧公社系電力会社エネルとサンパオロ銀行によるムーネイゴーである。もう1社は保険会社ウニポールによるウニポール・ムーヴだ。
両社の使った月だけプランを比較してみる。ムーネイゴーは手数料+端末郵送料が10ユーロ、使用料はテレパスより高い1日2.2ユーロである。同社の公式ウェブサイトでは、月払い契約の末尾に、小さな申し込みボタンがあった。やはり、使った月だけプランは儲けが少なく、勧めたくないのだろう。対するウニポール・ムーヴは、手数料5ユーロ、使用料は1日50ユーロセント。テレパスを含む3社中最も安い。
高速道路の使用頻度が少ないわが家の場合、ウニポール・ムーヴ一択だ。端末は既存の保険代理店に出向く必要があるが、調べてみるとわが家の周辺に3カ所もあるから問題ない。
ということで申し込もうとしたとき、新たな電子メールがテレパスから舞い込んだ。「現行の使った月だけプランを少なくとも2024年10月31日まで延長することを決定しました」というではないか。「交通量が多い夏に、ユーザーへの不便を避けるため。また多くのお客さまから期限延長の要望があったため」との説明が続いていた。
渋滞しやすい季節に人気プランを廃止したら、専用ゲートに誤進入するクルマが増えて危険極まりないのは火を見るより明らかだ。それを回避できただけでもよしとしよう。
次に情報に注意すべきは、10月以降だ。2024年4月に「アルファ・ロメオ・ミラノ」が発表され、その数日後「ジュニア」に変更されたのもしかり。最後までわからないことが多すぎるのがイタリアなのである。
(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢麻里 Mari OYA、Akio Lorenzo OYA/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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